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デザイン思考とアート思考(再考)

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これまでnoteで執筆した「デザイン思考とアート思考(再考)」関連の記事を集めています。
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おわりに:「ピカソの30秒」を願いつつ

おわりに:「ピカソの30秒」を願いつつ

 今回の連載では、講演会などで頂いた質問や宿題の答えを自分なりに考えて、お示ししたつもりです。「あーでもない、こーでもない」と一人で反省文を書いているうちに、気が付けばページ数はwordで100頁を超え、文字数も9万字を超えてしまいました(薄めの新書一冊分に相当する文字数!!)。なんとも長大な反省文です(苦笑)。

 ただ、「一人反省会」とは言うものの、講演会などで多くの方々と議論した内容やそこで

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デザイン思考と組織文化PARTⅣ

デザイン思考と組織文化PARTⅣ

 本編⑱のところで見たように、Dums and Mintzberg(1989)やCooper, Junginger and Lockwood(2009)は、デザイン思考にとっての理想的な組織文化とは「組織全体にデザインの考え方が浸透した状態である」と述べているが、これは言い換えると、デザイン思考がロジカルシンキングのように当たり前のノウハウとして組織内で広く認識され、多くの人々がそれを使いこなすた

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デザイン思考と組織文化PARTⅢ

デザイン思考と組織文化PARTⅢ

 前回は「デザイン思考と組織文化」をテーマにした先行研究のうち、両者の適合問題を取り上げた研究群を見てきた。今回は、もう一方のデザイン思考を組織文化の変革ツールとして捉えている研究群について簡単に振り返ってみたい。そこでは、デザイン思考を用いた組織文化変革の効果の有無や、デザイン思考を使いこなすうちに組織文化がどのようなものに変化していったのか(あるいは、それをどのように変えていったのか)などが主

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デザイン思考と組織文化PARTⅡ

デザイン思考と組織文化PARTⅡ

 前回は、デザイン態度(組織文化)との棲み分けの困難さを理由に、デザイン思考はなるべく拡大しない方が良いのではないかと述べた。しかし、そのような理由の他にも、既に多くの先行研究では暗黙のうちに両者を別物として扱っており、デザイン思考の概念拡張はその実態にそぐわない(あるいは、混乱を招く)のではないかという懸念もある。

 「デザイン思考と組織文化」をテーマに取り上げた先行研究には、大きく次の2種類

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デザイン思考と組織文化PARTⅠ

デザイン思考と組織文化PARTⅠ

 今回からは最後のテーマとして、デザイン思考と組織文化との関係について考えてみたい。本編⑧のところで述べたように、欧州ではデザイン思考とは、クリエイティブ・コンフィデンス(creative confidence)のことであるとの論調があるが、そのような理解の仕方は本当に正しいのであろうか。

 そもそもクリエイティブ・コンフィデンスとは、個人が持つ創造的なマインドセットや思考パターン、あるいはそれ

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デザイン思考とエフェクチュエーションの関係

デザイン思考とエフェクチュエーションの関係

 ここでは「デザイン思考と起業行動」に関して、もう少し寄り道してみたい。本編⑬~⑯でも見たように、近年、デザイン思考はアジャイル開発やリーン・スタートアップなどと共に語られることが多くなっている。また、その結果として、デザイン思考は起業やベンチャー創出のためのアプローチとして注目されるようになっており、エフェクチュエーション(effectuation)との関係についても関心が寄せられるようになって

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デザイナーと創作ビジョン

デザイナーと創作ビジョン

 本編⑯では、アーティストにとって必須とされる創作ビジョンの構築は、ほとんどのデザイナーにとってはあまり必要のないものである可能性について述べた。しかし、ここで「ほとんどの」と但し書きを付けたのは、例外が存在する可能性があるからである。特に作家性の強い一部のスターデザイナーには、そのような傾向が見て取れる。

  例えば、ルイジ・コラーニ(Colani, L.)氏やシド・ミード(Mead, S.)

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デザイン思考と起業行動 PARTⅡ

デザイン思考と起業行動 PARTⅡ

 前回述べたように、欧州勢の先行研究にいうスプリント(以下、広義のデザイン思考とする)とは、創造的な問題解決(以下、狭義のデザイン思考とする)にリーン・スタートアップやアジャイル開発などの考え方が足し合わされた拡張された概念であるが、そもそも狭義のデザイン思考と、リーン・スタートアップやアジャイル開発との関係はどのようなものなのであろうか。先行研究には様々な見解が見られる一方で、それらの関係性につ

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デザイン思考と起業行動 PARTⅠ

デザイン思考と起業行動 PARTⅠ

 今回からは起業行動との関係について考えてみたい。本編⑧のところで述べたように、欧州ではデザイン思考にはスプリントの実行が含まれるとする論調があるが、そのような理解の仕方は本当に正しいのであろうか。

 ここでいうスプリントとは、短い期間内に高速でアイデアの実証や実験を繰り返して開発を加速させ、新しいソリューションを迅速かつ効率的に市場に投入することで、不確実性に対処しようとするアプローチのことで

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それぞれの思考法の間で重なり合うところ

それぞれの思考法の間で重なり合うところ

 拙著『デザイン、アート、イノベーション』ではどちらかと言えば、デザイン思考、デザイン・ドリブン・イノベーション(以下、DDIとする)、アート思考、それぞれの間にある「違い」にスポットライトを当ててきた。そこでは、デザイン思考は「あなた」に焦点を当てた(イノベーション創出のための)アプローチであるのに対し、DDIは「人々」に焦点を当てたアプローチ、アート思考は「私」に焦点を当てたアプローチであるこ

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インクルーシブデザイン

インクルーシブデザイン

 本編⑫では、デザイン思考の実施に際して、これまでターゲットとされてこなかった少数派の狭いニーズや、極端な行動をとる人々の深いニーズを優先的に探し出そうとすることがよくあると述べた。そうすることで、誰も気づいていないニーズ(指摘されて初めて気づくような潜在的なニーズ)や、今はまだ小さくても将来大化けする可能性のあるニーズを探り出すことができるためである。

 このような“これまで排除されてきた人々

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デザイン思考やアート思考の本当の効果とは?

デザイン思考やアート思考の本当の効果とは?

 番外編②のところでも触れたように、デザイン思考に対してはこれまで「生み出されたソリューションが意外としょぼい」などの批判がなされてきた。その一方で、ソリューションとは違った点に注目して、デザイン思考を評価する声も一部にはある。大坪(2021)は別の視点から、デザイン思考を次のように評価している。

 このように、デザイン思考は「みんなの意見を形にできること」や「現時点での情報と参加メンバーの思考

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ソリューションがしょぼいという問題

ソリューションがしょぼいという問題

 このトピックは、本筋の意味形成の話からは逸れるため番外編扱いとするが、実はこれもデザイン思考の重要な論点である。デザイン思考に対する批判の一つに、「生み出されたソリューションが意外としょぼい」というものがある。例えば、大坪(2021)は、デザイン思考を使って価値のあるソリューションを導き出すことは難しいとして、以下のように述べている(なお、括弧内は筆者が補充した)。

 このような批判が起こる背

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デザイン思考と意味形成 PARTⅣ

デザイン思考と意味形成 PARTⅣ

 ここでは本編⑪のところで触れた、エクストリームユーザー(extreme user)を活用したデザイン思考について考えてみたい。デザイン事務所のIDEOが提唱するデザイン思考には、観察対象としてエクストリームユーザーがしばしば登場するが(増田,2018)、その中でも、特に情報感度の高い「イノベーター」や「アーリーアダプター」などを対象とした場合には、DDIと同じような成果が得られる可能性がある。

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