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直木賞受賞作「少年と犬」を読んで

馳星周さん作の短編集、「少年と犬」を読んだ感想を書いていく。

あらすじ(「BOOKデータベース」より)

家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。
仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。
体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。
老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた―老人と犬。
震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ―少年と犬。
犬を愛する人に贈る感涙作。

簡潔な感想を述べるとすれば、素直に感動できた。ネタバレになってしまうが、この本のすべての短編集に出てくる「犬」は、名前は違えどすべて同じ犬である。
この犬は東日本大震災の前に公園で一緒に過ごしていた「少年『光』君」を探して、福島から熊本までを旅するのだ。
旅の中でこの犬は様々な人に飼われ、様々な名前で呼ばれる、とても賢い犬である。そしてこの本でこの犬を飼った多くの人が、物語の最後には亡くなってしまう。時には事故で。時には病気で。時には殺されて。
最後の短編集である「少年と犬」で、この犬と光くんは感動の再会を果たす。

そして悲しいのはここからで、最後に死んでしまうのはこの犬なのである。犬は光くんに再び出会うという使命を終え、最後は静かに息をひきとる。
なんとなく途中から最後にこの犬は死んでしまうのだろうと予測できるのだが、最後に死んでしまった瞬間はやっぱり悲しかった。
この犬は、光くんの心の中でずっとずっと生きているのだろう。


🔁


とはいえこれが直木賞にふさわしいのかと聞かれればよくわからない。確かに感動はできるとはいえありきたりと言えばありきたりだし、光くんと出会えて良かったなぁと最後は思えるけれどまぁそういう結末であることも予想できたし。飼い主になった人のほとんどが死んでしまうし、そもそも飼い主となる人は犯罪者だったりお金にものすごく困っていたり病気だったりと それなりに「不幸」だと考えられることを抱えている。
この犬(元々の名前は「多聞」"たもん"という)は確かに賢いし飼い主に対する忠誠心もあるし堂々としている。多聞自身はこれだけ死を迎えそうな人々のところへ旅をしていて悲しくならなかったのだろうか。光に会うために必要なことだったのだろうか。死ぬ直前の人に何か「温かさ」をあげられるのが犬という存在だったのだろうか。

多聞は光くんを守るために生まれてきたのかもしれない。いつだって多聞は九州の方を向いていたし、誰か1人の飼い主の元にとどまろうという態度ではなかったし、飼い主たちもそれを察して多聞を好きな方角へと向かわせる。時に「自分はもう大丈夫」だと背中を押して。

見開きのところに(「老人と犬」より)

人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない。

「犬」に対する言葉が添えられている。
言葉が喋れなくても犬に助けられたり犬の温かさで救われたりしたことのある人は多くいると思う。人と実際に会話ができなくても人の思いを汲み取ることができる。


私は犬を飼ったことがないので「犬には魔法の力がある」とまでは言えないけれど、人の感情を読み取り、そばにいてあげられるというのは犬が持つ「力」というか「愛」なのだろうとは思っている。


心温まる話に触れたい方、犬を飼われている方はよかったら手にとってみてください。

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