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#短編小説
【小説】誤読のグルメ
「はい、茶屋ヶ坂です。あ、今、到着しました。駐車場に車を止めたところです。はい、すぐにお伺い致しますので」
電話を切り、車を降りる。
名古屋市某所。
何年ぶりだろう。昔、まだ学生の頃、このあたりに住んでいた。近くにはいくつも大学もあり、貧乏学生に優しい、安くて古めかしい飲食店が多く立ち並ぶ、昔ながらの繁華街だ。そのぶん、治安は決して良いとは言えなかったのが玉に瑕。
だが、近年の再開
【小説】御祝い申し上げます
その日、私ははじめての個展をむかえていた。
芸術大学を卒業後、イラストレーターとして働きながら、コツコツ作品づくりに勤しみ、一年前に独立。フリーランスの絵描きとしていろんなものを描いてきた。
描きたいものだけ描けるわけではない。それでも、自らの個性を、想いを乗せて、すべての仕事に全力を注いできた、つもりである。
そして、今日。
オープンから数時間経つが、ギャラリーはまだまだ賑わっ
【小説】鬼さん、こちら
あるところに、バツイチコブつきの男がいました。
3LDKで一人暮らし。元嫁と子どもは遠く離れた街に暮らしており、面会できるのは年に一度。駆け落ちして結婚したため、周りに頼れる家族や知人などいません。
会社でもいつも一人で、友人と呼べる存在もいませんでした。
仕事が出来ないわけではないのですが、必要以上にコミュニケーションを取ろうとしないため、職場では敬遠され、最低限の仕事だけを任さ