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『空想 日常鳥図鑑』『つぎはぎポケット』を振り返る

同人サークル【文売班 白黒斑 / Boolean Monochrome】は2023年9月開催の文学フリマ大阪11にて絵本『空想 日常鳥図鑑』および詩集『つぎはぎポケット』を発表・発売いたしました。本記事ではサークルメンバーが本書の制作について振り返りを行った記録を掲載しています。


『空想 日常鳥図鑑』

制作の経緯

水 (= 水述 諦)「今年も座談会の季節がやって参りました。語り部はBoolean Monochromeの水述みずのあきらと」
彩 (= 彩田チエ)「彩田さいたチエでお送りしております」
水「よろしくお願いします」
彩「よろしくお願いします」
水「……入り、こんな感じで良いですかね?」
彩「ラジオみたいな。
今回この『空想 日常鳥図鑑』の解説をしていきたいと思うんですけれども。まずこの本を作ったのは自分が大学生の頃なので……」
水「オリジナルがあるわけですね」
彩「何年前かな、■年前くらい……」
水「年齢不詳じゃなくて大丈夫ですか?」
彩「本当ですね。ありがとうございます、伏せといてください。笑
元々私は鳥が好きで、巻末にも『セキセイインコを2匹飼っていた』と書いたんですけども。あとはオリジナルのキャラクターを作るのも好きで、鳥と空想のキャラクターをかけ合わせてできたのがこの本になります」
水「良いですね。
大学のときに作ったというのは、何かきっかけがあったんですか?
彩「そうですね。大学で美術サークルに入っていまして、そのサークルの中の展示会で出すときに作りました」

表紙

水「中身を順番に見ていきましょうか」
彩「一匹ずつ見ると長くなっちゃうので、好きなやつだけ。
全部で16キャラクターいるんですけど、図鑑と言いながら順番は特に名前順というわけでもなく」
水「図鑑と名の付く本の中で薄さランキング上位に食い込みますね」
彩「そうですね。笑 圧倒的に薄い」
水「この世界における鳥はこんだけしかいないから図鑑として成立してはいるっていう」
彩「確かに。第2弾ももしかしたらあるかもしれないですが、一旦はこれだけのキャラクタだと」
水「まあ、オーキド博士が151匹だと主張してから900匹くらいポケモン見つかってるので良いんじゃないでしょうか。後で見つかってからちゃんと図鑑に起こせば良いですから」
彩「現在見つかっている全ての鳥ということで。
タイトルの解説なんですが、名前の通り『日常にこんな鳥がいるかも? しれない!』という空想の下で作っています」
水「空想と日常が並んでいるのが良いですね」
彩「ありがとうございます」
水「表紙でだいたいのキャラが出てるんですか?」
彩「全キャラ出てますね」
水「じゃあもうネタバレRTAだ。ページを開ける前にネタバレが行われてはいるんだ」
彩「そうですね。最初からネタバレは喰らわされております」
水「とはいえメザマシニワトリのインパクトが大きいので、良い意味で一つひとつを見ないですけどね。これくらいいっぱいいるんだな~と認識してもらって、中身でちゃんと楽しんでもらうという」
彩「そうです、そうです」

モチブンチョウ

彩「中身に移ります。自分のお気に入りのキャラだけ見ていきます。まずは『モチブンチョウ』ですね。ブンチョウが餅みたいにべちゃってなっているのをよく見るので、これを描きました。ここにも書いているんですけど私は砂糖醤油の餅が好きです」
水「あーね」
彩「ちなみに水述さんは何の餅が好きですか?」
水「餅はねぇ……砂糖醤油ですねぇ」
彩「一緒だった。笑」
水「砂糖醤油でしょ!」
彩「美味しいですよね。私の友達は海苔が巻いてある餅が好きって言ってました」
水「海苔の場合は醤油をかける? 海苔だけ?」
彩「どうだろう、醤油ちょっと付けて海苔を巻いてるのかな」
水「全然話が変わるんですけど、餅って焼くの面倒臭いじゃないですか。餅を置いて電子レンジでチンしたら餅が焼けるっていう台みたいなのがあって」
彩「なんかありますね」
水「──あれ、好き。笑」
彩「笑」
水「あの台、生活を豊かに便利にしてくれるから好き。それはそれとしてモチブンチョウから離れすぎ」

ヤサイダチョウ

彩「次は私が地味に好きな『ヤサイダチョウ』です。これのポイントは体臭がすごい野菜が揃っていること」
水「トマトとニンジンは別?」
彩「別ですね。タマネギ、ニラとか」
水「ニンニクとかは無いんですか?」
彩「ニンニクは思いつかなかった」
水「たとえばニンニクを乳首のところに……」
彩「嫌だよ!笑」
水「笑」
彩「絶対嫌です。良かったです、それを採用しなくて」
水「股の間とかでも良いと思うけど」
彩「嫌だなぁ。めっちゃ嫌だなぁ。笑」
水「笑」
彩「ああ、転げないでください! 転げないでください!」
水「わからんよ。『※ 座談会中、水述はバランスボールに乗っています』という注釈が無いとそのツッコミは意味がわからんよ。笑」
彩「書いといてください」
※ 座談会中、水述はバランスボールに乗っています
  そして、笑い過ぎでボールから転がり落ちました

キカイワシ

彩「続いては、イラストを頑張ったという意味で『キカイワシ』。書き込みを頑張りました」
水「これ、作画コストがどう見ても高いじゃないですか。大変ですよね」
彩「一番大変でしたね。突然かわいらしい中になんでこんないかついのおるねんって感じかもしれないんですけども」
水「これ、身体が機械で出来ていることと、南京錠を持っていることはよく考えたら全然関係が無くて。笑」
彩「笑 なんかそれっぽいなというだけの。笑」
水「この南京錠が無くてもキカイワシではあるという、個体として。そこが面白いんですよね。ただただ持っているという。
でも、あれか? こういう可能性がありますけどね。くちばしピ」
彩「くちばしピ?」
水「鼻ピみたいな」
彩「あーそういうことか。くちばしピアス、そうかもしれない。すごいご飯食べにくそうですけどね」
水「食べにくいでしょうね。鍵が無いから外せなくてキーキーkey key言ってそう。
これ『油差してあげると~』と書いてあるので、もしかしてねじを回さないと動かないんですか? ねじは誰かが回してくれる?」
彩「それはー、まあ、どうしましょうかねぇ。笑」
水「機械式の腕時計とか、一日一回、同じ時間にねじを回しますからね」
彩「そうですね。じゃあ毎朝誰かが回しているのかもしれない。機械好きの人の家に棲息していて……」
水「あるいはキカイワシ自体が動くから、その動力で勝手に回るという説もある?」
彩「自分で回すことができるかもしれない。……というような感じです」
水「良いと思います。逆になんかすみません、"素人質問" をしてしまって。
彩「いやいやいや、全然」
水「追い詰めてしまいました」
彩「とんでもないです。笑」

ワタエナガ・ホコリエナガ

彩「『ワタエナガ・ホコリエナガ』これはお気に入りです」
水「ワタエナガとホコリエナガは種別として別なんですか? それとも、ワタエナガがホコリエナガになるんですか?」
彩「別ですね。別だけど近縁種というか。エナガの一種です」
水「見た目が違うだけで運命が大きく変わる。蝶と蛾みたいな」
彩「笑」
水「蝶と蛾って一緒らしいですけどね、個体としては」
彩「そうなんですか。エナガも蝶と蛾と似たようなもんかもしれないですね」
水「かわいそうに、ホコリエナガ」
彩「でもホコリエナガもかわいいですからね」
水「NHKの『えいごであそぼ』っていう番組に埃まみれのキャラいません?」
彩「いますね。ゴミみたいなやつ」
水「あれ思い出すなぁ」
彩「もう一人も白いですからね」
水「一度あの画像をみんなで見ましょう、今。
[検索] NHK ゴミ
さすがに出ないか。
[検索] NHK えいごであそぼ
あっ。「NHK えいごであそぼ ゴミ」っていうサジェストがありましたね」
彩「なんか番組をディスってるみたいですね」
水「──ケボ」
彩「ケボ?」
水「検索候補に『えいごであそぼ のゴミの名前は?』っていうのがあって」
彩「ひっどい質問」
水「答えが『ケボ』」
彩「ケボなんだ」
水「あ~これこれこれ~! モッチとケボだって。
というか、ケボ汚すぎん? マジで」
彩「身体が灰色なだけじゃなくて色々付けてますからね、身体中に」
水「ねえ。付けてるのが汚いわ。付けてなかったらまだそういう固有種という納得感はあるのに」
彩「何なんですかね、あれは」
水「モッチは餅がモチーフじゃないですか、確実に。ケボって何だろうね。どこかに書いて……『毛ぼこり』!」
彩「えっ!」
水「ゴミじゃん!」
彩「ゴミじゃん! まさかの」
水「『身体に付いているカラフルな装飾はゴミとのこと』」
彩「ゴミなんだ、本当にゴミなんだ! なんだ良かった(?)、公式がゴミって名言してるんだ」
水「そんな不遇なキャラを作るな~!」
彩「かわいそうに」
水「ヤバいな。やりすぎているな、これ。いじめじゃん」
彩「ねえ。かわいそうに」
水「面白い。面白い雑学を知ってしまった。毛ぼこりのケボ」
彩「そう思うと本当に、ワタエナガとホコリエナガにそっくりですね」

クジャク卍ガール

彩「続いては隣のページの『クジャク卍ガール』です。これを描いた時は■年前なんですが、時代がちょっとばれてしまう感じがありますね。笑 卍が新しかった時代。今どきの女子とか書いてますが、卍が古くなっちゃいましたから。エモさとして受け止めておいてください」
水「今の女子大生の感覚だと何ガールになるんですか?」
彩「今どきに付いていけてないのでわからないですね。……ひと昔前なら『クジャクエモガール』かもしれないですね」
水「時代によって名前は変われど、時代に不変のぐっと来る部分を集約した鳥っていうことですね。
このアイテムは羽の部分に描かれているんですか? それとも物理的にファンデーション、ワンピースが内包されている? どういう状況なんですか、これは」
彩「内包ですね。笑 名前は書いてないですけどね、ネイルとか」
水「じゃあこのクジャク乱獲されませんか?笑」
彩「笑 柄ですね、柄です」
水「あ、良かったです」
彩「危ないですね、リングの部分とか乱獲されちゃいますね」
水「ハート型に穴の開いたかわいそうなクジャクがいっぱい生まれてしまうところでした」

スズメパン

彩「『スズメパン』これ、お気に入りですね。アンパンスズメがかわいいと思ってます」
水「パンの絵を描いて食べていったら良いと思いますよ」
彩「本当ですか?」
水「パンの絵が良い。チョココロネスズメの艶めき方とか良いですね」
彩「ありがとうございます」
水「ちゃんとチョココロネの色してますしね。でも顔だけ見たらけっこういかついというかガングロじゃないですか」
彩「ガングロ。笑」
水「背の低いいかつめのおじさんが入ってそう」
彩「やめてください、そんな」
水「チンピラのおじさんのスズメの可能性がある、この色味は」
彩「チンピラじゃないですからね、かわいいスズメです」
水「アンパンスズメは20年間家から出ずに丸々と肥え太ったニートでしょう?」
彩「やだなー。食パンは?」
水「箱入り娘ですね、これはね」
彩「形がね」
水「形が」

シャンプーペンギン・リンスペンギン

水「『シャンプーペンギン・リンスペンギン』なんですけど、これってシャンプーするときとかに目にシャンプーが入ると目が開けないじゃないですか、そういうときにどうやってシャンプーとリンスを手で触って判別したら良いんですか?」
彩「これはですね、大きさですね」
水「ありがとうございます、大きさですよね。実際は切れ込みがあるじゃないですか、あれが無いから大きさなのかな? と気になっていたんですよね。リンスの方が子供であると」
彩「これね、種類が違うんですよ。シャンプーはコウテイペンギンで、リンスはジェンツーペンギンとかアデリーペンギンがモチーフになっています」
水「そう言われるとコウテイペンギンに見えてきた!」
彩「見えてきた!笑」
水「よく見ると柄の違いとかがね」
彩「色合いも違う。お腹の斑とかもですね」

メザマシニワトリ

彩「メインの『メザマシニワトリ』。これけっこうお気に入りですね」
水「これ良いですよね」
彩「メインを張れる元気なキャラクター」
水「7時なのがね、ちょっと遅めなのが良いですよね。笑」
彩「笑」
水「ニワトリなのに5時とかじゃないんだ~っていう。調整の問題かもしれないんですけど、7時なんだ~っていう気持ち」
彩「作者はあまり早起きが得意じゃないので、あんまり早く起きたくなくて7時くらいにしてますね」
水「7時に設定している場合のメザマシニワトリを6時くらいに見たら目を開けた状態で待機している可能性がある、こけこっこー言い待ちみたいな」
彩「うわぁってなりますね、うっかり6時に起きて見てしまったら。目がぎんぎんに開いているニワトリ」

物語『セイラの日常』

彩「ここまでお気に入りのキャラクタを紹介してきたんですけども、最後に水述さんに書いていただいた後半ページの物語の紹介を」
水「はい、喋ります。
26頁までのオリジナルの絵と文章を踏まえて、何かそれっぽい付録の文章を僕の方で添えますという話になったので、本編を読んで思ったことというか、この世界観で広げられそうな話を少しだけ考えて書いてみました」
彩「ありがとうございます」
水「なんかね、絵本っていう制約があったので、どこまで対象年齢があるのかっていうのはずっと気にはかかっていて。もちろんけっこう大人向けだとは思うんですけど、読者層とかは敢えてそんなに意識しないことに決めて、ごりごりに叙述トリックを……。笑」
彩「笑」
水「ちょっとね、やってしまいましたね。笑」
彩「良いと思いますよ。笑」
水「この物語に関して、少し反省がありまして。販売時、お客さんにパラパラと見本誌をめくっていただいているときに、けっこう最後のページを見てしまう方が多くて」
彩「それは思いましたね」
水「それは予想していなかったので、反省ですね。……いや、反省と言っても我々にはどうしようもないんですけどね。見本誌の最後のページだけを塞ぐということはできなくはないですけどあまりやりたくないので」
彩「やるとしたら袋綴じみたいになっちゃいますかね」
水「袋綴じはえっちになっちゃうので」
彩「えっちになっちゃう。笑」
水「この本において最後のページが袋綴じだった場合、袋綴じを開いたら確かにセーラー服の女の子が出てくるけど。笑」
彩「笑」
水「人類史上一番しょぼい袋綴じになってしまう」
彩「笑」
水「挿絵も描き下ろしていただいたのでね、ありがたいですね」
彩「全キャラ出してくださって」
水「そうなんですよ、全キャラ出すっていうのが制作の過程で一番難しくて、なんとかやり遂げましたが、ほぼ唯一解だろうという話の流れになりました。全キャラを出さなければならないという制約がある以上、話を広げる余地が無くて。こういう事の運びしかないなと。あるべくしてできた物語、という印象ですね。
そういえば挿絵の25頁のスズメパン、これ、息できないんですけど大丈夫ですか? 前から気になってたんですけど」
彩「言ってましたね。空気穴が開いているタイプの袋なので大丈夫です。
このキッチンの小話なんですけど、砂糖とか醤油とかがある調味料置き場の上ににゴムノアヒルが紛れているという」
水「お風呂場からどうやってここまで来たんだ……」
彩「あとこのキッチンは、うちのキッチンがモチーフになっていますね」
水「あー! そのエピソード、良いエピソードだ! そういうのだよ、そういうのが座談会には必要!
実際、オートミールとかは家に存在しているんですか?」
彩「あります」
水「あるんだ」
彩「オートミールの前にある魚の袋に『mew』って書いてあるんですけど、カモメのことなんですよ。伏線を張ってあります」
水「そういうこと? mew gullですね。気付かなかった。
あともう1点、モチブンチョウって耐熱性があるんですね。熱された鍋の中に置かれてますけど」
彩「この子はオゾウニモチブンチョウなので大丈夫です」
水「熱に強い。赤ピクミンじゃん」
彩「赤ピクミン。笑」
水「オゾウニモチブンチョウは赤ピクミンと似ているという知見が得られました。いつ使うんだ」
彩「次のページです。このイラストは一番お気に入りです、飛び出しているホコリエナガ」
水「これ良いですね。
書いた文章を彩田さんに転送して、文字の配置とかはこちらはノータッチだったので完成品はどうなるのかなと思っていたのですが、良い感じになりましたね。3Dだ、3D」
彩「絵の下にある物語のところまで出てきているように配置しました」
水「ページめくりまして、オチですね。彩田さんには以前にも言ったんですが、このセーラー服、結果的に着脱式になってしまいましたね。笑」
彩「そうなんですよねー。笑」
水「元々、模様であるべきだったのに、物語を考える際に僕が意識できていなくて、結果的に『セーラー服を着る』という表現を地の文で書いてしまったがために、後付けて着脱式ということになってしまいました」
彩「脱いだらただのカモメになっちゃう。スタンダードカモメ」
水「付随して、こういう紐みたいなセーラー服を販売している場所があるということになってしまいました。笑」
彩「笑」
水「何の変哲もないカモメのために、こういう紐みたいなセーラ服を製造している工場があるということになってしまいました。すみません」
彩「いえいえ、それはそれで面白いので。私も読んでいて気が付かなかったので」
水「まあでも、オチ含め、全体として良いものができましたね」
彩「ありがとうございます」
水「こちらこそありがとうございます」

『つぎはぎポケット』

目次

水「次は『つぎはぎポケット』の中身について話をしていきたいと思います。この本は、Boolean Monochromeとしては3冊目の本になります。
今年は分業制を取っていて『空想 日常鳥図鑑』は彩田さん担当のプロジェクト、『つぎはぎポケット』は水述担当のプロジェクトという形で進めました。そういう意味では、僕の責任で出した本としては『Shall we デカダンス?』に続く2冊目の本になりますね。水色の文庫本のシリーズですね。
目次をぱらぱらとめくってもらえれば31のタイトルがありまして、詩集になっているんですね。解説文にも書いてあるのですが、テーマが7つありまして、一応、なんとなくシンメトリーになっていると。こだわりといえばこだわりではあるんですけども。1章と7章、2章と6章、3章と5章が対応しているだとか、タイトルの文字数が揃えられているだとか、章の一つひとつのタイトルが凹凸状になっていて対応する章と組み合わせたら綺麗にはまるだとか。だから何だと言ったら特に深い意味は無いんですけども。
それがわからないままぱっと目次を見ると特に何も思わないかもしれませんが、実は規則性がある、それに気付くと面白い、みたいな感じですね。
さて、どうやって進めていきましょうかね。野暮なのでさすがに全部は語るまい。1章で気になった詩はありますか?」
彩「えー、どれかなぁ」
水「特に無い?」
彩「笑 そんなことはないですけど」
水「特に無ければ座談会を終わりますけども……」

1章 - 開悟の花々

彩「こだわりの詩はどれですか?」
水「1章で言うと、今ここで語っておきたいのは2つですね。18頁の『開悟の花々』というのが個人的に好きで」
彩「これ、すごいなと思いました」
水「あのー、えー、ドラッグが好きなんですよね」
彩「うえー!? 衝撃発言」
水「やるわけじゃないですけど。笑 ドラッグおよびドラッグを取り巻くアンダーグラウンドが好きで、例えばドラッグに酔っている人って安全圏から見ると楽しいじゃないですか。見世物としての酔いどれ。アルコールでへべれけになっている人を眺めるのも楽しいかなと思うんですけど、それに1個プラスアルファで、法を犯しているっていうオプションが乗ってくるので、ますます楽しいんですよね、見るのが」
彩「笑」
水「しかもドラッグって多種多様にあるので、飛び方が色々違うんですよね。アッパー系とダウナー系というのがあって、テンションが上がる薬もあれば下がる薬もあるという。その辺の多様性を見せていきたいなっていう」
彩「だからそういう風に薬物の名前が書いてあったのか」
水「一応『実録 ドラッグ・リポート (草下シンヤ)』という本を参考文献として読んだりもしましたね」
彩「そうだったんですね」
水「それから、アナロジーで『宗教ってドラッグみたいだな』と前々から思っていて。当事者にとっては救いだが他者から見るとただ巣食われているだけである、破滅そのものである、という部分がまさにドラッグライクだなと思ったので、その類似性を表現してみました。
──良い感じにきしょい文章になったかなと思ってます♡」
彩「そうですね。笑 良い感じにきしょいですね」
水「最初は『1997年』とか書いてあるから、読んでいる側も古い話なんだなと認識して当事者意識が希薄なんだけれど、最後に急に『2023年』と来るのでどきっとすると思うんですよね。今に繋がってきて。きしょいですねぇ。あと、34歳って痛すぎるからな。救いようがない。かわいそうに」
彩「見てる側からするとわーって感じですね」
水「わーっていう気持ちを読者に植え付けたかったから、それが伝わっているのであれば成功しているかなと思います。
タイトルは『解語の花』という言葉から来ているんですけども」
彩「あるんですね」
水「言語の語に理解の解ですね。言葉を読み解く花、つまり花のように美しい人に対して使う誉め言葉です。それをもじっています」

1章 - 右利き優遇社会において彼女が左利きであることに

水「次は22頁ですかね。これ、面白いエピソードが1つありまして。
この本は色々なところで僕が手売りしているんですが、50代の男性に売ったんですね。そしたらぱらぱらーとこの本をめくって『字が小さいなぁ、老眼だから見えんよ~』って言ってたらたまたま22頁になって『あ~、読みやす~い』って言ったのが、死ぬほど面白かったです。笑」
彩「笑」
水「このページだけっていう。ごめんなさい、そういうコンセプトじゃないんです、読みやすいから字を大きくしたわけじゃないんですって」
彩「笑」
水「全ページがこの文字のフォントサイズだった場合、買った人から怒られちゃうよ、逆に」
彩「デカさで埋めとるやろ、って」
水「この作品でタイトルと本文を逆にしている意図は、愛情のねじ曲がりというか『そうじゃないんだよな、逆なんだよな』っていうツッコミが含意されているんですよね。正位置での愛情を持つべきであるけども、全く頓珍漢な方向に走っているよねっていう」
彩「今読んで良いですか? これ。それを踏まえてもう一度読んでみたくなってきました」
水「良いですよ。
相手に対して愛情を注いでいるように見せつつ、結局自分善がりなところが逆なんだよなぁ、というお話ですね」
彩「そういうことなんですか」
水「良いでしょう?」
彩「めっちゃ良いじゃないですか」
※ しばらく彩田の黙読タイム

2章 - Hearty Harmony

水「次の章に行きます」
彩「生活」
水「やっぱり最後の『Hearty Harmony』は良いですね」
彩「あっ、これね、良いですね」
水「たぶん31編の中でもっとも長い一編だと思うんですけど。なんか……人生が書きたかった。笑」
彩「笑」
水「人生が書きたかった、が、人生は容易に文章に起こせるような代物でもないので、起こせないなりに敢えて情報を捨象して箇条書きで淡々と並べていくとそこに物語は生まれるのかどうか。という考えで書きました」
彩「実験的な」
水「事実だけを並べてはいるが、一応その人の心の機微が乗っかってくるじゃないですか、行動には。『しなきゃいけない』だからなのかな。人によって何をしなくちゃいけないと思うかが違うはずなので、この人にとってはこれらが物事の優先順位高いものなんだなと思うと、この人の人生が色濃く表れているのではないかと思ったりはしますね」
彩「なるほど……」
水「これね、色んな会社で、朝礼で朗読してください」
彩「はっはっは」
水「良い文章なので」
彩「良い文章ですね」
水「まあそんなわけないんだけどね」
彩「それはそう」
水「みんなで朝から『ケイドロしなきゃいけないし』とか言ってたら意味わかんないから。笑」
彩「笑」
水「怖すぎるから。しかも読むのけっこう時間かかるから」
彩「朝の貴重な5分、10分が」

2章 - Day By Dry Battery

水「あとは、ちょっと戻るんですが26頁の『Day By Dry Battery』。これ、けっこう昔に書いたやつを少しだけ修正したものなんですが、わりと好きですね。どこまで伝わるかわかんないんですけど。
消耗・摩耗・摩滅……のところとか、一文字ずつ残して次へ次へと書いていっているんですけど、このギミックけっこう好きです」
彩「そういうことですか、なるほど。今気づきました。すごいな」
水「この章のテーマが生活なので、初っ端に持ってくるものでもないかもしれないが、生活の大変さを書きたいよねという思いが。いやぁ、やっぱみんな仕事している人は偉いんでね」
彩「ねえ、本当に。頑張ってますよ」
水「頑張っていると思うんですよね。頑張る人たちを応援する仕事は存在しないじゃないですか、残念ながら。数ある仕事があって、各々がどれか1つ選んで仕事してますけど、それらを勇気付けるような仕事が存在していないので、その代わりとまでは言いませんけど『みんな頑張ってるよね』という気持ちだけ。それを思っている人がいるよということだけ」
彩「良いじゃないですか。みんなの救いになれば良いですね」
水「なってくれ」
彩「なってくれ。笑」

3章 - そうこばん

水「3章に行きます。3章は打って変わって急にトリッキーゾーン」
彩「ここ好きですよ、私。トリッキーゾーン」
水「ここは僕の得意分野でもあるので。
『そうこばん』──これは説明でもしないとなかなかわからないですよね。左と右が対応していて、左のルビが右になっているんですけど。何をやっているかというと、そ・う・こ・ば・ん、というひらがな5文字で文章を書くという、いわゆるリポグラムというやつですね。あまり日本にはリポグラム小説が存在していないので、リポグラム自体の知名度は高くないですね」
彩「そうなんですね」
水「日本で一番有名なリポグラム小説は筒井康隆の『残像に口紅を』という小説だと思います。全50節からなるんですけど、第1節の時点で『あという文字が無かったら』から始まっていて、ずっと『あ』が使われていない文章が続くんですね。主人公は朝について考えているんだけども、それの名前が思い出せないから、朝というイメージ的なものに得も言われぬ気持ちを抱くんですよ。1節進むごとに五十音を一つずつ失っていって、最終的には『そうこばん』でやっているような数文字で書き続けるというのをやっているんですよ。それで一冊書いているんですよ、筒井康隆は」
彩「すごい」
水「間違いなくリポグラムの最高傑作だと思います。
もう一つ有名なリポグラムがありますね。西尾維新がリポグラムに対してド直球で向き合った『りぽぐら!』という本です。この本はまず普通に短編小説を一つ書いた後に、50音からランダムで選ばれた10文字くらいを使えなくした上でオリジナルと同じ内容の小説をもう一度書くんですね。しかも、使えない文字の組み合わせを変えて何度も。オリジナルの小説に対して4通りのコピーが生まれるんですよ。選ばれた文字が全然違うと、全然書き味が変わってくるんです。読んでても同じ物語でないように感じます」
彩「小説家の遊びみたいな」
水「やっぱり文字の当たり外れがあって、例えば「だ」「です」「ます」のような末尾に使える文字が残っていなかった場合は、体言止めで逃げたりとか。「り」とか「け」しか残ってないときに、西尾維新が「~けり」「~なり」にして古語にして逃げていたのは、非常に面白かった。そうなるよなとは思いつつ、完全に古文でしかないからめちゃくちゃ笑えるっていう」
彩「高貴な遊びや、すごい」
水「オリジナルの小説に対して文字制約ありの小説を4つ作って合計5つ。これが3セット。つまり短編が15本入っています」
彩「けっこうボリュームがありますね」
水「ただ、小説の結末自体はわかってるから、ネタバレされた状態で同じ物語を12回読む羽目になるっていう。笑」
彩「笑」
水「だから結末を楽しむような本ではない。言葉の選び方を楽しむ本です。
あとは、海外の有名なリポグラムでジョルジュ・ペレックの『煙滅』っていう本があるんですけど。現地のフランス語でもっとも使われているEの文字を、この本では一切使っていません」
彩「けっこう難しそう」
水「かなり難しいでしょうね。敢えて一番頻度の高い文字を潰しているので。フランス語がわからないので原著は読めていませんが、けっこうおもしろいと思います。
しかも、もう一個すごいのが、これの邦訳版が出ていて」
彩「どうすんねん」
水「日本語版はイ段を消してます」
彩「あっ。イ段?」
水「いきしちにひみいりゐ」
彩「そういうこと? えー……」
水「だからもう別作品なんですよね」
彩「そうですよね。笑 日本語版と言いつつ」
水「もうヤバすぎるだろっていう。翻訳もしながら別の挑戦もしてるだろっていう。もうこれは翻訳ではない。翻訳家の仕事の範疇を越えてますね、完全に」
彩「新しいものを生み出してますよね」
水「つまりリポグラムっていうのはそういうのなんですけど、そういうのをやりたかったんですよね。
まずは『そうこばん』。これ、あの、うんこ出てくるから好きなんですよね」
彩「なんちゅうこと言ってんですか」
水「やっぱうんこが一番面白いからね」
彩「けっきょくね、万国共通で笑えますからね」
水「なんかうんこって、下ネタの中で性別の違いによる立場が無いじゃん。ニュートラル・シモなんよね。だから万人受けしやすい。万人が出すものだから」
彩「そうですね。性差が無いから嫌悪感がまだ少ないですね」
水「だから……だから、僕は、うんこが好き」
彩「笑」
水「笑」
彩「格言みたいにうんこを語っている人がいます」
水「この本、会社とかでも手売りしたりしてるんですけど、社長が買ってくれまして」
彩「えっ。すごっ」
水「だから、社長がプライベートで読んでる活字の中にうんこ入ってるのおもしろ~って思って。笑」
彩「笑」
水「それを思うだけで毎日楽しいですね。笑」
彩「最高やな」
水「良かった~」
彩「買ってもらって良かったですね」
水「本当に良かった~」

3章 - かったなし

水「次に行きましょう。『かったなし』です。
これは『そうこばん』のページをぺらっとめくって『あっ、作者はそうこばんで全力を出し尽くしたから、二作目のリポグラムはさっきよりも短くなってるんだな』と思わせるために、こういう配置にしています」
彩「そうなんですね。これは長いですもんね」
水「実は3ページ続いてるんですね。怒涛の長さですね。しかもちょっと内容も悲しくて……」
彩「これ……これすごいですよね、衝撃展開」
水「『そうこばん』は、さっき言及した『末尾が全て体言止めになってしまうパターン』だったのですが『かったなし』には「っ」と「た」が入っているので過去形が作れます。だからその分、話が広がるというか、文章を続けやすくなっています。
この5文字の選定はランダムというわけではなくて、独自に頻度の高い文字を炙り出したり、使いたい単語を基準にして恣意的に選抜したりしているので、比較的書きやすい5文字ではあります。それでも一般的にはあまり使われないような単語が本文に出てくることにはなるんですが、それはリポグラムのルール上仕方が無い。むしろそれ故に『こんな言い回しはせんやろ!』という奇妙なフレーズが出てくるのは、リポグラムの楽しむべきポイントだと思うんですよね。
買った梨に対して『市価しかたかかった』とか言わないですし。あとは『鹿しか獅子しししかし』とか『案山子かかし下肢かし』とかも好きですね」
彩「口に出して言いたくなりますね」
水「声に出して言いたい日本語ですね。これ、あのー、色んな会社で、朝礼で朗読してほしいですね」
彩「頭おかしなりますよ、だんだん何言ってんやろって」
水「全員で『かたかった しし った。しし 瑕疵かし 過多かた』とか言っててほしいんですけど」
彩「だんだんどこ読んでるんだろうって」
水「クレイジー集団過ぎるなぁ」

3章 - いきるとは

水「次が『いきるとは』ですね。これは短いんですが、内容が綺麗にまとまっているかなと思います。衣食住について語っているんですね、最初は。
「いきるとは」の五文字で──なんなら「い」の一文字で衣食住が表せること……すごくない?」
彩「うん、確かに」
水「まあ、最後の「」はちょっとこじつけではあるんですが。さらに最後、畳みかけるように『生糸きいとEATいーと』という別の表現もして、衣食住であることをさらにアピールしておくというね」
彩「すごいですね」
水「畳みかけるという意味では『る・る・る』もあるので、都合三回、衣食住を表そうとしていますね。
『生きるとは衣食住である』という主張に対する母親の返しも良いですね。『いやいや、生きるとは心意気のことですよ』と返すの、論語チックといいますか、この教訓めいた感じ……。笑」
彩「笑」
水「実際『は「はー」と、吐息といき』を漏らしてますからね。感嘆したんでしょうね」

4章 - 凛々しい律動

水「第4章のテーマは『叙情主義』ですね。実質、このページはメモ帳なんですけど。笑 白紙が多いのでメモ帳に使えると話題のページです」
彩「ひどい読者たちだ。笑」
水「困ったときはメモ帳に使ってください」
彩「良いんだ」
水「第5章の冒頭で再び『1 9 6 10 8』が出てくるんですけど、4章を『いきるとは』で挟みたかったんですよね。だからこの章も結局、『いきるとは』の延長なのかもしれません」

5章 - 1 9 6 10 8

水「次、第5章ですね。僕は語呂合わせがけっこう好きで。リポグラムともう一つ、自分の中で注目しているテーマとして。なんというか、うん、気になっちゃう」
彩「気になっちゃう。笑」
水「気になっちゃう言葉遊びランキング上位に入ってくる、語呂合わせ。振り返ってみるとけっこう昔からやっていたかもしれないですね。小学校の国語の教科書に『大造じいさんとがん』という物語がありまして、それを読んでいるときに小学生の僕が思っていたのは『この作者、むく鳩十はとじゅう、全部数字で書けるなぁ』でしたね。あと、社会の教科書……に載ってたかは微妙ですけど、佐々木ささき小次郎こじろうとかを聞いても同じことを思ってました」
彩「なるほど、その発想はすごいですね」
水「数字でかけるものに対する謎のアンテナがあって。笑」
彩「笑」
水「逆に言えば、数字でかけるものを集めて並び替えれば数字で書かれた物語になるんじゃないかって。実際の順序は逆だけど、無秩序な数字の羅列が並べられたときに、あたかもそこから物語が偶発的に生まれているように見えるのではないかという着想の下、作ってみました。
1 9 6 10 8』は、1, 9, 6, 10, 8の5つの数字で書いています。内容はさっきと一緒ですけどね。
これだけのコンセプトでは芸が無いかなと思って、次の作品からは2点の制約を追加しています。1つ目は1, 9, 6, 10, 8というタイトルを固定にして、内容を変えていくということです。語呂合わせの性質上、数字とそれに対する語呂合わせは必ずしも全単射ではないんですよね。1, 9, 6, 10, 8をどう読むこともできると。この制約があるおかげで、本来の語呂合わせの方向で、つまり数字を元に語呂合わせを考えるという作業の順番を余儀無くされるので、ずるをすることができなくなるという。
もう1つの制約は、この章の3つの作品を順番に並べたときに、使える数字の範囲を広くしていっています。僕の中では定義域と勝手に呼んでいるんですけど。数学的には変な表現かもしれません」
彩「そうなんですね」
水「『1 9 6 10 8』は、タイトル通りこの5つの数字のみを取り『1 9 6 10 8Workload were』は0から10までの整数値を取ります。最後の『1 9 6 10 8一苦労店屋』に至っては10のべき乗を許容するようにしていて、一、十、百、千、万、億、兆、けいがいじょ、だとかを使ってよいことにしているんですね。そうすると使える言葉の幅が広がるので、その分長めの文章を用意すると自分の中で決めました」

5章 - 1 9 6 10 8

水「『1 9 6 10 8Workload were』は、0から10を使って書く文章なのでこれが一番スタンダードな形式にはなるかと思いますが、一つ特徴的なことがあります。英語を盛り込んでいることですね。もちろん語呂合わせは日本語と数字を対応させることもできるのだけれど、よく考えると英語と数字を対応させることもできるなと思ったので。
ただ、英語と数字で対応はしているが、数字の読みについては英語読みではなく日本語読みであるという点は読む際に注意が必要です。つまり1 9 6 10 8Workload wereというときの9は「く」であって「ナイン」ではないということです。だから現地の人にとっては意味の無い文章で、日本人しか楽しめない形式ではあるという意味です。
この物語の中で個人的に気に入っているのは生徒の名前です。左のページだけ見ていると大崎おおさきさん・渋谷しぶやさん・佐々木ささきさんかなと思うんですけど、右のページとよく照らし合わせてみると大崎おおさきさん・渋谷しぶやさん・佐々木よよぎさんであることがわかるんですね」
彩「あー、本当ですね」
水「これがどういう意味かと言うと、大崎・渋谷・代々木ってどれも東京圏の駅名なんですよね」
彩「そういうことだったんですね。小ネタが挟んである」
水「本当に大したことない小ネタなんですけど」
彩「いやいや、気付いたら面白い」
水「漢字の横にルビを振るわけではないので気付きにくいですが、その気付きにくさも計算に入れて気付く人だけ気付いてくれればなと。
それから気に入っているところがもう一つ。『Build fire by Bellows』『ふいご踏み、火起こししろ』ここの対応関係が神だと思ってる。笑」
彩「笑」
水「ここは見つけたとき、奇跡起きたと思って。お互いの文が同じ意味を言っているのに、どちらも数字だけの語呂合わせに変換できるんですよ」
彩「すご」
水「まさしく『綺麗な訳、最高よ』ですよね」
彩「素晴らしい」
水「これは素晴らしい。ここは技術点がかなり高いところです」

5章 - 1 9 6 10 8

水「続いて『1 9 6 10 8一苦労店屋』なんですが、ここは制約を満たした範囲の中で好き勝手書いたら、第3章の『かったなし』のように無茶苦茶な話になりました。笑」
彩「ふっふっふっふ」
水「なかなか無茶苦茶な話になりましたね。面白いから良いんですけど。──最後の台詞、殺伐とし過ぎだろっていう」
彩「無茶苦茶や」
水「『──次に店に入る時は殺してやる2 9 2 3 1000 2 8 1 6 10 9 8 5 6 4 10 8 6』とか言ってますからね。
この作品のお気に入りポイントは何点かあって、1つ目は67頁の仕入れのところで『フルーツ (いちご・キウイ・桃・いちじく・ザクロ・バナナ・パパイヤ・パイナップル)』となっていて、数字にしたときの昇順でフルーツが並んでいるんですよね」
彩「あー」
水「いちご1 5キウイ9 1100いちじく1 4 9ザクロ3 9 6バナナ8 7 7パパイヤ8 8 1 8パイナップル8 1 7 2 6ですね。そうなるようにソートしただけのことではあるんですけど、これも気付いた人だけが楽しめる小ネタということで。
あと、数字の並びで気に入っているところがあって、まずは70頁9行目『委細は一切、お見通しさ』。委細は一切、っていうのが既に語感が良いんですが」
彩「うんうん」
水「数字にしたら『1 3 1 8 1 3 1』になるのが気持ち良いなって」
彩「逆から見ても」
水「回文数ですね、いわゆる。……もしかして回文素数でもあるか?」
彩「笑」
水「8, 9, 10, 11, 12, あっ、3で割り切れました、残念」
※3の倍数判定法を使って計算
彩「あ~。笑 割り切れましたか」
水「ちょっと話を脱線させますね。回文とは違うんですが、素数となる数字で、それを逆から読んだときにも素数となっているような数字のことを日本語で『数素すうそ』っていうんですよね。素数の反対」
彩「えー!」
水「具体的には13. 逆から読んでも31で、どちらも素数ですよね。だから13も31も数素。なんでこんなふざけた名前になっているかというと、これも面白い話があるんですね。
英語で素数はPrimeプライム Numberって言うんですが、英語圏における数学で数素に対応する概念をEmirpエマープと名付けられて、それの訳語として数素が後から命名されたんですよね」
彩「そうなんや、面白い」
水「回文ではないけれど、数素は面白い概念の一つですね。
今見つかっている一番大きなEmirpは……。
※ Google先生に尋ねる
10^10006 + 941992101 × 10^4999 + 1 らしいです。笑」
彩「笑 全然わかんないですね」
水「10006桁になりますね。なかなかの巨大数ですね。
巨大数の数学もけっこう面白くて……あっ、ちょっともう切りがないのでやめますけど。笑」
彩「笑」
水「語るのはやめますが、面白いです」
彩「数字語りタイムになっちゃいました」
水「数学面白いからね。
巨大数の話はしませんが、最後に一冊だけ推薦図書を挙げさせてください。漫画なんですが、小林銅蟲の『寿司 虚空編』というのが、巨大数について学べる漫画で面白いです」
彩「へー、そんな漫画もあるんですね」
水「あまりにも常軌を逸しているので」
彩「あっ、そうなんですか。笑」
水「万人に薦められるような本でもないのですが、巨大な数の面白さの片鱗をビジュアルで教えてくれる本なので、巨大数に興味を持った方はここからどうぞ」
彩「内容は?」
水「内容はヤバい。寿司屋の板前がアッカーマン関数という巨大数を生成する関数についてひたすら語って一話が終わったりする。笑」
彩「笑」
水「話を戻しますね。この数字の並びが面白いと思った話ですが、73頁6行目の『制裁成功! 心しみじみ、重畳。極上なる情感、満腔に喜び走る』が、数字にすると怒涛の10のN乗タイムなんですよね。笑」
彩「んふふ。すごいありますね」
水「10の40乗、44乗、40乗、32乗、12乗、28乗、48乗、28乗、28乗、36乗、4乗、32乗とね、どんだけ数大きいねんと。何故かこの行だけべき乗が集まりました」
彩「これはたまたまなんですか?」
水「半分はたまたまかな。作り方の話になるんですが「おく」「ちょう」「けい」「がい」「じょ」というようなひらがなを並べて、それらの組み合わせで作れる単語を列挙するという工程を経ているので、それの余りものを集めて最後の方で使ったのでこうなりました。制裁とか成功という単語が未使用単語リストに残っていて、それらを使う適切な文脈がたまたまこの一行に集ったという感じです。
という言葉遊びでした」
彩「面白いですね」

6章 - Shape of Shade

水「続いて6章の『孤独』。ここはとても詩らしいというか、あまり読者に理解させる気はないが、自分が書きたかったものであるというゾーンですね。
まあ、理解なんてしなくて良いと思います。読んで何某かを感じてもらえれば、読んだ意味はあるので。
でも……人間って誰しも結局は孤独じゃないですか?笑」
彩「笑 まあそうですね」
水「家庭があろうがなかろうが、どんなに友達がいようがいまいが、本質は自分一人の人生なので、少なからず孤独と向き合っていかないといけないと思うので。
ただ、孤独という言葉はそんなにネガティブなものではないと思っていて、確かに孤独に悲しさを見出しだすとマイナスな言葉ではあると思うんですけど、孤独な状態に対してどれだけ悲しいとか寂しいと感じるかは人それぞれではあるし、孤独の中でしか磨き上げられないものってあるじゃないですか。極論、孤独な瞬間が一切無いような人生だと、思考が停止していくと思うんですよね。自分が何が好きかとか、自分は何に重きをおいているかというのが見えてこない気がするので、一人になって色々な物事を考えこむ時間は絶対に必要だと思っています。そういう意味で孤独は悪いものではない。ただ、ありすぎると人によっては……悲しくなっちゃうね?笑」
彩「笑 そうですね、そう思っちゃう人もいますね」
水「特にね、僕だけではないと思うんですけど、夜とかね……」
彩「夜はどうしても考え込みがちですよね」
水「82頁の『Shape of Shade』でそういうのを表現しました。夜、ベッドの中で悶々と考え込むと嫌な思考が止まらないよというのを表現しました。やっぱり人間、こういうのはあると思うんですよね。そういうときは……耐えろ」
彩「笑」
水「耐えなさい」
彩「笑」
水「アドバイスできん。気休めになるのであれば、この本を開いてくださいとは言えますが」
彩「それは良いかもしれないですね」
水「今その瞬間、自分は孤独だが、また別の瞬間、自分と同じ人々も同じような孤独を味わっていると思えば自分は孤独ではない、という考え方もできるので。辛くなったら是非、この本を開いてください」

6章 - 旅の執着

水「84頁の『旅の執着』。急になんか……小説みたいなの挟みましたけど」
彩「女子高生が語り合ってるやつですね」
水「なんかね、僕はこれを書いた後に知ったんですが、Vtuber事務所のホロライブで……えっと、ボイスの販売とか言ったらわかります?」
彩「ちょっとわからないです」
水「Vtuberって投げ銭で収益を得ていると思うんですけど、それ以外にも定期的に録り下ろしボイスを販売したりしていて、そのボイスに『世界が滅亡して、そのVtuberだけが世界に取り残されて、誰に声を届けるわけでもないけれどビデオを撮って独白している』という謎のシチュエーションでキャラクターボイスを販売しているらしくて」
彩「面白い」
水「そう、面白いと思った。これをパクったわけじゃなくて『旅の執着』を書いてから知ったんですけど、方向性は似てるなと。なんかさ、荒廃して誰もいない地球に女の子が一人だけいたら、なんかエモくないですか?笑」
彩「笑 エモいエモい、それはエモいです。笑」
水「安易なエモではあるんだけど、安易なエモがやりたかった、これがやりたかった。笑」
彩「笑」

7章 - 汐

水「次は7章、最後の章ですね」
彩「『恋』の章」
水「いやぁ、これね、恋というド直球テーマを持ってくるのは自分にとってなかなか挑戦なんですよねぇ」
彩「すごい想いが込められているなと思いました」
水「これは読む人には関係無いんだが、この章だけポエティックという意味の『詩的』じゃなくて、プライベートの『私的』なんですよねぇ!笑」
彩「わたくし的な」
水「そう。あまりに個人的な事情が挟まり過ぎているから、何も知らん人はごめん、って感じなんだけども」
彩「はっはっはっ。読む人が読んだら『あぁ』と思うかもしれない」
水「読む人が読んだら『あぁ』と思うと思うんですが、まあ──私にも色々あるんです」
彩「自己紹介かな?笑」
水「ただ、何も知らなくても楽しめないというわけではなくて、先ほども言いましたが好きなことを感じてくれれば良いと思っています。文脈が大事なのではなくて読んだ人の心の機微が大事だと思うので。詩の場合は書いている側が読者に『こう思ってくれ』と思って書いているのではなくて『何某か心の揺れ動きがあってくれたらOK』くらいの温度感だと思うので。読んで何も感じなければそれは確かに書いた意味は無いですが、何か感じてもらえたのなら、それで御の字だと思っています。だから、各詩の詳細についてはそんなに語るつもりは無いです。
ただ、1点だけ述べておくと、90頁の『汐』というのは、恋の中の汐なので恋汐さんの話をずっとしているのですが、恋汐さんをご存じでない方はこちらのリンクから見てね、っていう。かっこリンクを張る」
彩「恋汐さんのリンクが張られました。笑」

7章 - 角帯びる思考・解けてくゆる

水「他の詩はちょっとあまりに私的なので」
彩「私的だなぁととても思った詩がいくつかありました」
水「『甘い淡い呪い』と『最小で最高の』は、かなり私的な話なので何も語るまい、なのですが『角帯びる思考』と『解けてくゆる』に関しては別にこういう物語が現実にあったわけではなくて、ただの創作です。自分の中の、心の中の、少年少女たちの──」
彩「笑」
水「心の中に少年少女がいるので。『あー、恋愛してるなー』と思って、それをそのまま文字に起こしました」

7章 - I MY MEME

水「『I MY MEME』これはかなり抽象的な内容なのですが、一度論理と決別してできるだけ感覚的に文章を書き連ねてみようという実験的な文章ではあります。この文章に関して言えば、細かいところに意味なんて無いと言えば無いんですよ。ただ、なんか良い文章になってる……と良いなぁという。かっこ自信無し。笑」
彩「願望系。笑」
水「イメージで言うと、夢の中の出来事というと近いのかもしれない。夢の中で起こった出来事って覚めた後に振り返っても意味なんて無いじゃないですか」
彩「はい」
水「意味なんて無いけど、意味の無い連なり自体にストーリー性を見出したらなんかちょっと面白いよねっていう、そのレベルの文章を書き連ねています、これに関しては。でもあまりに論理無くごちゃごちゃ書きすぎると目も当てられなくなると思ったので、部分的には文字数の制約をかけたりしてそれっぽくはしてみました。
I MY MEMEって1文字、2文字、4文字じゃないですか。それぞれのタイトルを時、意識、心象風景とその文字数で揃えたりだとか。本文の行数も1:2:4にしているだとか。その辺りについては意図的に論理を介在させている部分ではある」

7章 - 親しき芽生え

水「最後『親しき芽生え』なんですが──」
彩「はい」
水「最後の一本なので、詩について書きたいなと思いまして。そんなに多いわけではないですがここまでいくつかの詩を読んできて『なんか詩って良いなぁ』と思ってくれた人に向けて『詩、あなたも書いてみたらどうですか』といういざないの詩ですね。
そもそも、この本を手に取ってもらえたことがありがたいことなので、しかも読んでもらえたこと、さらに言うと読み通してもらえたことがありがたいなと思います。……我々の本の購入者の中でね、実際に最後まで読み通す人は体感で3-5割くらいしかいないと思うんですよ、たぶんね。笑」
彩「まあまあ、確かにね」
水「その中でもさらに一握りの、書くことにも興味が湧いて来たような方がもしいらっしゃれば、是非、あなたなりの理屈や感性で良いので──というかルールなんてあって無いようなものなので、詩に関しては。好きなように書いてみてはいかがでしょう、というお誘いでした。
誰からも文句を付けられるようなものでもないので、気楽に書いてみたら良いと思うんですよね。逆説的ではあるんだが、誰かに読まれるための詩ではあるけれど、いったんは誰かに向けて書かなくて良いと思うんですよ。自分が書きたいものをまず書いて、結果的に後でそれを誰かに読ませることにはなるかもしれないけれど、最初から読み手を意識して書くようなものではないと思いますね。小説の場合はエンタメ性を追求しないといけないので『ここでこれを読み手に気付かせる』だとか『こういう話運びなら一番読者がわくわくする』だとかを考えないといけないけれど、詩はそういうのはないと思います」
彩「自分の内なるものを……」
水「そう。自己表現のアウトプットの仕方が人によっては音楽だったり絵だったり、それの一つの形態として詩が選択肢にあっても良いんじゃないかなと思う次第でございます」

表紙イラスト

水「次に、彩田さんに担当していただいたイラストについて語っていきます」
彩「まずは表紙から」
水「表紙は見たらわかる通りアブストラクトアート、抽象芸術をイメージして作っていただきました。作っていただきましたというか、一緒に考えました」
彩「一緒に考えましたね」
水「この本を手売りしているときに『抽象芸術ですよね? ピエト・モンドリアンのコンポジションを思い出しました』と言ってくれた方がいました。これですね」
※ 画像を検索する
水「……うーん、盗作と言われても仕方あるまい」
彩「笑」
水「確かに似ている。……ちょっとつぎはぎの方が暗いですがね」
彩「そうですね。内容を鑑みての暗さというか」
水「まあそれはそう。一つだけ希望の光のように明るい黄色を、敢えて、配色しています」

1章イラスト『恥』 & 7章イラスト『恋』


1章イラスト『恥』 & 7章イラスト『恋』

水「中身のイラストについてなんですが、本文が1章と7章、2章と6章、3章と5章で対応しているように絵の方も対応しているので、対応順に見ていきましょう。
第1章『恥』のイラストと第7章『恋』のイラストを対応しているように描いていただきました。──これ、良い表現ですね」
彩「えっへへ」
水「良い! 良いよ! これ」
彩「ありがとうございます。笑」
水「ハートのこの……ハートから出ているこの手の……良いよ! 良い!」
彩「ありがとうございます。笑」
水「語彙力無し。笑」
彩「笑 嬉しいです」
水「恥も恋も漢字に含まれているようにテーマは心なのでね、ハートなのは合っていると思いますし、手は2本だけれど『1人』と『2人』が上手く表現できていて、かなりおしゃれですよね」

2章イラスト『生活』 & 6章イラスト『孤独』


2章イラスト『生活』 & 6章イラスト『孤独』

水「次は2章の『生活』と6章の『孤独』ですね。先ほどのイラストと違ってこれに関しては僕が注文をあれこれ付けて彩田さんに書いてもらったと思うんですけれども」
彩「そうですね」
水「1脚の椅子で孤独を表現するのって、なかなか……」
彩「……」
水「……」
彩「……」
水「良いよね」
彩「良いよね。笑」
水「笑」
彩「孤独そうな、貧相な感じ……」
水「もちろん、孤独もまた文脈ではあるので生活のアイコンありきでこの椅子が孤独を表していることには違いないけれども」
彩「確かにね」
水「──生活のイラストについてLINEでやり取りしたときのエピソードを憶えていますか?」
彩「どういうやつですか?」
水「『電球のランプをもうちょっと内側へ寄せて……』のくだりのときに、何故か画像に直接書いていくスタイル。笑」
彩「あれ面白かったですね。笑」
水「無駄が多くて好き」

『生活』イラスト作成時のLINE上での会話

3章イラスト『五言詩』 & 5章イラスト『十進数』


3章イラスト『五言詩』 & 5章イラスト『十進数』

水「続いて3章と5章の『五言詩』『十進数』ですね。
これ、3章を見たときには絶対に気付かないのだけれど、5章を見たときには『十円玉やないか~い!』と誰しも思ったと思います」
彩「めちゃくちゃ十円玉ですね。笑」
水「十円玉をやすりで十角形に削ったものでしかないから、これ。硬貨を損傷させると犯罪になっちゃうから」
彩「危ないあぶない」
水「どうか助けてください、銅貨だけに」
彩「笑」
水「十進数の場合は、数字としての『10』じゃないですか。一方、五言詩の場合は漢文なので漢数字としての『五』なんですよね。で、数字の『10』と漢数字の『五』が対応しているものって何だろうと考えたときに、五円玉と十円玉かなぁと思いまして。……そう、実は五円玉なんですよね、五言詩のイラストの元ネタは。
もしかすると十進数が十円玉だと気が付いた方で『五言詩は五円玉かな?』と思い実際の五円玉を参照された方がいるかもわかりませんが、正解です、あなたは正解です。五円玉をアップしたものになります。ただでさえ普通は気にしないような部分である上、五角形なのでなおさらわかりにくいですけどね」
彩「そうですね、五角形と十角形」

4章イラスト『叙情主義』


4章イラスト『叙情主義』

水「ラスト。4章の『叙情主義』ですが、このシンメトリー花束は良いですね。花が7本なのもこの本を象徴していますし、このアイコン自体がシンメトリーであることも真ん中の章であることとリンクしているので、美しい構成になっていると思います。
そういうこだわりを一つひとつつぶさに拾っていくと、意外とまとまりの良い綺麗な本になりましたね」
彩「そうですよね」
水「細部をどこまで意識するかで評価が変わるのかもしれない。わかりにくいのが難点かもしれませんが、でも、詩集ってそういうものですからね」
彩「そうですね。わかる人に伝われば良いですね」

前作との比較

水「今作を前作の『Shall we デカダンス?』と比較してみたときに──ジャンルが違うので比較するような類のものでもないんですが──売り上げは上々でありまして、けっこう売れてます。『つぎはぎポケット』」
彩「(拍手)」
水「成功した要因について考えてみたんですが、やはり取っ付きやすい分量だからというのはあるんでしょうね」
彩「うんうん」
水「450頁も要らない。笑」
彩「分厚過ぎましたね、正直。笑」
水「あと高過ぎる。分厚いから高いんだけど。だから、諸悪の根源は分厚いことです。分厚いから駄目だし、分厚いが故に高いからもっと駄目なんです」
彩「二重で駄目なんだ」
水「別に『Shall we デカダンス?』の1700円という価格はマージンをがっぽがっぽせしめてやろうと思っているわけではなくて、分量のせいで原価が余裕で1200円を超えてくるので、妥当な価格帯なんですよね。なんなら赤字ですし、我々。差額を出展料に充てても足りないので。
今後の方針としては『つぎはぎポケット』くらいの、100頁くらいの本を、700円くらいで提供していくというのを、当面の目標にしていきたいです」
彩「そうですね。ちょうど手に取りやすい価格と分量なので」
水「戦略はそれでいきましょう」
彩「はい」

次回作の展望

水「次作はもう何を作るかだいたい決まっていまして、既に着工中です。短歌をテーマにした一作を作りたいと思っています。
短歌って詩よりなおさら読みやすいと思っていて、だから上手くいけば今回よりも売れるんじゃないですか? まあ、皮算用ですけど」
彩「笑」
水「でも実際、文学フリマの中で短歌ってけっこうな割合を占めますよね」
彩「思ったより。なんか、こんなにあるんやって」
水「みんな短歌大好きだからね」
彩「みんな大好き。笑」
水「だからちょっと殴り込みに行きます、短歌界に。新人として」
彩「新たなる刺客」
水「ダークホースとして。名を轟かせます、来年。予定」
彩「素晴らしい!」
水「圧倒的な才能で」
彩「笑」
水「全てを薙ぎ倒す!」
彩「強過ぎ。笑」
水「笑 やりてー。でも短歌舐めてるって炎上しちゃうから、このくらいに」
彩「短歌界の人に怒られます」
水「一応ね、最近は現代短歌を読んで勉強したりはしてるんですけどね。トレンドを知ったりだとか、ここまで型を破って良いんだというのを学んだりだとか」
彩「あ~」
水「短歌には三十一文字みそひともじという型があるじゃないですか。まあ、季語は無いが。守・破・離というように、まずは基本を叩き込んで、そこからどこまで崩していけるかという、その辺りを今は考えたりしています」
彩「なるほど」
水「無茶苦茶していいわけではないけど、多少のトリッキーさはアクセントになって良い方向に作用するみたいですね。たとえば『からあげ食べたいやいのやいの』を短歌だと主張したら怒られるけど」
彩「笑」
水「字数制限に対してけっこう柔軟に字余り・字足らずを許容するだとか、テンポを5・7・5・7・7から大きく逸脱させてみるだとか、行間の力を強く信じてぱっと見では全く意味がわからないような歌にするだとか、短歌における『洒落た部分』を肌感覚で少しずつ理解していっているところです。──来年は良いものをお届けしたいですね」
彩「そうですね」
水「けっこう、進捗は良いですよ」
彩「おお」
水「もうタイトルも決まっているし、ページ数も目途が付いているし。だいたい書くことが決まっているのでね、既に」
彩「早いですね」
水「調子良いですね。良いものが久々に……といってもまだ4作目なんですが、会心の一撃になる予感がしています」
彩「おお~! すっご、楽しみですね」
水「楽しみというか、あなたも当事者なので一緒に作るんですけど。頑張っていきましょう」
彩「頑張っていきましょう。原作を楽しみにしています」
水「いっぱい売ろう」
彩「いっぱい売ろう。笑」

感想会の開催

水「そういえば、会社の同期が『つぎはぎポケット』を買ってくれて、読んでくれて、感想を言いに来てくれて」
彩「はい」
水「『この本を読んで感銘を受けたので感想会を開きたいです』って言ってくれて」
彩「え!? はい」
水「他に読んだ人を集めてくれて、もうすぐ感想会が開催されようとしています。笑」
彩「すごー!笑」
水「すごいのはその子の行動力なんですけどね。偉いので。行動力溢れる素晴らしい人なので」
彩「感想会……」
水「そんなに人は集まらないですけどね。読み通した数人で。そこでバチバチに怒られるかもしれない。『もっと良い作品を作れ』って」
彩「そんなことは無い。笑」
水「感想会でリンチにされる可能性あり」
彩「感想会という名の」
水「感想会という名の乱闘会」
彩「笑 でもすごいですね、そこまで、感銘を受けるほど」
水「感銘を受けさせたの、えぐい。前作もファンアートが存在しているし、今作も感想会が開かれるし」
彩「轟かせてますね」
水「このまま全国に羽ばたいていきたい」
彩「羽ばたけますよ」
水「次作は短歌ですが、その次……か、そのまた次に、また小説を書きたいなと思っているんですよね。いずれ小説を書くときに、出来たものをそのまますぐ同人誌にしても良いのだが、一度、何らかの公募に出して、落ちたら本にしようかなと思っています。だから上手くいけば実際に全国に名を轟かせることができるかもしれない」
彩「良いじゃないですか!」
水「元々『Shall we デカダンス?』は公募落選を経て製本化されたものなので、小説は全部そのような流れを踏襲していこうかなと思っています。時間はかかりますけどね。
いちとどろかせしたら、後はそこから轟かせカンパニーが全部轟かせてくれるんでね」
彩「轟かせカンパニー?笑」
水「出版社のことです」
彩「笑」
水「最初の一轟かせだけ自力で頑張らないといけないのでね」
彩「バタフライエフェクトですよ。どんどんどんどん影響が広がっていきますから」
水「頑張りたいですね」
彩「楽しみにしています」
水「今作りたい小説は『ジャンル小説アラカルト・闇鍋』と……『Shall we 百味ダンス?』かなぁ」
彩「出た。笑」
水「百味ダンスはもちろん『Shall we デカダンス?』ありきで書くけど、それはデカダンスを知っている人だけがオプション要素として楽しめば良くて、別に何も知らない人でもめちゃくちゃ楽しめるように本編の構想を練っているところです。
どちらもここ5年以内に着手したいですね。……5年以内に着手って遅いな?」
彩「確かに。笑」
水「少なくとも闇鍋は5年以内に完成させたい。百味ダンスは闇鍋の完成後に着手だと考えると、本当に5年後に着手になるかもしれない。時間はかかりますが満足のいくものを作っていきたいと思います」

座談会後半は こちら

座談会実施日:2023/11/26
参加者:水述 諦 (【文売班 白黒斑】文章担当)
    彩田チエ (【文売班 白黒斑】イラスト担当)

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