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フィルム写真をデジタル化 江別にて

 ひと昔前はデジタルカメラなどなかった。写真はフィルムに記録された。その時代の写真を保存するにはどうしたらよいのか。フィルム自体を保存することも大事だろうが、フィルムは劣化するし、ポジフィルムならともかく、ネガフィルムの場合は何が写っているのかも分からない。

 デジタルデータ化すれば、どちらの問題も解決する。ところが、この作業は労苦を伴う。フラットベッド型のフィルムスキャナーを使ってパソコン上でデジタル現像するには、解像度にもよるが、数分はかかる。そのあいだは、待っているしかない。ほかにも、フィルム専用スキャナーを使ったり、デジタル一眼レフにフィルムデジタイズアダプターを取り付けたり、という方法もあり、それらの方が早いのだが、前者には画質の問題、後者には価格の問題がある。私も、おもにフラットベッド型のフィルムスキャナーGT-X830を使ってきた。

 先日、「江別市情報図書館2階の一室で総務部市史・行政資料担当専門員として、朝から晩までネガフィルムのデジタル化に取り組んでいます」というメールを受け取った。差出人は斉藤俊彦さん。江別市役所に勤務しながら、『馬のいた風景 ユベオツの風に吹かれて』(2012年)などの著作を出してこられた方である。市役所を定年退職したのち、江別振興公社の社長を経て、現在は、週4日勤務の会計年度任用職員として、市史関係の仕事に携わっている。使っている機種は私とおなじGT-X830だという。自分の興味のある写真のみをデジタル化してきた私とちがって、1952年以降の市の広報に使われた写真を網羅的にデジタル化している。その作業を見せてほしいと図書館に伺った。

 斉藤さんの机にはノートパソコンとスキャナーが並ぶ。机の横に、キャビネットの引き出しがひとつあり、フィルムが詰め込まれている。「バス」「鉄道」「市議会」「選挙」「景色」「道路」などと、おおまかな内容はメモされている。

 「広報に使ったフィルムが残されていたはずだと気になっていました。2023年4月に着任したら、たしかにありました。市の歴史を伝える資料ですから、デジタル化したいと考えたのですが、見通しが甘かったですね。ここに持ってきているのは1段だけですが、あと3段分あります」
 「全部で何枚あるのですか」
 「私が数えたわけではないですが、1万8000枚だと聞いています」
 「そのうち、デジタル化が終わったのは?」
 「5か月近くかかって、1段の4分の3を終えたところです。当初は、1年あれば全部終わると見込んでいたのですが…。このペースでいくと2年はかかるでしょう」

 同じような構図の写真があれば、1枚だけを選択したり、重要だと思われる写真を優先したりして、短時間化を図っているが、それでも先は長い。

ネガフィルムのデジタル化作業にあたる斉藤さん


 デジタル化した写真は一枚一枚、知っている顔がいないか、見覚えのある建物や風景が写っていないか、目を凝らす。1982年に入庁しただけあって、斉藤さんは古くからの職員を知っているし、部屋の書棚に詰め込まれた広報や新聞記事スクラップなども手がかりになる。もちろん、撮影年月日も調べる。

 先日は、柔道選手の女子短大生2人が市長を表敬訪問した写真が出てきた。画像を拡大すると、彼女らが手にする賞状に「昭和60年9月8日」と書かれている。ということは、そのあと一週間前後に撮影した写真なのでは? 市の秘書課に問い合わせた。「当時の市長のスケジュール帳が残っていないかい?」と問うと、「そんな古いものは…」と言われたが、しばらくたって電話がかかってきた。書棚の奥から見つかったという。おかげで、正確な撮影年月日が判明した。

 デジタル化作業が仕事の中心を占めているが、市民レベルでの歴史研究成果発表の場を提供する小冊子『えべつの歴史』の編集作業なども業務のひとつである。家に帰っても、歴史から離れられない。亡き父が若い頃にのめり込んでいた青年弁論をテーマにした『われ壇上に獅子吼する』(2017年)、『江別振興公社創立50周年記念誌 年輪重ねて50年』(2020年)、コロナですっかり様変わりした葬送事情や自分の祖先の北海道移住の歴史を盛り込んだ『遠ざかる野辺送り』(2022年)をこれまでに発刊した。現在は5冊目の本を執筆中である。


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