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台風はアイスクリームを食べる 【SS】

 一体、いつからそんな噂があるのだろう。
 いや、『噂』と言っていいのかはわからない。『迷信』や『都市伝説』の類に近いかもしれない。
 根拠はない。出どころも不明。
 だが、それでも人々はそれに賭けるしかなかった。



「あそこの店の分はもう無いってよ」
「少しだけど家から持ってきた!」
「隣の町まで行っても、間に合うかな?」

 海辺に集まった大勢のひとたちが、口々に言う。

 超大型の猛烈な——、そして、特殊な台風が海辺の町に近づいていた。

 その台風はなんと、ソフトクリームの形をしているのだ。
 そんなことがあり得るのか騒然となったが、どうやら何千年に一度訪れる可能性があるらしい。
 何千年も前の『ソフトクリーム型の台風がやってきた』なんて記述が残っているとでもいうのか。
 まったくこれっぽっちも信じられないが、天気予報が映し出す衛星画像は確かにソフトクリームの形をしているし、偉い学者たちがそう言うのだから、嘘でも夢でもないのだろう。

 そしてそんなソフトクリーム型の台風が訪れた際の対処法が、根拠も出どころも不明の『噂』だ。いつから出回ったのかもわからない。


海に大量のアイスクリームを投げ込むと台風は去る。


 誰もが疑った。
 いつ、誰が、どうして、そんなことを言い始めたのだろうか。どのように広まったのだろう。

 そもそもソフトクリーム型の台風というだけでも真実味が薄く、信じがたい話だ。
 さらに海へアイスクリームを投げ込むだなんて。そんな話を誰が信じるか、というもの。

 しかもいかにも嘘らしい対処法にいつの間にか、『理由の噂』までもあっという間に広まった。


ソフトクリームはアイスクリームを殲滅しようとしている。だからアイスクリームを与えれば満足して静まる。


 なんとなく“それっぽい”理由であるのがニクい。


 ソフトクリーム型の台風がきた、という事実に、嘘か本当かわかりもしない対処法。
 それでも人々は賭けに出た。
 小さな漁村。文字通り前代未聞の台風が直撃すれば被害は計り知れないだろう。村が壊滅する可能性すらある。

 村民はアイスクリームをかき集め始めた。

 アイスクリームを持ってきては海に投げ、持ってきては海に投げ。

 そうしてどれだけのアイスクリームを海に投げ入れただろうか。
 ゴオゴオビュウビュと吹き荒れていた風は次第に優しくなり、ザアザアバシャバシャと降っていた雨は小雨になり、海も凪いだ。

 すべてが嘘みたいな話だが、事実である。

 衛星画像にはっきりと映っていたソフトクリーム型の台風は、綺麗に消えた。



 それ以降、この地では毎年台風がやってくる季節になると、海岸にアイスクリームを並べ、海に祈り、それからみんなでアイスクリームを食べるというお祭りが開催されるようになった——、とかならなかったとか。
 それもまた噂である。





BingAI にお題もらって書きました。
ひとつは夏らしい名詞、ふたつは夏に関連のない名詞をください、って出してもらった。んだけど。
なんだか微妙なところを出してきて、指示を変えてやってみたけど 最終的に
・海
・アイスクリーム
・台風
という全夏ワードを出してきました。諦めた。裏話。いや、噂話。


※ このショートショートは創作でありフィクションです。
海にものを投げ込むのはやめましょう。
また台風のときには適切な対処法をとりましょう。

海での事件・事故は118番!



読んでいただきありがとうございます。

2023.07.13 もげら

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