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記憶 / 東京帰省日記①

 2年ぶりに東京に戻ってきた。長崎に移住してから、かれこれ2年以上家族と会っていない。流石にそろそろ両親に顔を見せようと思って、帰省することにした。

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 夜。品川で新幹線を降り、構内を歩く。久しぶりの駅の雑踏。仕事帰りの会社員と思われる人たちで、そこそこの混み具合である。人の多さや動きの速さに、何かしら心が反応するかと予想していたが、思いの外、何も感じなかった。足早に人混みを抜けて、山手線のホームに向かう。プラットホームに着くとすぐに、緑色の車両が目の前に現れた。

 会社員時代、営業として働いていており、山手線にはよく乗っていた。電車が動くにつれて、かつての記憶が思い出されてくる。取引先に向かう車内。相手先の情報収集をして、脳内で営業リハーサルを済ませ、ひっきりなしに届くSlackを、次々と打ち返していく。

 かつての記憶が呼び起こされるにつれて、闘争心というか、アドレナリンというか、そういう何かが、湧き出るのを感じた。と、同時に不安と迷いも感じた。こういう「戦闘モード」のような感覚が、あまりに久しぶりだったからだ。今、自分は長崎で充実した暮らしを送っている。比較的ゆったりと。そのことに満足している一方で、「一生に一度の若い時間を、ゆっくり過ごして良いのだろうか」と不安になることがある。ただ、この不安が生じること自体、東京というか都市の価値観に、毒されているような気もする。まだ、身の振り方に、迷いながら生きている。

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 電車を降り、街を歩いて、驚いた。臭いのだ。うっすらとドブのような匂いがする。東京湾が近いからなのか、なんなのか知らないが、とにかく臭い。昔、東京にいた頃は気づかなかった。

 よく、地方の人が「ここには何もない」と言うが、「綺麗な空気」だけですら、十分価値があるな、と思った。綺麗な空気はいろんな地方にあるので、それだけでは足りないのかもしれないけれど。

 そんなことを考えつつ、ホテルに向かう。道中、訳分からんくらいの高さの高層ビルがたくさん立っていた。不思議な気持ちで、久しぶりの東京の夜を歩く。

次回に続く

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