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小説《魂の織りなす旅路》

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光たちからのメッセージ小説。魂とは?時間とは?自分とは?人生におけるタイミングや波、脳と魂の差異。少年は己の時間を止めた。目覚めた胎児が生まれ出づる。不毛の地に現れた僕は何者なの…
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#感覚

連載小説 魂の織りなす旅路#6/不毛の地⑷

連載小説 魂の織りなす旅路#6/不毛の地⑷

【不毛の地⑷】

 一体この男は何者なのだろう。どこから来て、どこに僕を連れて行くのだろう。

 「見えるものと見えないものの境目さね。」

 男は当たり前のように、僕の心に浮かんだ質問に答えた。

 「そこはここから近いのか?」

 どうせ答えらしい答えは返ってこないだろうと思いつつ、僕は聞く。

 「近いと思えば近いし、遠いと思えば遠いやねぇ。」

 どうやら僕を冷やかしているわけでないようだ

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連載小説 魂の織りなす旅路#41/時間⑹

連載小説 魂の織りなす旅路#41/時間⑹

【時間⑹】

 「わかるっていうのとは違うと思うの。わかるって感覚は、客観的でしょう? そういう客観的な感覚ではないんだよね。もっと、自分そのものって感覚かなぁ。
 栞が自分のことを知りたいと思うのって、すごく客観的な視点だよね。自分を外側から眺めようとしているっていうか。でも、そもそもね、自分を外側に置いて、そこから自分を眺めるなんて、できないと思うんだよね。」

 「わかりたいと思うことが、そ

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連載小説 魂の織りなす旅路#42/時間⑺

連載小説 魂の織りなす旅路#42/時間⑺

【時間⑺】

 「確かにそうかもしれない。でも、人生ってそういうもんじゃない? 自分1人で生きてるわけじゃないんだし、自分はどんな風に生きたいのかって疑問は、どうしたって社会と切り離しては考えられないよ。」

 「うん。だから、自分を感じるっていうのは感覚的なもので、どういう人生を生きたいかという思考的なものじゃないんだよね。」

 「あ、そっか。思考的なものじゃない。自分を感じたいって言いながら

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連載小説 魂の織りなす旅路#45/失明⑶

連載小説 魂の織りなす旅路#45/失明⑶

【失明⑶】

 「マンションってね、窓が1つしかないの。ベランダに通じる窓だけ。ほかの3面は分厚いコンクリートに覆われていて、仕事をしていると息が詰まっちゃう。独立したときに帰ってくればよかった。」

 独り身の娘は数年前に独立開業し、在宅の仕事をしている。社会人になってからというもの、この家に帰ってくるのは盆と正月だけで、それは独立開業後も変わらなかった。
 娘が30歳になったときお見合いを勧め

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連載小説 魂の織りなす旅路#49/暗闇⑶

連載小説 魂の織りなす旅路#49/暗闇⑶

【暗闇⑶】

 「はははっ、そうかぁ。不思議だよなぁ。お母さんは朗らかで清々しくて、とても魅力的な人だった。けれど、お父さんは寡黙というか、根暗というか・・・なぁ?」

 娘のクックックッと肩を震わせるような笑い声が聞こえてくる。

 「根暗ではないんじゃない? まぁ、寡黙かもしれないけれどねぇ。お母さんは差異が小さいお父さんと一緒にいるのが心地よかったのよ。」

 僕は言葉を失った。確かに妻は僕

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連載小説 魂の織りなす旅路#50/暗闇⑷

連載小説 魂の織りなす旅路#50/暗闇⑷

【暗闇⑷】

 「お母さんは、お腹の子は絶対女の子だって、調べる前から言っていたんだよ。調べてもいないうちから、女の子用のベビー用品をどんどん揃えていくんだ。あまりにも確信に満ちているもんだから、お父さんには止めようがなかった。」

 「うん。だってお母さんは本当に知っていたんだもの。当然よぅ。」

 「お腹の中の耀(ひかり)が、私は女の子よって教えたのかい?」

 「うーん。ちょっと違うなぁ。」

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連載小説 魂の織りなす旅路#51/暗闇⑸

連載小説 魂の織りなす旅路#51/暗闇⑸

 【暗闇⑸】

 「あのね、変な宗教ではないからね。私が実際に感じているって話なんだから。そういう怪しいのと一緒にしないでよぅ。」

 娘の声と水鉢の水の音が重なり合い、その向こう側から妻の声が聞こえてくる。

 《魂だなんて変に思うでしょ。でもね、何かの宗教とかいうんじゃなくて、私はそう感じているって話なの。》

 僕にどう話したらよいものかと不安げに口を尖らせているだろう娘に、僕は言った。

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