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『アンダスタンド・メイビー 上 』(島本理生 作) #読書 #感想

まだ下巻を読んでない状態で感想を書いている、という事実だけは述べておきたい。



主人公は茨城の中学三年生女子、藤枝 黒江。母と2人暮らしだが、母は育児放棄気味でほとんど家にいない。(昼の仕事をしてきちんとお金は稼いでいるが)

黒江は男嫌いなの?と友達に尋ねられた時、こう答える。
12ページより

「べつに嫌いじゃないけど。お母さんが、よく気をつけろって言うせいだと思う。悪いことだと思わずに、女をやらしい目で見る男が1番悪いって。恥じ入ったり、奥ゆかしい人は、心が綺麗だから大丈夫だって」

この母親の考え、(考えの押し付け、)なかなかに癖があるように感じる。

この本は主に黒江の恋愛を描いたものであり、彼女には思春期特有の不安定さがある。そして、見ていてハラハラするような心許なさもある。思春期あるあるの感情の流れだけではなくて、さらにそこに重度の"愛されたい"が加わっているように感じる。
そう感じるのも、母親の冷たさが原因なのだろうか。



そんな彼女の恋愛模様、初恋は中学にやってきた都会出身の酒井彌生(やよい)。隣の席の彼に惹かれ、告白して付き合って、そして別れて。ここでは儚い初恋が描かれている。見え隠れする黒江の不安定さを、彌生なら救ってくれるような気がしてくる。彼の恋愛経験は乏しかったけれど、彼には人に見えないものが見えていることもあったけれど、それでも彼は彼なりに恋愛に"真摯に"向き合っていた。

中学の時の友達は紗由と怜。彼女たちも思春期特有の恋愛というか感情というか....そういうものを抱えている。言いたいことを臆さず何でも言ってしまう紗由。時に相手を傷つけていることに気づかないのか。同じ男子とずっと付き合っている怜。彼女の世界は恋愛中心にまわっている。時にそれは、暴走する。
ただこの2人はあくまで"自分"をきちんと保てている。親に愛されているからだろうか。彼女たちと主人公との違いは、何なのか。


そんな時、彼は知らない男に襲われる。誰にも言えない経験をしてしまう。"好きだからこそ、こんなことは言えない"となかなか彌生にも打ち明けられない。他にも彼女を襲った"恐怖"が、さらに彼女の不安定さを加速させる。


さらに問題は、高校生に入ってからである。黒江が仲良くなった百合という女の子は、いわゆる"遊び人"だった。男好きで有名で、彼氏もいて。
だがこの頃の黒江は上記の恐怖で男の子に近づくことさえハードルが高かった。

157ページより、黒江はこう言っている。

私が百合ちゃんと一緒にいるのは、たぶん、男の人に触ったり触られたりセックスすることなんて、全然大したことじゃないのだと思わせてくれるからだと思う。


そんな時に出会ったのは、百合の遊び仲間だった「羽場先輩」である。彼とはもちろん付き合うし、共に家を出て行く事まで考える。彼と黒江は家庭環境、愛されてなさに関して状況がよく似ていたのだ。
しかし、結局別れその後賢治くんと付き合うのだ。羽場先輩と賢治くんは共に遊ぶこともあるが、決して仲は良くなかった。もちろん、黒江の取り合いみたいな面も含めて。

2人のことを黒江はこうまとめている。
323ページより

すぐに頭に血がのぼって暴力的で無鉄砲で、その分だけ素直で、でも百合ちゃんと何の関係もなかったというのはたぶん嘘で、おまけに昔の彼女のことを今でも好きだと言った羽場先輩。
先輩の彼女だと知っていて近付いて、それまではすごく優しくしてくれていたのに、いきなり勝手なセックスをした挙げ句、音信不通だった賢治君。
分からない。どちらを信じればいいのか。

この時の黒江は愛情と信用のバランスがめちゃくちゃだった。ただ愛を求めていたけれど、うまくいかない。裏切られる。自分だけを見てもらえない。


この時のことをもう少しだけ詳しく書き残しておくと
羽場先輩→連絡が取れないと思ったら百合と遊んでいた。このころ黒江と彼は付き合っていたが、彼は前の彼女(2人乗りバイクで事故に遭い、後遺症が残って入院している元彼女)とも会っていた。彼がDVをしていたわけではないが、どことなく自由奔放な彼は良くも悪くも黒江を振り回していた。
賢治君→羽場先輩と付き合っているころから黒江を好きで優しくしていたが、黒江と自分が付き合っている時に羽場先輩に「自分と黒江は最近もまだ会っている」と言われ黒江に裏切られた気持ちになる。そして無理やり彼女を襲ってしまう。


この後あまりにも最低な行為を繰り返す賢治君はさておき、少し羽場先輩のことに触れる。
251ページより

羽場先輩に大切なものや守りたいものがないからじゃない。
この世に、羽場先輩を守るものがなにもないせいだ。悪いことをしたり騒いだりするときにだけ集まる友達も、悲しいくらいに自分勝手な親も。

家出して、と言った時即答してくれた先輩の横で、黒江はそんなことを思っていた。自分と一緒にどこかへ逃げてくれると言った彼を、黒江はどれだけ信頼していただろう。そして、どれだけ必要としていただろう。

実は羽場先輩という人は結果的に黒江を裏切っていたわけではないようなのだが、元彼女のことを今でも好きなのかは(上巻の時点では?)定かではない。
ただ彼は彼なりに黒江のことが好きで、中学時代に黒江を襲った犯人を探し出してボコボコにしてくれたりもするのだ。

彼もまた、愛し方も愛され方も分からない、不器用な人間のような気もしている。





あっという間に2200字、続きは明日かな。


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