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デザイン経営

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これまでnoteで執筆した「デザイン経営」関連の記事を集めています。
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あとがき

あとがき

 今回の連載では、デザイン経営を「ブランド」と「イノベーション」の2本柱でざっくり解説してきました。デザイン経営を理解する上での一助となれば幸いです。

 また、個人的には、緊急事態宣言により在宅ワークが多くなる状況下での週に一度の連載は、曜日感覚を取り戻すのに大変役立ちました。海上自衛隊(あるいは、旧海軍)で毎週金曜日に出されるカレーのような役割でしょうか(笑)。

 本連載はここで一旦終了しま

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補論 観念のデザインを巡るブランドとイノベーションの境界線

補論 観念のデザインを巡るブランドとイノベーションの境界線

 第十回では、デザインを、ブランドの構築に深く関わる「網膜のデザイン」と、イノベーションの実現に深く関わる「観念のデザイン」とに大別したが、厳密には、両者はそのような1対1のシンプルな関係で成り立っているわけではない。強弱の違いはあるものの、それぞれがそれぞれと関連性を有していると考えられる(下図参照)。

 例えば、第一回で述べたように、製品の形に代表される「網膜のデザイン」もイノベーションの実

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第十回 まとめ             網膜のデザインと観念のデザインの両立

第十回 まとめ             網膜のデザインと観念のデザインの両立

 これまで見てきたように、デザインやデザイナーとブランドやイノベーションは切っても切れない関係にある。デザインを無視して、ブランドを構築することはほとんど不可能であり、デザインはブランドそのものであるといえる。また、デザイナーは古くから様々な形でイノベーションの実現にも携わってきた。
 ただ、近年では、デザイン思考をはじめとするデザイナーのイノベーション寄りのスキルに関心が集中したことで、審美性や

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第九回 イノベーションとデザイン(4)   組織文化の重要性

第九回 イノベーションとデザイン(4)   組織文化の重要性

 前回は、デザイン思考などのデザイナー的思考や手法が登場した意義について述べた。その最大の功績は、通常では見えにくいデザイナーの働きを可視化し、それを組織全体で共有可能なものにしたところにある。しかし、現場では、せっかくデザイン思考を導入しても、機能不全に陥ったなどの声がよく聞かれる。その原因には様々なものがあるだろうが、ここでは組織文化に注目してみたい。

 近年、デザイン思考を機能させる基盤と

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第八回 イノベーションとデザイン(3)   デザイン思考誕生の意義

第八回 イノベーションとデザイン(3)   デザイン思考誕生の意義

 前回見たように、デザイナーの働きは見えにくいため、現場にいない経営陣などからはなかなか評価されにくい。さらに、評価されなければ、投資したり積極的に活用したりすることも困難になる。そのため、多くの企業では、デザイナーの積極的活用をお題目に並べながらも、実際はあまり活用できていないという課題に直面している。
 このような見えにくさは、デザイナー自身も薄々気付いているようで、黒田(1996)は、それを

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補論 デザイナーの見えにくい貢献の測定

補論 デザイナーの見えにくい貢献の測定

 デザイナーの貢献は見えにくいと言われるだけあって、売上や利益などの客観的な指標でそれを測定することは難しい(注)。だとすれば、どのような指標を用いればそれを測定することができるのであろうか? この点につき模範解答はないものの、経験的には、①消費者の主観的な変化に注目したものと、②従業員の主観的な変化に注目したものの2種類がありそうである。

注)ペプシコ初代CDOのマウロ・ポルチーニ氏によると、

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第七回 イノベーションとデザイン(2)   デザイナーの貢献は見えにくい

第七回 イノベーションとデザイン(2)   デザイナーの貢献は見えにくい

 前回も述べたように、デザイナーは古くから様々な形でイノベーションの実現に関与・貢献してきた。
 例えば、1965年に三菱電機から発売された扇風機「コンパック」は、その名の通りコンパクトに分解することができる扇風機であるが、その原案を示したのはデザイナーたちである(三菱電機デザイン史編集員会編,2004)。当時の扇風機は、多機能化を競う傾向にあったが、そこから競争の軸をずらすことで大ヒット商品とな

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第六回 イノベーションとデザイン(1)   イノベーションとデザインに対する誤解

第六回 イノベーションとデザイン(1)   イノベーションとデザインに対する誤解

 今回からは4回にわたって、イノベーションとデザインの関係を見ていく。イノベーションの定義の仕方は様々あるが、ここでは、Rogers(1982)に基づいて、それを「社会に価値をもたらす革新」と定義したい。
 世間では時々、イノベーションを技術革新と定義することがあるが、それは間違いではないものの、本質を捉えているとも言い難い。この定義で特に問題なのは、視野が極端に狭くなることである。我々の社会は、

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第五回 ブランドとデザイン(4)    デザイナーと経営トップの二人三脚

第五回 ブランドとデザイン(4)    デザイナーと経営トップの二人三脚

 これまで見てきたように、デザインを無視してブランドを構築することはほとんど不可能であり、ブランドとデザインは不可分の関係にある。
 したがって、デザインの開発とブランドの構築に携わる者の間にも、それと同様の不可分な関係が求められる。そして、その中でも特に重要になるのが、デザイナーと経営トップの二人三脚である。ブランドは企業の理念や哲学とも関わる重要事項であり、その決定権を持つのは経営トップである

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第四回 ブランドとデザイン(3)      「らしさ」がもたらすメリット

第四回 ブランドとデザイン(3)      「らしさ」がもたらすメリット

 個性的で統一感や一貫性のあるデザインによって「らしさ」を構築できれば、企業は次の3つのメリットを享受することができる。

 1つ目は、長期にわたる競争優位と模倣困難性である(会田,2009)。複数のデザインが一丸となって醸し出す「らしさ」は、他にはない独特なものであるため、それを好きになった消費者にとっては、それ以外の選択肢は考えにくくなる。さらに、単一製品のデザインの模倣とは異なり、それを模倣

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第三回 ブランドとデザイン(2)      デザインをむやみに変えないことが大事

第三回 ブランドとデザイン(2)      デザインをむやみに変えないことが大事

 Underwood(2003)は、デザインは消費者の記憶を喚起し、ブランド連想を引き起こすとしているが、消費者がデザインを見て、特定のブランドを連想するようになるには、反復学習が必要になる。つまり、何度も同じようなデザインに遭遇しなければならないのである。また、長崎(2003)は、デザインの特徴が部分的にでも維持されていれば、ブランドは認知されるとしているが、こちらも、時間や製品の枠を超えてデザ

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補論 情報の非対称性を巡る新たな動き

補論 情報の非対称性を巡る新たな動き

 第二回では、ブランドとは企業と消費者の間にある情報の非対称性を上手く活用する方法であると述べた。しかし、近年では、そのギャップをイメージで補うのではなく、ギャップそのものを積極的に減らし、「ありのままの姿」を見せることで消費者との信頼関係を築こうとする新しい動きが見られる。

 その代表が、米国のサンフランシスコに本拠を構える「エバーレーン(Everlane)」である(Forbes)。同社は、2

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第二回 ブランドとデザイン(1)      「らしさ」は視覚情報によって作られる

第二回 ブランドとデザイン(1)      「らしさ」は視覚情報によって作られる

 今回からは4回にわたって、ブランドとデザインの関係を見ていく。ブランドとは、消費者の側がその企業や製品に対して感じる「らしさ」のことをいう。ここでいう「らしさ」とは、他社や他の製品からでは感じられない、その企業や製品のみから感じる独特のイメージのことである。したがって、そのような独特のイメージが消費者に認識されていない場合は、本当の意味でのブランドとはいえない。
 このように、ブランドの主導権は

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第一回 デザイン経営とは、経営の王道の話

第一回 デザイン経営とは、経営の王道の話

 まず、デザイン経営の定義から始めよう。個人的には、デザイン経営を「デザインやデザイナー(あるいは、デザイナー的思考や手法)を企業経営に最大限に活用すること」と定義してきた。
 しかし、そのような定義では話が少し抽象的になってしまうので、ここでは、2018年5月に経済産業省および特許庁から発表された『「デザイン経営」宣言』に従って、対象をブランドとイノベーションに絞って考えてみたい。つまり、ブラン

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