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距離 / 東京帰省日記⑥

前回の続き。

 新宿は朝から小雨が降っていた。滞在4日目にもなると、もう特段することもない。あとは今日の午後、両親に顔を出すだけだ。そして明日の朝早く、長崎へ帰る。親と会う約束の時間までだいぶあるので、雨宿りがてらカフェに入った。

 店内はお客さんでほぼ満席で、レジには4~5名が並んでいた。ラテを注文し、空いていたレジの側のカウンターテーブルに座る。自分に与えられたスペースは、縦横60cmくらいだろうか。真横に座るおじさんは、しきりにスマホをいじっている。この店内では全員が、とても近くにいるのに遠くにいる。東京における、この物理的な近さや狭さは好きではないが、心理的な距離や匿名性は、嫌いではない。

 雨が止んだ。タイ料理屋で腹ごしらえをして、電車に乗る。母と二子玉川でお茶することになっている。新宿三丁目から自由が丘、乗り換えて二子玉川へ。どこに行っても人がいる。

 早く着きすぎたので、ファストフード店で時間を潰す。1階が満席なので2階に上がると、所狭しと人がいて、まるで何かの工場のようだった。私に与えられたスペースは、先ほどのカフェより狭くなっていた。コーヒーは意外と美味しい。

***

 母は元気そうだった。

 以前からハマっていたカメラに、更にのめり込んでいる。最近は毎週末、カメラ友達と野鳥を撮りに行っているらしい。通称「バズーカ」と呼ばれる望遠レンズや、それを支える三脚も買ったそう。ガチである。そういえば、どことなく若くなったような気もする。いくつになっても、趣味を持ったり、気の会う友人と付き合うことは、大事だなと思った。

 近況を聞く。なんとなく話は聞いていたが、父と離婚したらしい。と言っても、別に大したことではない。これは2度目の離婚なのだ。自分が小さい時、両親は離婚した。その後、同じ鞘に収まる形で復縁し再婚。そして今、再びの離婚なのである。夫婦関係とは、なかなか難儀なものである。

 子供の頃、両親の離婚を大ごとのように捉えていた。しかし、大人になるにつれ考えが変わった。大学時代、北欧に滞在した時に「離婚なんて、よくあることで普通」という価値観に触れた。これが大きかった。(最近はどうなのか知らないが)日本で離婚というと、良くない印象があるかもしれない。ただ、それはあくまで一つの価値観であって、絶対的なものではない。

 父と母。この二人は自分にとって、「親」としては、深い感謝と尊敬の対象であり、「夫婦」としては、反面教師みたいな存在である。

 母と解散したあとは、実家に向かう。次は父と夕飯を食べる予定だ。

次回に続く。

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