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今日は誰の日? #シロクマ文芸部

私の日だね。

机に広げたノートに書き入れる。

『今日はね、嬉しいことがあったよ。』
そうして彼女は、今日起こったことを書き連ねていく。

彼女が今書き込んでいるより前にも、同じようにその日の出来事が書かれている。
どの日も『今日は私の日』『僕の日だよ』『アタシが書くよ〜』というように始まっている。名前の記入はないが、彼女にはそれを書いているのが誰かということがわかっている。
そこに並ぶ文字は、筆跡も違えば感じていることもバラバラだ。


『今日は気になっている彼とたくさん話せて嬉しかったなぁ。』
『今日はゆうひがすごくきれいだったよ。』
『せんせーって本当に嫌い!』


それぞれの想いのままに書かれている文章が詰まったノート。
ただひとつ、その日の出来事を書く、というルールはあるらしかった。


『あ、そうだ。昨日書き忘れてることあったでしょ? 隣のクラスの本田くんが「漫画貸してくれるって言ったじゃん!」って言ってたよ。も~! 「別にいいけど」って言ってくれたからよかったけど!
さっきカバンに入れておいたからね。明日渡すこと。』


彼女は確認するように二度三度と読み、うんうんと頷く。
「よし、オッケー」

そして書き終えると、ノートは広げたそのままにしておく。


明日の朝、このノートを読み、明日の夜、このノートに書くのは誰だろうか。
彼女かもしれないし、そうではないかもしれない。


「明日の“誰か”、よろしくね」

祈るように彼女は呟いた。




#シロクマ文芸部 企画に参加です。


読んでいただきありがとうございます。

2023.07.07 もげら



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