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読書からの葉脈

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読了の落とし込み。読んで書いて読んで書いてし続けたいし、その先の自分の表現を見つけたい。
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創作大賞感想 ホラーであっても、静森あこを読みたいと思った。

創作大賞感想 ホラーであっても、静森あこを読みたいと思った。

ホラーだなんて予想していなかった。人間が暗がりを歩くようでいて、切なくとも心灯る文学が来ると予想していた。受け入れるしかない。

私は、静森あこさんの文章が好きである。これは単純に好みの問題だけなのかも知れない。しかし、彼女が表現の一言を突き詰めて戦っているのが読めるから好きなのだ。彼女の表現はとてもキレイなのにどこか棘がある。退廃していそうで光っている。人間を信用しているようでしていないのかも知

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創作大賞感想 路地裏に地図を作った案内人。蒔倉 みのむし

創作大賞感想 路地裏に地図を作った案内人。蒔倉 みのむし

上記は、私が調べた限りの、蒔倉みのむし「どうかしている」情報だ。まったく「なんのはなし」なのか分からない設定だ。そもそも「なんのはなしですか」を題材にして小説を書くと初めて聞いたのは二ヶ月くらい前だ。

「なんのはなしです課」通信でいうと七通目辺りになる。その間十週間。十週間で「なんのはなし」でもない小説を書き上げた。

これを何と表現すれば良いのかとても困る。彼が書いたものに対する正当な評価を書

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創作大賞感想 sanngoさんの記したものを読んで表現の意味をまた知った。

創作大賞感想 sanngoさんの記したものを読んで表現の意味をまた知った。

全部がそこに詰まっていました。その「人」の人生の大事な部分に触れてしまうと、たまにその感情がそのまま伝わってきて、自分に入って来る時があります。涙が止まらなかったです。陳腐な言葉になってしまうのが本当に嫌です。

sanngoさんの普段からの優しさはSNSの付き合いの優しさとは、少し違う気がしていました。すごく画面の向こうの「人」に寄ってくれる優しさだと感じていました。だから、読む前からこのタイト

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創作大賞感想 豆島圭さんの世界に、言葉の持つ繋がりを知る。

創作大賞感想 豆島圭さんの世界に、言葉の持つ繋がりを知る。

最後にタイトルを読み直して、深く感じる物語に久しぶりに出会った。人間の成長途中の物語の余韻を自分で確かめて、もう少しこの豆島圭さんの世界にいたいなと感じた。

主人公の希生先生と、悩みを持つ『かけはし』に通う生徒や、両親と交流して悩みを解決して人間として成長していく物語だ。こうやって文字にして、簡単な言葉にしてしまう自分が嫌になってしまう。この物語はそんなに簡単な話ではない。人間の感情の機微や心の

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創作大賞感想 青豆ノノにより読まない恋愛小説で、恋愛にのめり込んでしまった。

創作大賞感想 青豆ノノにより読まない恋愛小説で、恋愛にのめり込んでしまった。

青豆ノノさんが創作大賞に小説をエントリーすると知ってからワクワクしていた。私は必ず感想を書くと決めていた。なぜならば、私が感想を書かないのなら、それは青豆ノノ推しの辞退宣言を意味するからだ。私は彼女の表現をずっと追いかけている。全てを読んでいるワケではないが、ずっと追いかけている。駄菓子菓子、全く追いかけてはもらっていない。一方的な追いかけだ。世の中とはそういうものだから面白い。

私は、彼女の思

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創作大賞感想 めぐみ ティコに覚悟を問われる。

創作大賞感想 めぐみ ティコに覚悟を問われる。

彼女のエッセイを読みました。このエッセイに至るまでの経過を、少しだけ私は知っています。

もし、自分の書いたものが誰かを傷つけるかもって思ったらどうしますか?

これが、このエッセイを書きたいと言った最初の質問だったと思います。それと、もう一つ。

キッカケがないと書けない。

これだったと思います。キッカケというのは、もちろん創作大賞にあたります。こういうことがあってそれを理由に出来るのなら自分

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創作大賞感想 路地裏の先住民「はそやm」にきちんと挨拶したくなった日

創作大賞感想 路地裏の先住民「はそやm」にきちんと挨拶したくなった日

「真面目にふざける」を公言している方を何名か知っている。いずれの人もその通りに表現を追い求めているから好きだ。人に「真面目にふざける」を文字にして伝えることが出来る覚悟は、本当にふざけているだけの人だと伝えられない。面と向かって決して言えることではない。これを人に伝えることが出来るのは、その全部を見られても良いと思っている本気と覚悟がある人にしか書けないことだと思っている。

私は何度か、はそやm

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創作大賞感想 半径100mさんの円の中に入ったら。

創作大賞感想 半径100mさんの円の中に入ったら。

タイトルからして、半径100mさんが真面目に攻めてきたなと感じた。このタイトルにどれほど気持ちを込めたのだろうか。「やりやがったな」と笑顔になったのが最初にタイトルを見て感じた事だ。

彼女の表現方法を私が好きな理由の一つに、心情や人の気持ちである、目で見えない部分の登場人物達の心の受け渡しに惹かれることが多い。人間をどこか優しく滑稽に描くからこそ感情移入出来て、登場人物を好きになってしまう。そし

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創作大賞感想 母すのうは、いったい何刀流なのだろうか。

創作大賞感想 母すのうは、いったい何刀流なのだろうか。

こちらのノンフィクション作品を何度も読んでいる。読み直してしまう。どうしてこんなに読むのか分からない。日常が家族が「野球」というスポーツを通して変化していく過程をただ見ているのだが面白い。

文脈は記録を主に記しているので感情は極力排除されている。だから、たんたんと記録を読んでいく作りなのだが、文章の端々に「母すのう」の愛情が溢れているのを感じてしまう。努めて客観的に書いているのに子供、そして「母

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創作大賞感想 ユキミとペローとレオンさん

創作大賞感想 ユキミとペローとレオンさん

書いている本人が楽しそうに書いているのが、読み手に伝わる時がある。本人はどういう気持ちで投稿したのかは私には分からないし、それは分からなくても良いことだと思っている。でも今もきっとドキドキしていると思う。おそらく本人の中でも一方向に振り切る覚悟で書いた作品なのだろうと思った。

彼女の普段の文体は、テーマにそった考察、エッセイ、食、多種多様に文体を変化させる。どれもが面白く、手を抜いていそうに見え

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拝啓 読書様。これが私の遊びで、続く葉脈になります。

拝啓 読書様。これが私の遊びで、続く葉脈になります。

私が貸した星野道夫の「旅をする木」を手に持ち、後輩が私のもとにやって来た。

「お返しします」

私は、この後輩を密かに読書好きにさせるように遊んでいる。遊んでいるというよりかは、遊んでもらっているのかも知れない。本に興味があると言った後輩は、彼女が読んでいるという伊坂幸太郎を好きかどうかを私に聞いてきたことが始まりだった。

私は、朝会社でわざと読書をしている。わざとだ。いつか「窓際の読書さん」

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大江健三郎の「親密な手紙」は、これからも続く。

大江健三郎の「親密な手紙」は、これからも続く。

岩波新書から2023年の10月に発売された、大江健三郎の「親密な手紙」を読んでいる。読んでいると表現したのは、過去形にしたくない気持ちがまだどこかに存在するからだ。

大江健三郎は、私の読書の核にいて生涯追い求めたい遥か先にいる。あらゆる角度から事象を表現し、本当の救済を訴える。

初期の短編からの変遷を辿ると、文体の大きな変化、革命に近いものに気付く。大江健三郎から私が得た「小説」という形は、「

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僕はノンフィクションが読めない。酒井聡平の生き方が綴るもの。

僕はノンフィクションが読めない。酒井聡平の生き方が綴るもの。

僕は戦争の話が苦手だ。

小説ばかり読んできた僕は、ノンフィクションが読めなくなった。どうしてもそこに書いてある事実を事実として飲み込むことで、言い様のない不安に駆られることがあるからだ。

ある人は、どうして広い視座で話すことから逃げるのですかと真正面から問いかけてくる。僕も自分で考えたこともある。現実で起きてることを自分の世界のこととしてどうしても向き合えない。

何か軽い発言になってしまうの

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大江健三郎の作品を読む僕は、その感想だけに留めて置けない読書になる。

大江健三郎の作品を読む僕は、その感想だけに留めて置けない読書になる。

久しぶりの友人からの通知だった。

「大江健三郎を読むなら何から読んだらいいかしら」

その質問に僕は答えながらも、それとは別のことを感じていた。もう逝去されて半年以上経つのか。そのニュースを知った時から大江健三郎を読めなくなっていた。

大江健三郎は、僕にとって書くことへの議題をくれた人だ。それは、小説のようなフィクションに於いても文体に思想を入れると共振を呼ばせることが出来るということを初めて

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