連載小説 魂の織りなす旅路#51/暗闇⑸
【暗闇⑸】
「あのね、変な宗教ではないからね。私が実際に感じているって話なんだから。そういう怪しいのと一緒にしないでよぅ。」
娘の声と水鉢の水の音が重なり合い、その向こう側から妻の声が聞こえてくる。
《魂だなんて変に思うでしょ。でもね、何かの宗教とかいうんじゃなくて、私はそう感じているって話なの。》
僕にどう話したらよいものかと不安げに口を尖らせているだろう娘に、僕は言った。
「ああ、わかるよ。お母さんも同じことを言っていたからね。」
「お母さんも?」
「ああ。魂のことを話していたときに、宗教とかいうんじゃなくて、私はそう感じているんだってね。お母さんが耀を妊娠するよりずっと前の話だよ。」
「そっかぁ。お母さんは魂が解放された人だったから、お父さんに話さずにはいられなかったんだね。」
「魂が解放されたって?」
「だからね、さっき言った感覚を研ぎ澄ましていくと、魂が解放されるの。」
「何から?」
「体という物質よぅ。体の境界線から魂が解放されるの。お父さんの言う、空間に自分が溶け込んでいくような感覚っていうのはね、魂が体から解放されて・・・ああ、上手く言葉が見つからないなぁ・・・その、ね、魂にしか感じ取ることのできない何かがあるのよ。それを感じ取れるようになるってことなの。」
「魂にしか感じ取れない何か、ねぇ。お父さんはまだ何も感じ取れてはいないよ。体の境界線が空間に融和していく感覚はとても気持ちがいいけれどね。」
「これからよ。これから。私とお母さんはそれができたから、おしゃべりができたの。物質で会話していたんじゃなくて魂で響き合っていたのよ。」
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