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家族 / 東京移住日記⑦

前回の続き。

 ピンポンを押すと、しばらくして父が出てきた。最後に会った時と、あまり変わらない見た目にほっとする。この家に帰ってくるのは、もう何年振りだろう。田園都市線某駅からほど近くの2Kのマンションで、自分が大学生の時に引っ越してきた。それ以前は、駅からバスで20分ほど行った団地に住んでいたが、3人の姉(ついでに母も)が自立して家を出たこともあり、駅近かつ小ぶりなこの部屋に越してきたのだ。

 かつては10年近く2人で暮らしてきたというのに、家を出ていざ再会してみると、何を話してよいのやら。なんだか小恥ずかしい気分になる。多分、世の中の父と息子の常だろう。しばらく他愛もない話をしていると、姉たちが家にやって来た。この帰省では、父と母だけに会うつもりで個別に連絡していたのだが、どこからか話が伝わり姉たちが顔を見に来た。今晩は、父と自分と3人の姉たちで、外食に出かけることになった。

 家からほど近い店に入る。この顔ぶれで食事するのは珍しい。というよりも多分初めてだ。姉たちとは随分歳が離れており、自分が子供の頃には、皆自立し家を出ていた。なので、姉たちと食卓を囲んだり、一緒に外食をした記憶がほとんどない。正月などには家族で集まるものの、親戚一堂が集まるので、品川家のみでこういう食事をするのが本当に珍しい。変な気分だ。

 食事は意外と楽しかった。姉たちが喋りまくっていたため、父とはほとんど会話できなかった。けれど、それでよい。「顔を見せる」が今回の帰省の目的なのだ。お互い元気な姿を確認する。多分、父と息子はそれだけで十分なのだ。まあ、本当のところは、自分が親になった時初めて、分かるのかもしれないけれど。

 この夜、何を話していたのか、今ではすっかり忘れてしまった。ただ、父も姉も皆、元気そうで良かった。わざわざ会いに来てくれた姉たちにも感謝である。久しぶりに、家族というものを感じた1日だった。

次回に続く。


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