森永泰史

京都の大学で「デザインと企業経営」を研究中。著書に『デザイン重視の製品開発マネジメント…

森永泰史

京都の大学で「デザインと企業経営」を研究中。著書に『デザイン重視の製品開発マネジメント』(白桃書房,2010)、『経営学者が書いたデザインマネジメントの教科書』(同文舘出版,2016)、『デザイン、アート、イノベーション』(同文舘出版,2021)など。関西出身、B級映画コレクター

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  • デザイン開発事例のデータベースのようなもの

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「デザイン思考とアート思考」に関する連載開始のお知らせ

 4月4日(月)より、全30回程度の長期連載を開始します(年内には終了する予定です)。更新は毎週月曜日、毎回2,000-4,000字程度の分量(10~20分で読了できる分量)にしたいと考えています。テーマは、「デザイン思考とアート思考(再考)」で、拙著『デザイン、アート、イノベーション』や日本経済新聞に連載した「デザイン思考とアート思考」の増補・改訂版のような位置づけとなります。  日本経済新聞での連載(全10回)では、多様なトピックを扱うことができた反面、1回あたりの紙

    • 「日本の電機企業のデザイン開発に関するデータベース(のようなも)」をさらに整理してみました

       以前、「日本の電機企業のデザイン開発に関するデータベース(のようなもの)」の全体像を整理しましたが、今回はその第二弾として、収集した資料の内容を簡単にコーディングしてみました(といっても、ざっくりとしたオープンコーディングだけですが・・・)  タイトルは『(改訂版)日本の電機企業におけるデザインマネジメントの実態解明と理論との架橋-239のデザイン開発事例から分かること-』と、少しお堅い感じではありますが、ご笑覧頂ければ幸いです。ただし、雑多にまとめただけの資料であるため

      • おわりに:「ピカソの30秒」を願いつつ

         今回の連載では、講演会などで頂いた質問や宿題の答えを自分なりに考えて、お示ししたつもりです。「あーでもない、こーでもない」と一人で反省文を書いているうちに、気が付けばページ数はwordで100頁を超え、文字数も9万字を超えてしまいました(薄めの新書一冊分に相当する文字数!!)。なんとも長大な反省文です(苦笑)。  ただ、「一人反省会」とは言うものの、講演会などで多くの方々と議論した内容やそこでの質疑応答などが下敷きになっています。その意味で、今回の作業は、アーティストが「

        • 組織文化の変容プロセス

           最後に、組織文化が変容していくプロセスについて考えてみたい。これまでも、デザイン思考の浸透にはデザイナーとの協働が必要になることなどが指摘されてきた。しかし、デザイナーと協働することで、具体的に組織文化の何がどのように変化するのであろうか。  先行研究では、体験の共有に伴う暗黙知の移転や、成功の積み重ねによる信頼関係の構築など、個人レベルで起こる意識の変化については言及されてきたが、組織文化自体がどのように変容していくのかについては明らかにされてこなかった。ここでは、その

        • 固定された記事

        「デザイン思考とアート思考」に関する連載開始のお知らせ

        マガジン

        • デザイン開発事例のデータベースのようなもの
          3本
        • デザイン思考とアート思考(再考)
          35本
        • デザイン経営
          14本

        記事

          リーダーシップと継続期間

           番外編の⑩と⑪では、様々な組織文化の変革手法について触れてきたが、それら以外にも、デザイン思考の導入に際しては考慮すべき事柄がある。それは、「リーダーシップ」と「継続期間」である。 1.リーダーシップ  まず、前者のリーダーシップに関しては、Dunne(2018)で取り上げた4つの事例すべてで、組織階層の上位者が発案者や発起人になっていた。具体的に、P&GではCEOや担当副社長が、マインドラボやATOでは上級官僚(前者は商務省の事務次官、後者は国税局の補佐官)が、メイヨー

          リーダーシップと継続期間

          課す役割、管理者の有無、拠点の配置

           番外編⑩では、Dunne(2018)を通じて、デザイン思考を用いた組織文化の変革には多様なパターンがあることを見てきたが、ここでは改めて、それらを理論的かつ体系的に整理してみたい。考えなければならない事柄は大きく3つある。1つ目は、デザイン思考の伝道者たちにどのような「役割」を与えるのか。2つ目は、彼らを「誰」に管理させるのか。そして、3つ目は、彼らの活動拠点を地理的に「どこ」に置くのかである。 1.与える役割について  1つ目の選択肢は、デザイン思考の伝道者たちにスタッ

          課す役割、管理者の有無、拠点の配置

          組織文化変革の4つの事例

           本編⑲のところでも述べたように、デザイン思考の導入を梃子にして、組織文化を変革することはそれほど容易なことではない。Dunne(2018)は以下の4つの事例を用いて、一口に「組織文化の変革」といっても、組織ごとに多様な目標があるだけでなく、用いられる手法も多岐にわたることを示している。 1.ATO(オーストラリア国税局)のケース  1つ目のATO(オーストラリア国税局)のケースでは、目標は組織内に顧客志向の文化を根付かせることにあった。そのためにATOではデザイン思考教

          組織文化変革の4つの事例

          デザイン思考と組織文化PARTⅣ

           本編⑱のところで見たように、Dums and Mintzberg(1989)やCooper, Junginger and Lockwood(2009)は、デザイン思考にとっての理想的な組織文化とは「組織全体にデザインの考え方が浸透した状態である」と述べているが、これは言い換えると、デザイン思考がロジカルシンキングのように当たり前のノウハウとして組織内で広く認識され、多くの人々がそれを使いこなすためのスキルを持ち、職種を越えてそれを共有することができるような状態にあることであ

          デザイン思考と組織文化PARTⅣ

          デザイン思考と組織文化PARTⅢ

           前回は「デザイン思考と組織文化」をテーマにした先行研究のうち、両者の適合問題を取り上げた研究群を見てきた。今回は、もう一方のデザイン思考を組織文化の変革ツールとして捉えている研究群について簡単に振り返ってみたい。そこでは、デザイン思考を用いた組織文化変革の効果の有無や、デザイン思考を使いこなすうちに組織文化がどのようなものに変化していったのか(あるいは、それをどのように変えていったのか)などが主に論じられてきた。ただし、これらの研究は、2010年代の後半以降に始まったばかり

          デザイン思考と組織文化PARTⅢ

          デザイン思考と組織文化PARTⅡ

           前回は、デザイン態度(組織文化)との棲み分けの困難さを理由に、デザイン思考はなるべく拡大しない方が良いのではないかと述べた。しかし、そのような理由の他にも、既に多くの先行研究では暗黙のうちに両者を別物として扱っており、デザイン思考の概念拡張はその実態にそぐわない(あるいは、混乱を招く)のではないかという懸念もある。  「デザイン思考と組織文化」をテーマに取り上げた先行研究には、大きく次の2種類がある。1つは、主としてデザイン思考と組織文化の適合問題を取り上げた研究群である

          デザイン思考と組織文化PARTⅡ

          デザイン思考と組織文化PARTⅠ

           今回からは最後のテーマとして、デザイン思考と組織文化との関係について考えてみたい。本編⑧のところで述べたように、欧州ではデザイン思考とは、クリエイティブ・コンフィデンス(creative confidence)のことであるとの論調があるが、そのような理解の仕方は本当に正しいのであろうか。  そもそもクリエイティブ・コンフィデンスとは、個人が持つ創造的なマインドセットや思考パターン、あるいはそれらを共有した組織文化のことなどを指す(Kelley and Kelley,201

          デザイン思考と組織文化PARTⅠ

          システムズ・モデル

           本編⑯のところで見たように、横地(2020)では、小さな創作行為(mini-creativity)の積み重ねが、徐々にアーティストの見る目を養い、その後の創作活動の屋台骨となるような創作ビジョンの形成へとつながるとされている。このような小さな行為の積み重ねが、やがて大きな成果へとつながるという発想は、漸進的なイノベーションの積み重ねが、急進的なイノベーションにつながるとする経営学の一部の主張とも一致する(Thomke,2020;佐々木,2020;岩尾,2019)。  ただ

          システムズ・モデル

          アート思考とエフェクチュエーションの関係

           番外編⑦では、デザイン思考とエフェクチュエーションの関係を取り上げた。そして、その際、議論の入り口として、デザイン思考とエフェクチュエーションに共通するのは、不確実性への対処を主眼に置いていることと、予測とは異なるアプローチを採用していることであると述べた。  しかし、それらの2つの条件であれば、アート思考も十分に満たしている(Whitaker, 2016)。アート思考の登場も、不確実性の増大と深く関係している。また、アート思考でも予測とは異なるアプローチが採用されている

          アート思考とエフェクチュエーションの関係

          デザイン思考とエフェクチュエーションの関係

           ここでは「デザイン思考と起業行動」に関して、もう少し寄り道してみたい。本編⑬~⑯でも見たように、近年、デザイン思考はアジャイル開発やリーン・スタートアップなどと共に語られることが多くなっている。また、その結果として、デザイン思考は起業やベンチャー創出のためのアプローチとして注目されるようになっており、エフェクチュエーション(effectuation)との関係についても関心が寄せられるようになっている。ここでいうエフェクチュエーションとは、起業家研究から生まれた概念で、優れた

          デザイン思考とエフェクチュエーションの関係

          デザイナーと創作ビジョン

           本編⑯では、アーティストにとって必須とされる創作ビジョンの構築は、ほとんどのデザイナーにとってはあまり必要のないものである可能性について述べた。しかし、ここで「ほとんどの」と但し書きを付けたのは、例外が存在する可能性があるからである。特に作家性の強い一部のスターデザイナーには、そのような傾向が見て取れる。  例えば、ルイジ・コラーニ(Colani, L.)氏やシド・ミード(Mead, S.)氏などのスター級の工業デザイナーは独自の強い作風を持っており、創作ビジョンのよう

          デザイナーと創作ビジョン

          デザイン思考と起業行動 PARTⅣ

           前回はデザイン思考の概念拡張に伴い、その理論的な性格も従来の問題解決から学習プロセスへと変質する可能性があることを述べた。ただ、先行研究の中には、狭義のデザイン思考をイノベーションのプロセスに埋め込むことで、それを学習プロセスに変換することができると主張するものもある。Backman and Barry(2007)は、デザインと学習は共に「経験」を鍵概念とし、親和性が高いと述べている。また、デザイン思考を実行することは、問題解決のプロセスを回すというよりも、むしろ失敗した経

          デザイン思考と起業行動 PARTⅣ