連載小説 魂の織りなす旅路#49/暗闇⑶
【暗闇⑶】
「はははっ、そうかぁ。不思議だよなぁ。お母さんは朗らかで清々しくて、とても魅力的な人だった。けれど、お父さんは寡黙というか、根暗というか・・・なぁ?」
娘のクックックッと肩を震わせるような笑い声が聞こえてくる。
「根暗ではないんじゃない? まぁ、寡黙かもしれないけれどねぇ。お母さんは差異が小さいお父さんと一緒にいるのが心地よかったのよ。」
僕は言葉を失った。確かに妻は僕にそう言った。なぜ陰鬱な性格の自分を選んだのかと、妻に尋ねたときのことだ。あなたは差異が小さいからと、妻は答えた。
「あ、お父さん、今驚いたでしょう? だから嘘じゃなくて、冗談でもなくて、本当のことなんだから。」
「ごめんごめん。信じるよ、信じる。それにしても、耀はお母さんのお腹の中にいたとき、差異なんて言葉を知っていたのかい? どうやったら赤ん坊がそんな難しい話を理解できるんだろうなぁ。」
「確かに不思議だよねぇ。でもね、なんだろ、言葉じゃないんだよね。感覚で伝わってくるの。その感覚をいろんな語彙を覚えた私が、あとから言葉に当てはめていったって感じかなぁ。」
「なるほどなぁ。でも、差異って言葉は、お母さんが実際に使った言葉だよ。よくこの言葉を当てはめたもんだ。大したもんだ。」
「ピンとくるんだよね。これだって。だからお母さんの使っていた言葉と同じになるんだと思う。」
あまりにも非現実的な話だが、僕には不思議と自然なことのように感じられる。
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