見出し画像

黒船の軍楽隊 その5

 3月31日(嘉永7年3月3日)に日米和親条約(神奈川条約)が締結し、1年後に開港することとなった箱館をペリーは訪れました。5月17日(嘉永7年4月21日)から6月3日(嘉永7年5月8日)の18日間の日程で松前藩との事前交渉のほか、水や欠乏品の補給、湾内の測量・海図の作成、地引網を使った魚介類の調査、気象・鉱物・植物などの調査が行われました。


オラトリオ「サウル」HWV 53

 ペリーの箱館滞在中に2人の海軍水兵が亡くなり箱館の地に埋葬されました。これが箱館外人墓地の始まりです。5月26日(嘉永7年4月30日)と5月28日(嘉永7年5月2日)2日にそれぞれの埋葬式が執り行われ、ヘンデル(George Frederick Hendel 1685-1759)作曲のオラトリオ「サウル」の第3幕 第4場 第77曲「葬送行進曲」が笛と太鼓で演奏されました。

墓標と楽譜

1854年 2人のアメリカ海軍水兵の墓標
Oratorio Saul Act III Dead March (図2)

音楽会の開催5月29日(嘉永7年5月3日)

 ペリー提督が箱館に到着してから12日、箱館を離れる5日前にポーハタン号後甲板で音楽会が開催され、このプログラムも確認することができます。

箱館公演プログラム

*は横浜公演と異なるプログラム

第1部 「北部の黒人紳士風に」

 大序曲(GRAND OVERTURE.) 不詳
1.*バージニア・ローズ・バッド(VIRGINIA ROSE BUD)  (図3)
    不詳
2.*ダーキーズ・セレナード (DARKIES SERENADE)   (図4) 
   H.Avery作曲
3. お嬢さん、結婚しませんか (LADIES WON’T YOU MARRY)
    不詳
4. サリー・ウィーバー (SALLY WEAVER)
    不詳
5.*オー、ミスター・クーン (デュエット)(OH! Mr. COON) (図5)
   Christy's Minstrels作曲
6 オールド・グレイ・グース (OLD GREY GOOSE,)
    不詳

第2部 「南部の農園黒人風に」

1.*ライフ・バイ・デ・ギャレー・ファイア (LIFE BY DE GALLEY FIRE) (図6)
   Ethiopian Serenaders作曲
2.*ゲット・アップ・イン・ザ・モーニング (GET UP IN DE MORNING) (図7)
   William Whitlock作曲
3. 主人は冷たい土地の中に (MASSA’S IN DE COLD! COKD GROUND)
    不詳
4. サリーおばさん (OLD AUNT SALLY)
    不詳
5.*スージー・ブラウン (SUSEY BROWN)  Full Band  
    不詳

------
ソロ・ヴァイオリン 演奏 C.マクルーイ
------

最後にブルワーの有名な風刺劇『リヨンの淑女』のパロディーを3人の役者がバンド音楽伴奏付きで上演

演奏曲楽譜

1-1 VIRGINIA ROSE BUD (図3)
1-2 DARKIES SERENADE (図4)
1-5 OH! Mr. COON (図5)
2-1 LIFE BY DE GALLEY FIRE (図6)
2-2 GET UP IN DE MORNING (図7)

プログラム原本

箱館公演プログラム(図8)

 この他に箱館では、ヤンキードゥードゥル(アルプス1万尺)、讃美歌「オールド・ハンドレット」「コロンビア万歳!」などが横浜同様に演奏されたと思われます。


脚注


(図1) 亜墨利加一条写 〔第1〕P.128-131 小嶋又次郎 著, 函館郷土文化会 編 函館郷土文化会 出版 1953年
(図2) 葬送行進曲ピアノ譜 
(図3) バージニア・ローズ・バッド(VIRGINIA ROSE BUD) https://www.loc.gov/item/2023803487/
(図4) ダーキーズ・セレナード (DARKIES SERENADE) https://www.loc.gov/item/2023806848/
(図5) オー、ミスター・クーン (デュエット)(OH! Mr. COON) https://www.loc.gov/item/2023801249/
(図6) ライフ・バイ・デ・ギャレー・ファイア (LIFE BY DE GALLEY FIRE)https://www.loc.gov/item/2023801291/
(図7) ゲット・アップ・イン・ザ・モーニング (GET UP IN DE MORNING) https://www.loc.gov/item/2023800608/
(図8) 箱館公演プログラム 第2部開始時に横浜公演にあった「大序曲」が欠けています


他の黒船の軍楽隊シリーズ

黒船の軍楽隊 その0ゼロ 黒船の軍楽隊から薩摩バンドへ 

黒船の軍楽隊 その1 黒船とペリー来航
黒船の軍楽隊 その2 琉球王国訪問が先
黒船の軍楽隊 その3 半年前倒しで来航
黒船の軍楽隊 その4 歓迎夕食会の開催
黒船の軍楽隊 その5 オラトリオ「サウル」HWV 53 箱館での演奏会
黒船の軍楽隊 その6 下田上陸
黒船の軍楽隊 その7 下田そして那覇での音楽会開催
黒船の軍楽隊 その8  黒船絵巻 - 1
黒船の軍楽隊 その9  黒船絵巻 - 2
黒船の軍楽隊 その10 黒船絵巻 - 3
黒船の軍楽隊 その11 ペリー以外の記録 – 1 (阿蘭陀) 
黒船の軍楽隊 その12 ペリー以外の記録 – 2 (阿蘭陀の2) 
黒船の軍楽隊 その13 ペリー以外の記録 – 3 (魯西亜) 
黒船の軍楽隊 その14 ペリー以外の記録 – 4 (魯西亜の2) 
黒船の軍楽隊 その15 ペリー以外の記録 – 5 (魯西亜の3) 
黒船の軍楽隊 その16  ペリー以外の記録 – 6 (魯西亜の4)
黒船の軍楽隊      番外編 1 ロシアンホルンオーケストラ
黒船の軍楽隊      番外編 2 ヘ ン デ ル の 葬 送 行 進 曲
黒船の軍楽隊 その17  ペリー以外の記録  -7 (英吉利)
黒船の軍楽隊 その18  ペリー以外の記録  -8 (仏蘭西)
黒船の軍楽隊     番外編 3 ドラムスティック
黒船の軍楽隊 その19 黒船絵巻 - 4 夷人調練等之図


ファーイーストの記事

「ザ・ファー・イーストはジョン・レディー・ブラックが明治3年(1870)5月に横浜で創刊した英字新聞です。
 この新聞にはイギリス軍人フェントンが薩摩藩軍楽伝習生に吹奏楽を訓練することに関する記事が少なくても3回(4記事)掲載されました。日本吹奏楽事始めとされる内容で、必ずや満足いただける読み物になっていると確信いたしております。

 是非、お読みください。

「ザ・ファー・イースト」を読む その1   鐘楼そして薩摩バンド
「ザ・ファー・イースト」を読む その1-2  鐘楼 (しょうろう)
「ザ・ファー・イースト」を読む その2   薩摩バンドの初演奏
「ザ・ファー・イースト」を読む その3   山手公園の野外ステージ
「ザ・ファー・イースト」を読む その4   ファイフとその価格
「ザ・ファー・イースト」を読む その5   和暦と西暦、演奏曲
「ザ・ファー・イースト」を読む その6   バンドスタンド
「ザ・ファー・イースト」を読む その7   バンドスタンド2 、横浜地図

SATSUMA’S BAND 薩摩藩軍楽伝習生

writer HIRAIDE HISASHI

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?