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エッセイ

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#エッセイ

栄光なき冒険家

栄光なき冒険家

 2、3日前、福岡でビルの7階から落ちて重症を負った40男のニュースを見た。隣のマンションの住人が助けを求める声を聞いてベランダから下を覗くと、両腕から血を流した男が倒れている。「どうしましたか?」と訊いても「わからない」と答え、「救急車を呼んでください」と言う。上には屋上から迫り出した梯子があり、そこから2本のロープが垂れている。幸い救急隊員が到着して搬送され、命は助かった。どうやら向かいの7階

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Gang lives matter

Gang lives matter

小1の息子とPS4のゲーム「北斗が如く」をやった。このゲームは往年の人気漫画「北斗の拳」をモチーフにしたアクションRPG。

最初に「出血表現をマイルドにしますか?」と聞かれて吹いてしまった。敵を攻撃した時の血が赤くなるか透明になるかの違いなのだが、「鬼滅の刃」を見ているとすぐ目を覆ってしまうチビっ子には確かに刺激が強い。

廃墟と化した街の中で追ってくる雑魚ギャングたちをぶちのめして殺しながら思

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自称悪気なし

こないだ車に乗ってたら、片側2車線の道の一方をワンボックスカーがハザード出して塞いでいた。隣に上下ピチピチのウェアを着たサイクリストが2人立っている。サイクリストも車のドライバーも道路上でスマホをいじっている。

車が自転車を引掛け転倒させたか、自転車が追い越し様に車に擦ったか、そんなところだろう。
サイクリストは余裕の表情、ドライバーはしょっぱい顔なので、悪いのはドライバーなのだと思う。
「やれ

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一瞬のナンパ師

一瞬のナンパ師

真夏の九州の空港に降り立ったその日は、出張の移動日で仕事は何もありませんでした。空港でレンタカーを借りてホテルへ向かおうとしたんですが、まだ昼過ぎだったのでこのままチェックインしてもつまらないなと。また、その受付の子がちょっとかわいかったんですね。気づけば、口が勝手に動いていました。

「何時に仕事終わるの?」

誤解のないように言っておきますけど、ナンパなんてしたこともないし、生来シャイでそんな

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モンキーマジック

モンキーマジック

某ブラック系運送会社に勤めるMから聞いた話。仕事のキツさと長時間労働では定評のあるその会社は慢性的な人手不足で忙しい。そのため、「世間的にはかなり問題のある人でもけっこうクビにならずに働ける」とのこと。

「今度おれの部署に来た人はさ、忙しくなってテンパるとまともに喋れないし、ブツブツ独り言言いながら自分の世界に入っちゃったりして、もうほとんど“猿”になるんだ。」

「“猿”?」

「『◎◎さん、

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いわれなき苦しみを抱いて

いわれなき苦しみを抱いて

それはひどい事故だった。

高速道路を走行中の観光バスの運転席に対向車線で脱輪したトラックのタイヤが直撃したのだ。重さ100kgのタイヤと高速で正面衝突したのだから運転手のSさんはほぼ即死だった。脱輪した原因は、トラックを所有する産廃業者が法律で義務づけられた安全点検を運転手に一任しており、運転手がそれをなおざりにしていたことだった。これだけで十分痛ましい事故だけれど、続きがある。

Sさんはとて

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マニラに高飛びしたくなった日

マニラに高飛びしたくなった日

ちょっと前、フリマアプリで不要品を処分していた時のこと。

モノは良いけど、かなりガタがきてメンテの必要なロードバイクを出品すると、すぐに応募があった。

車で引き取りに来たHさんはすこぶる感じの良い初老の男性だった。自分で修理できるというので交渉成立し、引き取ってもらうことに。

いざ自転車を車に積み込むという時になって、Hさんは言った。

「ちょっとまけてくれませんか?」

来たよ、来たよ。ア

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厄介事のような顔をして

厄介事のような顔をして

犬を飼っている。推定16歳の紀州犬のメス犬で名はネル。妻が拾った犬なので正確な歳はわからない。ネルはとても控えめな犬だ。飼い主に吠えて自己主張することが一切ない。腹が減ったり散歩に行きたければ、上目遣いにじっと見つめるか、生活動線上にわざと横たわって静かにアピール。

ところがこの淑女、相手が犬になると豹変して「殺すぞ!」と言わんばかりの勢いで猛烈に吠え、背筋の毛を逆立てて飛びかかろうとする。たと

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ほぼ感謝しかない

ほぼ感謝しかない

流行る言い回しというのがある。誰かが言い始めてそれが時代の空気をとらえてみんなが似たようなシーンで言うことが定着していき、しまいには挨拶のように形だけのものになっていく。

当然、時々の人の心は変わって行くわけだから古い言い回しは廃れて、新しい言い回しが生まれるのだけど、どうも流行り物に違和感がでることがある。

最近だと、「感謝しかない」というやつだ。スポーツ選手の引退会見、著名人の離婚、謝罪会

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七夕の爆笑

七夕の爆笑

昨日の深夜、顔に何かが触れる感じがあって目を覚ました。
ぼくが起きると、5才の息子を挟んで隣で寝ていた奥さんが大爆笑した。
息子を起こすまいと必死に笑いを噛み殺しているが、ヒィヒィ言っている。こっちは寝起きで状況が全くわからない。
「どうしたの?」
「コーヨー(息子)がなかなか寝付かなかったから頭撫でてたんだけど、二人の頭がぴったりくっついてるから間違えちゃってwww」
「ああ、それでオレが起きち

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「店員に話しかけないでください」の衝撃

「店員に話しかけないでください」の衝撃

コロナ騒動に関連してけっこう違和感を覚えることの一つに、「感染拡大防止のため〜」と言うフレーズがある。例えば、近所のスーパーに行ったら「感染拡大防止のため、なるべくお一人で、おしゃべりは控えて、短時間のご滞在にご協力ください。また、店員にはなるべく話しかけないよう、よろしくお願い致します。」

初めて聞いた時、思わず頭上のスピーカーをじっと見つめてしまったですよ。すると何かい? 探している商品が見

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