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務川慧悟さんnote

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#エッセイ

果てある人生と、音楽

人生には意味があるのか、否か。哲学の領域ではあまりにも頻繁に命題となる問いである。
高校生の頃、尊敬する哲学の先生の授業があって、その影響から、よくこの問いに関して思索に耽っていた。もちろん高校を出てからも折に触れてはその答えを、日常の中に、そして音楽の中に、探した。

僕の暫定的な答えは…と言うよりはあくまで1つの生き方のスタンスとしてであるが、人生には結局のところ実質的な意味などない、というも

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小さな秋に寄す

秋は小さな季節ですから、今年もまた、早くも秋が終わりを迎えてしまおうとしています。

ところで、秋という季節は、余りにも美しくなかろうか。食欲の秋。読書の秋。。。ええい!そんな具体的な形容は、今は一旦置いておこう!1年のうちで最も不可思議に自然が色付く秋は、曖昧で、遠い夢を、私たちに多く見させてくれる。秋はどうしてこんなにも美しいのだろう、不思議で不思議でならぬと思ったいつかの僕は、「桜は散るから

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弱き淵より世界を臨む

一週間前に風邪を引いた。一週間前に「も」風邪を引いた、と言った方がより正確かもしれないが。

僕は極端に身体の弱い人間だ。小学生の頃、月に1度ずつは熱で学校を休んでいたし、高校生の頃には3年で4度インフルエンザにかかった。パリに来たての頃には、その空気と水が余りにも自分に合わなくってそれこそ年がら年中寝込み、その度に、どうして僕ばかりがこんなにも弱い人間なんだろう、と自責した。

そんなこんなが余

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純粋に随筆的、または単にぐちゃぐちゃとしてしまっただけの独言

「どうにかなる。どうにかなろうと一日一日を迎えてそのまま送っていって暮しているのであるが、それでも、なんとしても、どうにもならなくなってしまう場合があるーーー」

太宰治最初の短編集『晩年』に収められた小さな未完の一編『玩具』より、冒頭です。ところで一体全体こんなにもーーーなんという日本語で表現をしたらよいのかと迷いますけれどここでは敢えて"愛おしい"と言うことにしておきましょうーーーこんなにも愛

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飲み物から考察する「時間」

飲み物に幾度となく魅せられてきた。

フランスへ来て直ぐの頃にワインに魅せられ、その翌年「お茶をする」という日本語のたおやかな響きに何故だか突如ハッとなり紅茶にハマった。それからまた一年が経ち、イタリアで何気なく飲んだカプチーノがあまりに美味しくてコーヒーに取り憑かれた。他にも日頃、ちょっとした時間に好んで飲む飲み物もある。炭酸水や白湯。

これら「人類の飲用する液体物たち」の何が一体そんなにも魅

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ピアニスト(2)

旅が好きだ。

移動の日には朝から心が浮き立つ。朝早い電車に乗るのだけれども、その前にピアノの練習なんてしちゃおうっかなあ、など、思ったりして、早起きが決して苦ではない(早起きが苦でないのなんて、むしろ移動の日くらいのものではなかろうか)。晴れていれば尚更。乗り物の窓から差し込む光は眩しく、練習室の狭さ暗さによって溜まった疲労を全て溶かしてくれる。
電車や飛行機というのは移動する景色窓で、普段の生

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ムンクではないけれど…

ご時世がご時世でありまして、淡々と日々を生きています。でもそれかて悪くはないもんです、音楽においてだって、ドラマティックばかりがいつも善、ではないのですから…生活の中にも、きっとそのような性質がありましょう。

話は突然変わります。

一応このような職業をしていますから、「あなたにとって音楽とは何ですか。」という質問を幾度かされてきました。その都度、僕は曖昧な答えしかできず、辛酸を嘗めました(この

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ツルツルとガサガサについて

しばらくいくつかの活動の中に埋没しており(でもほんとうはもっと、色々とできるべきなのだろうけれど)、純粋なエッセイというものから遠のいてしまっていた。原点に戻ろう。どうでもよいような事が、いつでも最も大切だ(つまりそれらは、決してどうでもよくなどないということだ!)

2ヶ月以上も前、世の中が今よりも更に特別なムードであったあの時期に下書きに書き残してはいたものの仕上げをサボってしまっていた文章が

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ピアニスト(1)

どこからどこまでがピアニスト、日々これこれしてあれをしているからピアニスト、などと、きっちり線引きをするのはなかなか難しいことであって、そしてそれは別段しなければならないことでもないように思うのですが、ともかく側から見ればひとまず僕は、間違いなくピアニストなのであろうとは思います。まず、他のことが何もできない。そして、ピアノをとても頻繁に弾いている。1日のうちで音楽に関連付いて生きる時間って、12

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