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詩『絆創膏のbouquet』#シロクマ文芸部

逃げる夢
逃げ続ける夢

休憩時間
教室の片隅で
うつむいて直立しているぼく
わらっているクラスメイト
 

眠れない夜
羊を数えながら
柔らかく反発する枕に
耳をうずめて目を瞑る

 暗闇の絆創膏ばんそうこうに光っているのは、いつかどこかで産み落とされた石垣。誰にも知られずに、ひっそりと眼鏡にひびが入って、見るものすべてに亀裂が生まれる。じゃあ、眼鏡を買い替えろ、ときみたちは言うのだらう。勿論もちろん、何度も買い替えたさ。買い替えたけど、亀裂は消えてゆかないのだ。

 いつものように、きみがぼくの寝癖やぼーぼーに生え盛った眉毛を逮捕してわらう。ピキッ。友達のAたちに連行されて、輪になって事情聴取を受ける。ピキピキッ。逃げ出したい。ピキピキピキッ。
 
『毎日、毎日、いい加減にしてくれよ!』
 
 とうとうぼくは眼鏡を床に叩きつけて、教室から走り出した。視界はぼやけていたけれど、身体の内側は晴れ晴れとした空のようだった。
 ガラガラガラ、学校が灰色コンクリートの雪崩なだれを起こす。クラスにうまく馴染なじめていないぼくは、固くて分厚い石垣で自分を囲っていたのだ。

 早朝。合わせ鏡で寝癖をチェックして、整髪料で念入りに寝かしつける。ぼくのなかの跳ね馬が飛び出したみたいな寝癖。いっそランダムにセットしてみよう。たまにはじゃじゃ馬を解放せよ!眉毛は雑誌で研究して、キリリ、と整えた。
 そして眼鏡の代わりに、奮発して買ってもらったソフトのコンタクトを装着した。完成!鏡のなかのぼくまで、ソフトな面持ちになっていた。

今日からは
逃げない朝

『おはよう』と自分から、みんなに挨拶する教室の入り口。
ジャスト8:30、革命の鐘が鳴る。

『誰?あのイケメン誰?』
『知らない。ねえ、誰ー?』 
背後で女子たちが騒いでいる。

もう視界は割れない。

絆創膏ばんそうこうがはらり、剥がれて、花のように散っていった。


photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、kei02さん)
photo2:unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾 

#シロクマ文芸部
#逃げる夢

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