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おわりに:「ピカソの30秒」を願いつつ

 今回の連載では、講演会などで頂いた質問や宿題の答えを自分なりに考えて、お示ししたつもりです。「あーでもない、こーでもない」と一人で反省文を書いているうちに、気が付けばページ数はwordで100頁を超え、文字数も9万字を超えてしまいました(薄めの新書一冊分に相当する文字数!!)。なんとも長大な反省文です(苦笑)。

 ただ、「一人反省会」とは言うものの、講演会などで多くの方々と議論した内容やそこでの質疑応答などが下敷きになっています。その意味で、今回の作業は、アーティストが「作品を作り、発表し、講評を受け、その結果に対して自問自答を繰り返す」という流れに類似するプロセスになったと思います。あるいは、デザイン思考の文脈に置き替えれば、拙著がプロトタイプの役割を果たしたと言えるかもしれません。いずれにしても、考えをアウトプット(外部化)することの重要性を改めて感じることができました。内省のみならず、多くの人々とのインタラクションを通じて、確実に議論が深化していったからです。

 実をいうと、当初はこのテーマにそれほど深入り(あるいは、長居)するつもりはありませんでした。私はどちらかといえばマクロな組織論の研究者(制度論者)であって、組織心理学やミクロな組織論の研究者(認知科学者)ではないからです。また、拙著の執筆も、デザイン思考周りのカオスな状態を整理し、自分なりの理解を深めたいという極めて個人的な動機からスタートしており、世間に何かを訴えようなどという大それた気持ちは全くありませんでした。さらに言えば、執筆作業自体が「大学の紀要向けに書評でも書こうかな?」くらいの軽い気持ちからスタートしました。それが些細なことをきっかけに、幸いにも出版にまでこぎつけることができました。そして、気が付けば、「デザイン思考とその周辺の沼」にどっぷりとはまっていました。拙著の執筆は2019年にスタートしたので、少なくとも3年以上はその沼にはまり続けたことになります。

 もちろん、デザインマネジメントの研究者としてのキャリアはそれよりもずっと長く、かれこれ25年近くになります。その意味では、デザイン思考(及びその周辺にある研究)との付き合いはそれほど長くありませんが、デザインマネジメント研究との付き合いはそれなりに長いので、「ピカソの30秒」のような見えざる効果がそこに発揮されていることを願いたいと思います。ピカソは「30秒で描いた絵なのに100万ドルは高すぎる」と非難された際に、「私はこれまで30年もの研鑽を積んできたので、この絵を描くのにかかった時間は(30秒ではなく)30年と30秒だ」と答えたといいます。つまり、パパっと描いたように見えて、実はそれまでの蓄積がなければ描けない絵であると主張したのです[注1]。これと同様に、拙著やこのnoteの内容にも、これまでのデザインマネジメント研究の蓄積が何らかの形で反映されていれば嬉しく思います。

 書籍を出版できたことや、その後の反響は意図せざる結果ではありましたが、そのことがきっかけで、多くの方々と知り合い、様々な意見交換をすることができました。そこで得られた知見やご縁を今後も大事にしていきたいと思います。そして、このnoteが新たなプロトタイプとして、次なる議論を巻き起こす叩き台となってくれれば幸いです。


[注1] ただし、このエピソード自体は裏を取ることができない、一種の都市伝説ではないかと言われています (『BLOGOS』「「30秒で描いた絵に100万ドルは高すぎる」と非難されたピカソは何と答えたか?」)。


●参考ウェブサイト
『BLOGOS』「「30秒で描いた絵に100万ドルは高すぎる」と非難されたピカ 
 ソは何と答えたか?」(https://blogos.com/article/532378/) 2022年1月14
 日閲覧。

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