連載小説 魂の織りなす旅路#41/時間⑹
【時間⑹】
「わかるっていうのとは違うと思うの。わかるって感覚は、客観的でしょう? そういう客観的な感覚ではないんだよね。もっと、自分そのものって感覚かなぁ。
栞が自分のことを知りたいと思うのって、すごく客観的な視点だよね。自分を外側から眺めようとしているっていうか。でも、そもそもね、自分を外側に置いて、そこから自分を眺めるなんて、できないと思うんだよね。」
「わかりたいと思うことが、そもそも無理ってこと?」
「うん。わかろうとすると言語化しちゃうでしょ。言語化するっていうのは、目に見えないものを見えるものにするってことだと思うのね。
そもそも、見えないものを言語化するって、無理があるように思わない? 抜け落ちがあるっていうのかなぁ。無理やり言語の型にはめてしまうわけだから、無理が生じないわけないよね。」
「耀(ひかり)が言わんとしていることはわかる。すごくわかるんだけど、それでも、私は自分を感じるってどういう感覚なのかわからないし、耀みたいに自分を感じてみたいよ。」
「たとえば、どういう人生を歩みたいんだろうって疑問だけれど、人生って人間関係とか社会の仕組みとか、自分以外のさまざまな事柄と複雑に絡み合ったものでしょう?
そういうもろもろのフィルターを通した時点で、それは自分という本質のずっと外側にある、見える事柄を見ていることにしかならないから、見えない自分を感じることはできないんだよね。
自分という本質は、もっともっと根源的なもので、周りの時間の流れから自分を切り離して、自分の時間だけに身を置かないと、感じ取れないものなんだと思う。
他の人の時間や社会の時間の中にいても、そこから自分の時間の流れを見出すことはできないし、自分そのものを感じることはできないんじゃないかな。
言葉を代えて言うなら、他者のフィルターを通して自分を見ているうちは、客観的な感覚から抜け出せなくて、自分そのものという感覚には至れないってことかなぁ。」
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