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紅葉鳥の真相 #シロクマ文芸部

 紅葉鳥、それは僕の祖父がずっと探していた鳥だ。
 鳥の専門家でも研究者でもなかったが、ずっと、探していた。

 子どもの頃に噂が流れた。紅葉鳥という鳥がいる、と。
 どうやらその名の通り、羽根が紅葉のような形をしており、秋から冬にかけて羽根の色が変わるらしい、ということだった。

 子どもの頃に聞く噂、というのは、どうしても惹かれるものがある。
 ただ不思議なことに、祖父が紅葉鳥について調べても、一切の記録は出てこないらしかった。そうなると余計に見てみたくなるのが人間だろう。

 祖父は僕が小学五年生の秋に亡くなった。
 ちょうど紅葉の色が変わる頃で、祖父は赤くなっていく紅葉を見ながら、その姿に紅葉鳥を重ねていた。


「本当にただの噂だったんかねぇ。見てみたいよなぁ、さぞかし綺麗なこったろう」

 僕の母も僕も、祖父の話を聞いて育った。母は興味を持たなかったようだけれど。
 僕だって特別に鳥に興味があるわけではないけれど、それでも好奇心をくすぐられるには十分だった。
 学校や街の図書館に行っては鳥の図鑑をめくった。やっぱり、紅葉鳥に関することはなにもわからなかった。


 僕が高校生になるとパソコンが普及し始め、幸いなことに学校に導入された。
 『紅葉鳥』をパソコンで調べることをすぐに思いつく。写真ひとつでも見つかれば、祖父の仏前に置いてあげたいと思った。
 どこに居るのかがわかれば、僕も自分の目で見てみたい。


 パソコンの前に座り、おぼつかない手つきで検索ツールを起動する。
 一本の指で、慎重に打ち込んでいく。慣れていない上に緊張で指が震えた。背中もじんわりと汗ばむ気がした。

 時間をかけて『紅葉鳥』と打ち込んだ。あとひとつ、ボタンを押せば。
 紅葉鳥のことがわかる。


 僕は意識してゆっくりと息を吸い、そして同じようにゆっくりと吐いた。


 カチ、とマウスをクリックすると、すぐに『紅葉鳥』についての検索結果がズラリと表示される。

 僕はその速さと量に驚き、そして、その結果に絶句した。





紅葉鳥(もみじ-どり)(もみぢ-)
 シカのこと。シカの異名。





#シロクマ文芸部 企画に参加しました。


久しぶりに参加できました、ギリギリ。

『紅葉鳥』が鹿のことを表すのを初めて知りました……!
でも鳥もいるらしい。 ( コウヨウチョウ - Wikipedia )

※ 作中での『紅葉鳥』の描写(噂)は架空のものです。


読んでいただきありがとうございます。

2023.11.05 もげら


シロクマ文芸部 企画参加ショートショート:
街クジラ お題:「街クジラ」
今日は誰の日? お題:「私の日」
私の日制度、導入 お題:「私の日」
鍵穴を探している お題:「消えた鍵」
ピアノの秘密。 お題:「消えた鍵」
時計の針が止まるとき、それは食事の時間 お題:「食べる夜」
楽しい時間 お題:「書く時間」
平和が訪れるとき お題:「平和とは」
文芸部の友だち お題:「文芸部」
擬態語ウォーキング お題:「ただ歩く」
夏の終わりの勇姿 お題:「ヒマワリへ」
文化祭(俳句) お題:「文化祭」
BAR seetin お題:「愛は犬」
秋の情報、もうひと工夫を お題:「秋が好き」
ミステリーツアー 〜月めくりの謎〜 お題:「月めくり」
走るか、走らないか、その先にあるのは お題:「走らない」
香りの思い出 お題:「秋桜」


練習 ショートショート:
君と何をしようかな
台風はアイスクリームを食べる
ペンギンのドライブ
Take A Step Forward.


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