山本竜也

1976年大阪生まれ。北海道で地方史や個人史を題材に文章を書き続けている。著書『地方史…

山本竜也

1976年大阪生まれ。北海道で地方史や個人史を題材に文章を書き続けている。著書『地方史のつむぎ方』(2024年)など。 これまでの著作物一覧→http://minami-siribesi.world.coocan.jp/contents/profile.htm

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    北海道で地方史研究。

記事一覧

砂金を掘る

 北海道最後のプロの砂金掘りがいた。辻秀雄さんという。1908年に十勝の忠類村に生まれ、京都の鉄工場を皮切りに職業を転々とし、1930年から道内で砂金を掘るようになった…

山本竜也
3日前
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笠置シヅ子は釧路に来ていた

1.これまでの調査  「笠置シヅ子は釧路に来たのか?」から4回連続で、笠置シヅ子来釧の謎を追ってきた。しかし、来釧の決定的な証拠を掴めてはいない。前回の記事「続…

山本竜也
2週間前
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続々々 笠置シヅ子は釧路に来たのか? 

1.釧路市図書館からの返答  「続々 笠置シヅ子は釧路に来たのか?」では、笠置シヅ子が1948年7月に小樽電気館、奔別炭鉱、札幌東宝、函館公劇で公演していたことを明…

山本竜也
3週間前
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続々 笠置シヅ子は釧路に来たのか?

1.国会図書館デジタルコレクション  1949年に笠置シヅ子が釧路で書いたとされるサインが釧路の蕎麦店に残っている。東かがわ市歴史民俗資料館によると、この年に笠置シ…

山本竜也
3週間前
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続 笠置シヅ子は釧路に来たのか?

1.道新釧路版に続報  2024年6月26日付の北海道新聞釧路版に「笠置シヅ子さん来釧の謎たどると ブギの女王『公演見た』続々」という記事が出た。執筆した佐竹直子記者…

山本竜也
3週間前
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もっと調べる技術

 小林昌樹さんから新刊『もっと調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2』(皓星社)をいただいた。  2022年に出版された前著『調べる技術 国会図書館秘…

山本竜也
1か月前
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笠置シヅ子は釧路に来たのか?

1.気になる記事  2024年5月29日付の北海道新聞釧路版に「笠置シヅ子さん来釧の謎」という記事が出た。1949年に釧路市の老舗蕎麦店「竹老園東家総本家」で書いたとされ…

山本竜也
1か月前
7

どこからこんなに人が

 『地方史のつむぎ方』刊行記念のトークイベントを計画したスタッフ一同には一抹の不安がありました。4月26日の前日打ち合わせでは、その話題が何度も登場しました。「お…

山本竜也
2か月前
7

フィルム写真をデジタル化 江別にて

 ひと昔前はデジタルカメラなどなかった。写真はフィルムに記録された。その時代の写真を保存するにはどうしたらよいのか。フィルム自体を保存することも大事だろうが、フ…

山本竜也
3か月前
4

紀伊國屋書店札幌本店でトークイベント開催

 4月27日(土)14時から、紀伊國屋書店札幌本店で、「地方史のつむぎ方── 調べ、聞き、書き、出版する」と題して、話します。『地方史のつむぎ方 北海道を中心に』の刊…

山本竜也
3か月前
7

会えなかった人たち

 『地方史のつむぎ方』には、はじめ、私の地方史調査の経験や知識を書いていた。しかし、書き進めるうち、自分の知ることはあまりに少ないと気が付いた。たとえば、古文書…

山本竜也
3か月前
9

『地方史のつむぎ方』を発想する

 2018年7月、北海道科学大学に呼ばれて、『地方史をつむぐ 聞き取り取材から出版まで』という講演をすることになった。それまでも講演をしたことはあったが、大学生では…

山本竜也
4か月前
7

国会図書館デジタルコレクションで人探し

1.インターネット以前の時代を検索できる  国会図書館が所蔵する書籍や雑誌をデジタル画像化して公開する「国会図書館デジタルコレクション」は、歴史を調べる者にとっ…

山本竜也
4か月前
7

明治以来の北海道新聞の検索法は?

1.新聞は歴史資料の宝庫  日々の出来事を報道する新聞は、歴史資料の宝庫である。政治、経済、教育、社会、文化など、あらゆる情報が載っている。地方史を調べるのなら…

山本竜也
4か月前
8

北海道の市町村別人口を調べる

 北海道の市町村別人口は何年から残っているのか。また、現在まで途切れなく手に入れられるのか。  私が寿都(すっつ)町の歴史に興味を持ったとき、「今は3600人しか住…

山本竜也
4か月前
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「歴史を調べてレポートを書け」と言われた高校生はどうしたか

 1992年の春、高校に入学したばかりの生徒たちに、大学を出たばかりの男性教員が問うた。「なんで歴史の勉強をせなあかんと思いますか?」。  生徒たちは顔を見合わせる…

山本竜也
4か月前
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砂金を掘る

砂金を掘る

 北海道最後のプロの砂金掘りがいた。辻秀雄さんという。1908年に十勝の忠類村に生まれ、京都の鉄工場を皮切りに職業を転々とし、1930年から道内で砂金を掘るようになった。最後は歴舟川のそばに小屋を建て、1972年まで砂金で生計を立てていた。明治以前から昭和初期までは砂金で生活する人も珍しくなかったが、年月をへて資源は減少し、また経済成長とともに、割に合う仕事ではなくなった。最後の砂金掘りは珍しがら

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笠置シヅ子は釧路に来ていた

笠置シヅ子は釧路に来ていた

1.これまでの調査

 「笠置シヅ子は釧路に来たのか?」から4回連続で、笠置シヅ子来釧の謎を追ってきた。しかし、来釧の決定的な証拠を掴めてはいない。前回の記事「続々々 笠置シヅ子は釧路に来たのか?」では、1953年7月に服部良一、淡谷のり子、渡辺はま子、灰田勝彦らと北海道に来たこと、函館、遠軽、札幌で公演したことを明らかにした。私の調査のきっかけとなった2024年5月29日付の北海道新聞釧路版で紹

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続々々 笠置シヅ子は釧路に来たのか? 

続々々 笠置シヅ子は釧路に来たのか? 

1.釧路市図書館からの返答

 「続々 笠置シヅ子は釧路に来たのか?」では、笠置シヅ子が1948年7月に小樽電気館、奔別炭鉱、札幌東宝、函館公劇で公演していたことを明らかにした。そして、足取りが不明となっている18日から26日のどこかで釧路に来ていたのではないかと推測し、釧路市図書館に所蔵新聞の調査を依頼した。
 その返答がやってきた。7月の北海道新聞釧路版のうち、1日~12日、18~19日、24

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続々 笠置シヅ子は釧路に来たのか?

続々 笠置シヅ子は釧路に来たのか?

1.国会図書館デジタルコレクション

 1949年に笠置シヅ子が釧路で書いたとされるサインが釧路の蕎麦店に残っている。東かがわ市歴史民俗資料館によると、この年に笠置シヅ子が北海道で公演した記録はないという。しかし、北海道新聞で笠置シヅ子の足取りを追うと、小樽、札幌、旭川、函館で公演したことが分かった。ただ、釧路に来た証拠は見つからない。そこで、ほかの年の可能性をさぐってみたい。
 国会図書館デジタ

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続 笠置シヅ子は釧路に来たのか?

続 笠置シヅ子は釧路に来たのか?

1.道新釧路版に続報

 2024年6月26日付の北海道新聞釧路版に「笠置シヅ子さん来釧の謎たどると ブギの女王『公演見た』続々」という記事が出た。執筆した佐竹直子記者から連絡を受け、さっそくデジタル版を確認した。5月29日付の記事に対する地元の反響は大きく、「見た」「聞いた」という情報が集まっている。浜中町の種市京子さん(89)は十條製紙(現日本製紙)の「娯楽場」の外で笠置シヅ子の歌を聞いた、釧

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もっと調べる技術

もっと調べる技術

 小林昌樹さんから新刊『もっと調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2』(皓星社)をいただいた。

 2022年に出版された前著『調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』は8刷3万部のベストセラーになったそうである(うらやましい)。小林さんのことは、荒木優太さんの『在野研究ビギナーズ』(2019年)で、国会図書館の内実や使い方を語る人として知った。その後、『調べる技術』が発

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笠置シヅ子は釧路に来たのか?

笠置シヅ子は釧路に来たのか?

1.気になる記事

 2024年5月29日付の北海道新聞釧路版に「笠置シヅ子さん来釧の謎」という記事が出た。1949年に釧路市の老舗蕎麦店「竹老園東家総本家」で書いたとされるサイン、1950年に近江ジン(石川啄木と懇意だった釧路の元芸者)を囲んで撮影した写真が残っているが、どちらの年も釧路での公演記録がないという。1948年に「東京ブギウギ」を発売した笠置シヅ子は当時、人気絶頂期にあった。東かがわ

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どこからこんなに人が

どこからこんなに人が

 『地方史のつむぎ方』刊行記念のトークイベントを計画したスタッフ一同には一抹の不安がありました。4月26日の前日打ち合わせでは、その話題が何度も登場しました。「お客さん、どのくらい来るんだろうね?」。

 「チラシをメールや郵送で送って、15人ほどから行くと返信がありました」と私。「数人の知り合いは来てくれる」と司会の東田秀美さん。「両親と友達で3人は来ます」と尚学社社長の苧野圭太さん。合わせれば

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フィルム写真をデジタル化 江別にて

フィルム写真をデジタル化 江別にて

 ひと昔前はデジタルカメラなどなかった。写真はフィルムに記録された。その時代の写真を保存するにはどうしたらよいのか。フィルム自体を保存することも大事だろうが、フィルムは劣化するし、ポジフィルムならともかく、ネガフィルムの場合は何が写っているのかも分からない。

 デジタルデータ化すれば、どちらの問題も解決する。ところが、この作業は労苦を伴う。フラットベッド型のフィルムスキャナーを使ってパソコン上で

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紀伊國屋書店札幌本店でトークイベント開催

紀伊國屋書店札幌本店でトークイベント開催

 4月27日(土)14時から、紀伊國屋書店札幌本店で、「地方史のつむぎ方── 調べ、聞き、書き、出版する」と題して、話します。『地方史のつむぎ方 北海道を中心に』の刊行記念に、版元の尚学社と紀伊國屋書店が企画してくださいました。地方の歴史や個人の歴史を調べるにはどうしたらいいのか。資料を探し、人に話を聞き、文章にまとめて、発表してきた方法を紹介します。入場無料です。ぜひお越しください。
https

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会えなかった人たち

会えなかった人たち

 『地方史のつむぎ方』には、はじめ、私の地方史調査の経験や知識を書いていた。しかし、書き進めるうち、自分の知ることはあまりに少ないと気が付いた。たとえば、古文書を読めない私が古文書を読む方法を書けるわけがない。そこで、各地で地方史に取り組んでいる人たちにインタビューすることにした。といっても、誰に会えばいいのか。すぐに顔が思い浮かぶ旧知の人たちもいるが、できるだけ多くの分野の人に話を聞きたい。図書

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『地方史のつむぎ方』を発想する

『地方史のつむぎ方』を発想する

 2018年7月、北海道科学大学に呼ばれて、『地方史をつむぐ 聞き取り取材から出版まで』という講演をすることになった。それまでも講演をしたことはあったが、大学生ではなく、年配の方々が相手である。私の話が若者の興味をひくだろうか。不安を抱きつつも、『南後志に生きる』のなかの一章について話した。幼い頃に父親を事故で亡くした女性から電話が入ったことをきっかけに、その事故を報じる新聞記事を見つけ、残された

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国会図書館デジタルコレクションで人探し

国会図書館デジタルコレクションで人探し

1.インターネット以前の時代を検索できる

 国会図書館が所蔵する書籍や雑誌をデジタル画像化して公開する「国会図書館デジタルコレクション」は、歴史を調べる者にとって欠かせない存在となっている。わざわざ東京に行かずとも、家で資料を見られるのだから、ありがたい。しかも、このサービスが始まった当初は、タイトルと目次をたよりにページをめくるしかなかったのに、2022年12月の大幅リニューアルによって約24

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明治以来の北海道新聞の検索法は?

明治以来の北海道新聞の検索法は?

1.新聞は歴史資料の宝庫

 日々の出来事を報道する新聞は、歴史資料の宝庫である。政治、経済、教育、社会、文化など、あらゆる情報が載っている。地方史を調べるのなら、これを使わない手はない。北海道の場合、1878年(明治11)1月7日に函館新聞、1887年(明治20)1月20日に現在の北海道新聞の前身にあたる北海新聞(のちに北海タイムス)が創刊された。それから現在に至るまで、約140年分の報道の蓄積

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北海道の市町村別人口を調べる

北海道の市町村別人口を調べる

 北海道の市町村別人口は何年から残っているのか。また、現在まで途切れなく手に入れられるのか。
 私が寿都(すっつ)町の歴史に興味を持ったとき、「今は3600人しか住んでいないけれど、明治時代には3万人も住んでいたんだよ」と聞くことがあった。本当なのか気になった。だが、町役場に尋ねても、1920年(大正9)の第1回国勢調査以前の人口はまったく分からないという。そこで、自分で資料を探すことにした。調べ

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「歴史を調べてレポートを書け」と言われた高校生はどうしたか

「歴史を調べてレポートを書け」と言われた高校生はどうしたか

 1992年の春、高校に入学したばかりの生徒たちに、大学を出たばかりの男性教員が問うた。「なんで歴史の勉強をせなあかんと思いますか?」。
 生徒たちは顔を見合わせるだけで、なにも言わない。
 「君たちはやらされるからしょうがないと思うだけかもしれない。でも、歴史というのはじつは面白い。それが証拠に、これから君たちが高校を卒業し、大学を卒業し、社会に出たときに、かならず歴史好きのおじさんに出会うこと

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