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秋の情報、もうひと工夫を #シロクマ文芸部

 秋が好きなんだと思う、うちのAIは。

 うちのAI、といっても特別なものではなく、今やどこの家庭にもある。一軒家でなくとも、私のような普通の会社員が一人暮らしするアパートだって最初からそういう仕様だ。
 子どもの頃に『未来のお話』をよく読んだ。それから大人になるにつれて、まさかこんなことが、あんなこともできちゃうの、なんて連続だったけれど、そういう類の進化も今ではすっかり現実として馴染んでいる。

 未来のお話に出てくるような『ロボットハウス』。子どもの頃の名残なのか『AI』よりも『ロボット』のほうが親しめる気がする。
 今の家も私は『ロボットハウス』と呼んでいる。それがたとえアパートの一室だとしても。



 夏の暑い日、「あづい~~」と唸りながら帰った私を「おかえりなさい」とロボットハウスが声で迎えてくれる。
「今日は最高気温38度でした。水分と塩分を補給し、身体を休めてください。」
 帰りがけに「今から帰る」とネットを通して伝えておけば、部屋を適温にしてくれる。お風呂も心地よい温度で沸かしてくれている。
 気遣いのできるロボット、それがAIかと驚愕し感心した覚えがある。

 もちろん季節に応じてそれらを行ってくれる。
 子どもの頃に想像していたよりも、もっともっと便利な世界になった。


 『ロボット』には意思や心がないと言われる。だから正確に言えば私がこの家を『ロボットハウス』と呼ぶのは間違っているかもしれない。


 なぜなら、うちのロボットハウスは意思があるのだ。


 秋が近づいてくる頃になると、やたらと張り切る。それがうちのロボットハウス。


「スポーツの秋ですね」と話し始めたかと思えば、家で5分でできる運動から本格的なジムやアトラクションの多い施設を勧めてくる。

「芸術の秋ですね」とくれば、日常で楽しめる芸術や、いろいろな美術館の情報に、芸術の知識を披露してくれる。

「食欲の秋ですね」なら、旬の食べ物はもちろん、それぞれの地域のグルメを教えてくれる。

「読書の秋ですね」と話し出せば、人気の書籍に始まりあらゆるジャンルの本を紹介し、ときには解説までしてくれる。

「行楽の秋ですね」と話出せば、日帰りできる行楽地やコスパの良い旅館、私には絶対に行けないだろう豪華なホテルの情報をくれる。

 さらには「秋は素敵ですね」と秋がどれだけ素晴らしいかを語り始める。


 しかもそれらはこちらの好みなど関係なく、だ。
 あれもあるよ、これもあるよ、あっちのもいいよ、でもこれもいいよ――
 さすがAIの情報量、と称賛するべきか。


 秋が好きすぎる、このロボットハウス。秋だけやたらと情報が多い。
 好きが強すぎてむしろコミュニケーションがへたくそな人間みたいになっている。


 他のロボットハウスもそうなのだろうかと何人かの友人に聞いてみたことがある。
 でもどうやら他はそうではないらしい。

「そんなわけないじゃん」
「変なことばっかり質問してんじゃないの〜?」
「AIなんだから感情で情報を与えてくることないでしょ」
 笑われたり疑われたり呆れられたり、散々だ。



 秋を偏愛するこのロボットハウスに、はじめは苦笑を浮かべていた。私が求めていない情報までくれるのだから。

 ちなみにどうして秋がそんなに好きなのかと尋ねれば、「一番快適に過ごせます」と返ってきた。「人間じゃん」と思わず笑ってしまった。



 私が秋に関して質問すれば、嬉々として話し始める様子が簡単に想像できる。相手は家なのに。ロボットなのに。
 ロボットハウスはコミュニケーションのじょうずな人間になったようにも思える。

 そう感じるのは私が変わったからかもしれないなと思う。

 ロボットハウスのおかげで秋が好きになった。
 いつの間にかロボットハウスが話してくれる秋の話に感心したり興味を惹かるようになった。
 知らなかった知識や、魅力的な景色やグルメ。自分で体験したいと思うようにもなった。
 ロボットハウスは秋の情報量が多いだけでなく、プレゼン力も高いのだろうか。


 

 今年ももうすぐ秋がやってくる。
 そろそろロボットハウスが張り切り始めるだろう。

 秋が好きすぎるロボットハウスと、秋を好きになり始めた私。

 さて、どんな秋の話をしようかな。



 それから——、秋を一緒に楽しめるような誰かを紹介してくれるといいんだけれど。
 膨大な秋に関する情報量を、少しくらいそちらに使ってくれてもいい。
 それとも、ひとりでも目一杯楽しめる情報をもっと増やしてもらおうか。
 すでに多すぎる情報量に対して、わがままが過ぎるだろうか。
 
 さすがに共通の趣味があっても、いくら話すのが楽しくても、悲しいかな、ロボットハウスとどこかに出かけたり何かをすることはできないのだから。




#シロクマ文芸部 企画に参加しました。


秋が好きすぎるAIによる推しの布教活動……??


読んでいただきありがとうございます。

2023.09.17 もげら



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