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東京帰省日記

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長崎に移り住み2年経つ移住者が、久しぶりに東京に帰省した時の日記です。
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日常に戻る / 東京帰省日記⑧

日常に戻る / 東京帰省日記⑧

前回の続き。

長崎に帰ってきた。

バスを降り、大通りから少し外れた道を歩いて、市街地中心部へ向かう。絵に描いたような気持ちの良い青空。時折吹き抜ける風は、水分を含んでいるのか、少しひんやりしている。長崎駅周辺といえば、県内では空気が澱んでいる部類に入るのだろうけど、それでも、澄んだ空気を全身に感じて心地良い。

歩くにつれて、どんどんと普段の日常に戻っていく。いつもの道を歩き、いつもの仕事場に

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家族 / 東京移住日記⑦

家族 / 東京移住日記⑦

前回の続き。

 ピンポンを押すと、しばらくして父が出てきた。最後に会った時と、あまり変わらない見た目にほっとする。この家に帰ってくるのは、もう何年振りだろう。田園都市線某駅からほど近くの2Kのマンションで、自分が大学生の時に引っ越してきた。それ以前は、駅からバスで20分ほど行った団地に住んでいたが、3人の姉(ついでに母も)が自立して家を出たこともあり、駅近かつ小ぶりなこの部屋に越してきたのだ。

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距離 / 東京帰省日記⑥

距離 / 東京帰省日記⑥

前回の続き。

 新宿は朝から小雨が降っていた。滞在4日目にもなると、もう特段することもない。あとは今日の午後、両親に顔を出すだけだ。そして明日の朝早く、長崎へ帰る。親と会う約束の時間までだいぶあるので、雨宿りがてらカフェに入った。

 店内はお客さんでほぼ満席で、レジには4~5名が並んでいた。ラテを注文し、空いていたレジの側のカウンターテーブルに座る。自分に与えられたスペースは、縦横60cmくら

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記憶 / 東京帰省日記①

記憶 / 東京帰省日記①

 2年ぶりに東京に戻ってきた。長崎に移住してから、かれこれ2年以上家族と会っていない。流石にそろそろ両親に顔を見せようと思って、帰省することにした。

***

 夜。品川で新幹線を降り、構内を歩く。久しぶりの駅の雑踏。仕事帰りの会社員と思われる人たちで、そこそこの混み具合である。人の多さや動きの速さに、何かしら心が反応するかと予想していたが、思いの外、何も感じなかった。足早に人混みを抜けて、山手

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高級ホテルと高層ビル / 東京帰省日記②

高級ホテルと高層ビル / 東京帰省日記②

前回の続き。

 今回の東京滞在は、HafHを最大限活用した。HafHとは、旅のサブスクサービスである。長崎移住の際にめっちゃお世話になり、今も長崎のHafH施設の運営のお手伝いをしていたりする。ちょうど、HafHのポイント(コイン)が大量に溜まっていたので、それを活用して「東京の高級ホテル」を体験してみることにした。

 近頃「長崎には高級ホテルが必要」と言う声を聞いたり、実際にホテルの建設が進

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渋谷と武蔵小杉と新丸子 / 東京帰省日記③

渋谷と武蔵小杉と新丸子 / 東京帰省日記③

前回の続き

 渋谷に着いた。駅の地下道には、人間の湿気が充満している。

 今日は一日用事がない。長らくTOKYUカードに溜まっていたポイントを、券売機でPASMOにチャージする。数万円分ある。これで、古くなっている靴とリュックを買い替えよう。

 渋谷は相変わらず人が多い。スクランブル交差点を抜け、LOFTに着く。色々と物色してみるものの、ピンとくるものに出会えない。近くに良さげな鞄屋さんもな

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行きつけの飲み屋で / 東京帰省日記④

行きつけの飲み屋で / 東京帰省日記④

前回の続き

 行きつけだった、新丸子の飲み屋へ向かう。

 この辺りの街並みは、あまり変わっていない。よく通っていた定食屋、クリーニング屋、パン屋。まちを離れる直前にオープンしたアイスクリーム屋は、すっかり地域の人気店として根づいているようだった。新丸子を離れてもう四年近くになるが、昔と変わらない雰囲気にとても落ち着く。

 角を曲がってしばらく歩くと、懐かしいオレンジ色の看板が見えてきた。お店

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落語 / 東京帰省日記⑤

落語 / 東京帰省日記⑤

前回の続き。

 翌る日、浅草に落語を見に行った。

 初めて落語を見たのは、大学生の時。落語研究会主催の寄席イベントだった。その頃、日本の伝統芸能に興味が湧いており、落語の他にも歌舞伎や能などを観に行っていた。「『落語は古い』はもう古い」という、乙なコピーに誘われて、大学での落語公演を観に行った。

 そのイベントで、一番印象に残ったのが、古今亭文菊師匠。明瞭で渋い声、人物の演じ分け、キャラの立

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