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短編集

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5,000文字~30000文字程度の,1話完結作品集.ファンタジー・ホラー色強いです。マガジン表紙画像は、柴桜様『いろがらあそび6』作品No.44をお借りしています⇒https:… もっと読む
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記事一覧

月花の冠

月花の冠

――冷たい月花の冠を頂いて、彼女は永遠に眠り続ける――
ある日突然、二度と目覚めない眠りに就く――。
そんな奇病が蔓延した世界で生きる真波は、ある決断を迫られていた。
取るべきものは、己の責務か、それとも……。

悪夢の目覚め

 夢の中で、真波は彼女と踊っていた。舞台の上、そろいの衣装を着て、互いに見つめ合いながら、互いの呼吸を読み合いながら。
 頭の中は冷たく冴えわたっているのに、胸の内は熱く

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ひそみの面(おもて)

ひそみの面(おもて)

――神仏を探せ、お前の神仏を――

 その腕をいつまでも師匠に認めてもらえず、くすぶっている面打ちの千秋。
 ある日、用事で下った村の鎮守で、見事な面と、不思議な少女に出会う。
 その醜さゆえに面を付けなければ人前に出られないという少女に、割れた面の代わりのものを打つことを約束したが、思うような面はなかなかできなかった。

 室町時代辺りをイメージした,ちょっと不思議なホラーテイストの創作小説です

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鬼の末裔

鬼の末裔

――私は毎日、夕方になると、ある言葉を唱えなければいけない。
でないと、「あの世」に迷いこんでしまうから――
オリジナルの短編小説です.よろしければお付き合いを.

1「近藤さん、一緒に帰ろう」
 そう言われ、私はきょとんとして相手の顔を見やった。同じクラスで、一緒に体育祭実行委員をやっている男子生徒だ。ついさっきまで委員の話し合いをしていて、やっと解放されたところだった。
――ごめん。悪いけど、

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花の香りに誘われて

花の香りに誘われて

――世の中には「自分さえ知っていればいいこと」もあるの――

ある日、押入れの奥に見つけた文箱。
「都忘れ」の香りを閉じ込めた小さな箱の中には、
今は亡き祖母の「秘め事」が仕舞い込まれていた。

短い溜め息のような,他愛無い短編ですが、よろしければお付き合いを。

1 ――拝啓  秋立つとは申せ、残暑厳しき折から、いかがお過ごしでしょうか。――

 そんな古風な書き出しで始まる祖母の手紙を見つけた

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女王の城

女王の城

――彼女は、「裸の女王」だったんだ――

祖母の死を知らされた私は、深夜の高速バスに乗って帰省した。
悲しいとは思わなかった。
記憶の中の彼女は私にとって、恐れの対象でしかなかったから。

短編です.よろしければお付き合いを.

1 祖母が亡くなったと報せを受けたのは、大学の講義が終わり、ちょうどバイト先に着いた瞬間のことだった。
 私はそのまま出勤し、帰り掛け、バイト担当の社員であるAさんに「明

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野良、始めました。

野良、始めました。

――どちらに転がるにしても、相応の覚悟は必要だよ――
かつて「囲われ者」でありながら、自ら望んで「宿なし」の道を選んだ一匹の猫。
今わの際に恩師がもらした一言が、過去の記憶を呼び起こす。

ヒューマンドラマというか,ニャーマンドラマ?
よろしければ,お付き合いを.

1――どちらに転んでも、相応の覚悟は必要だよ――
 そう言って、その年寄りはこと切れた。路上で途方に暮れていた俺に、生きる術を色々と

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虚ろな星が瞬いて

虚ろな星が瞬いて

「お祭り、案内して欲しいな」
美女と評判の担任教師から言われた思いがけない一言に心をかき乱され、俺は何も言えずにその場から逃げ出した。
そして夏休み、思いがけない場所で出合った彼女に、思いを打ち明けるが……?
一筋縄ではいかない、最初の一口だけちょっと甘くて、あとはとっても苦い青春譚。

1 ――何かをしたい者は手段を見つけ、何もしたくない者は言い訳を見つける――
 そんな諺がどこかの国にあったな

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残り時間の数え方

「あと5分もある」
 そんな呟きが隣から聞こえて、チラリとそちらを見やった。上品なラベンダー色のワンピースをまとった女性が、ポットから自分のカップへお茶を注いでいる。
 平日の昼下がりの喫茶店には、商談中のサラリーマンや、一目でフリーランスのライターか何かと分かる若い男、そして自分と、一つ空けた隣の一人用のテーブル席にいるその女性しかいなかった。
――どうせ子供のいない有閑マダムだろう。優雅なご身

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花守人の憂鬱

花守人の憂鬱

――花守人(はなもりびと)の瑠璃(るり)は、ただじっとして、そのときが来るのを待っていた。
 彼女の仕事のうち、いちばん重要で、いちばん時間を割かなければならなかったのは、“待つこと”だった。――
 久しぶりに、短編をひとつ書き上げましたので、お届けします。
よろしければ、お付き合いを。

 ★ 本編 ★

 花守人(はなもりびと)の瑠璃(るり)は、ただじっとして、そのときが来るのを待っていた。ま

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短編3.イテュスの竪琴(後)

短編3.イテュスの竪琴(後)

夏休み、父親の実家へとやってきた少女・初音。
大学生の従姉から、この土地に伝わる伝説と、数年に一度おこる神隠しの話を聞いた夜、神隠しにあう。
迷いこんだ洞窟の中で、少女はお山の過去と、亡き母の秘密とを垣間見る。

少しホラー風味の,現代ファンタジー作品後編です.
お時間ありましたら,是非お付き合いをお願いします.

 ずいぶんと長い間、初音は膝に顔を埋めたまま、じっとしていた。そのうちに、蜂が飛び

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短編3.イテュスの竪琴(前)

短編3.イテュスの竪琴(前)

夏休み、父親の実家へとやってきた少女・初音。
大学生の従姉から、この土地に伝わる伝説と、数年に一度おこる神隠しの話を聞いた夜、神隠しにあう。
迷いこんだ洞窟の中で、少女はお山の過去と、亡き母の秘密とを垣間見る。

少しホラー風味の,現代ファンタジー作品前編です.
お時間ありましたら,是非お付き合いをお願いします.

 初音はふと、目を覚ました。何の前触れもなく、ぽつりぽつりと雨が降り出すように。薄

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短編2. ねずみたちの眠り唄

短編2. ねずみたちの眠り唄

——「ねずみに気をつけて」この母の言葉の本当の意味に気がついたとき、少女はひとつの決断を下した——

過去の作品第二弾です。よろしければお付き合いを。

 その日は朝から、ぱらぱらと雨が降っていた。雨はその勢いを増しながら日中も降り続き、夕方、小夜が小学校から帰る頃には、すっかり土砂降りになっていた。
「小夜」
 母が玄関から小夜の名を呼んだ時、小夜は居間の畳の上に寝そべって、見るとも無しにテレ

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短編1. 夕焼け色の鵞鳥

短編1. 夕焼け色の鵞鳥

——そうだね、ここは天国と言ってもいいのかも知れないよ。
だって、空の上にあるもの。——

 アップロードの練習をかねて、昔のおはなし第一弾です。 
 よろしければ、お付き合いを。

「鵞鳥が一匹足りないや」

 茜が誰とも無しにそう呟くと、その傍らでせっせと鵞鳥達の糞の後始末をしていた葵が怪訝な顔を茜に向けた。「何だって?」

「一番大きい紅色の奴。去年は居たのに」

 茜の言葉に、葵はああ、と

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