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#小説
短編小説「雪は降る、夜汽車は進む 月兎夜話」
僕は顰め面して文机に臨み、頻りに有無有無と唸っている。
唸り乍らも気はそぞろで、ペン先を繰る繰る回したり、原稿用紙にうさぎの絵など描いたりして遊んでいる。
「ニンジン大好き!」
とうさぎが言った。
その傍らに人参畑を描いて、うさぎ達が人参の収穫をしている。丸々と太ったうさぎたち。きっとうさぎの村では今夜は人参パーティを行うのだ。人参ペーストを練り込んだスポンジに人参の甘露煮と生クリームをデコレ
短編小説「駄菓子蟲を飼う」
古田美津子は更衣室でブラウスを脱いだ。
脱いで、露になった柔肌をつい隠した。
隣に古田美津子より十歳年若の後輩社員が明日より始まる三連休に、ムチムチと浮かれていた。
古田美津子の扁平な体を、後輩、野木真理が嗤ったような気がした。
「先輩の胸は扁平ですね。」と野木真理が言ったような気がした。
「でも、腰回りは重厚感がありますね。」と野木真理が言ったような気がした。
「肌には年齢の深みを感じます、そう
短編小説「ダーリン・イズ・イン・モノクローム」
全く俺はツイテない。
紡績工場に勤めるチャーリー・レッドマンは冷や汗を垂らしながら考えた。
今朝、チャーリーはいつもより半刻早く目が覚めた。
なんてツイてないんだ!とチャーリーは思った。
もっと眠っていたかったのに!
時間が出来たため、いつもなら簡素に済ませる朝食(トースト)にハードボイルドエッグを添えて、テレビを付けた。
ニュースの時間だった。ニュースキャスターがこの国は不況だ、と言った。テ
短編小説奇々怪々「ひとだま饂飩」
第一景「実録うどんの怪」
「屋台」(Kさん・40代男)この前さ、家に帰るのに近道しようと思って。
墓地を通るんだけどさ。もう深夜になろうかという時間で。
墓石が黒い影になって並んでるんだよね。
墓石って全部形が違うじゃない。
高さとか大きさとか。それが影になってると
人が並んでるように見えるんだよね。そうしてさ、みんなこっち見てるような気になるの。
それで、良いお墓と悪いお墓がなんとなく分か