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『雨の降る日は学校に行かない』 (相沢沙呼 作) 1 #読書 #感想

あらすじ(Amazonより)

「先生。わたしたち、どうして学校に行かないといけないの?」
コンプレックスのない女の子なんて、いない。――坂本真綾(歌手・声優)
中学生の憂鬱とかすかな希望を描き出す、切ない連作短編集。

普通じゃなくて、ごめんなさい。生きにくい子で、ごめんなさい。

表題作「雨の降る日は学校に行かない」より
昼下がりの保健室。そこは教室に居場所のないサエとナツのささやかな楽園だった。けれどサエが突然“自分のクラスに戻る"と言い出して──「ねぇ、卵の殻が付いている」

“お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください"。早朝の教室で、毎日手帳に書いていた架空の遺書。その手帳を偶然にも人気者の同級生が拾ってしまう――「死にたいノート」

揺れ動く6人の中学生の心を綴る6つのストーリー。

私は相沢さんの作品が話題になる以前からこのかたの作品を読んでいた自信があったけれど、なのに....なのに.....相沢さんが男性だということを知らなかった。女性だと思い込んでいた自分が恥ずかしい。


この小説は中学生の女の子たちが主人公の短編集だ。自分でも自分のことが嫌だ.....自分の中に嫌いな部分がある....そんな女の子たちが"学校"という閉鎖的な空間で人間関係の悩みと葛藤する。いじめ、仲間はずれ、スクールカースト、不登校、保健室登校....どれも中学生特有のリアルな心情が描かれているように感じた。
学校で息苦しさを感じてくれる人を肯定してくれる、そんな優しい作品だ。限りなくリアルに近い形でありつつも、ささやかな希望は与えてくれる。

私はかなりこういうことを感じながら学校生活を送ってきたように思う。周りの状況が見えすぎていて疲れていたとも言える。
その頃の気持ちを忘れずに大人になりたい。彼女たちの気持ちを分かってあげられる大人に。



短編に1つずつ触れていくが、最初の話と最後の話はつながっているのでもう1度最初から読み返したくなる....ということを念頭に置いておいてほしい。

ねぇ、卵の殻が付いている

保健室登校をしている2人の女の子の話。私は正直学生の時は保健室に行ったら負けだと思っていたし、うちの親はどんなに具合が悪くても皆勤賞が大切なタイプだったなぁと想起する。

教室に戻るという選択をした1人の女の子と、教室には戻りたくないと抗う女の子。
28ページより

「(略)でもね、人間って、大きくなるの。体じゃなくて、生きていく場所とか、人との関わりだとか、そういうのがすっごく大きくなって、収まらなくなっちゃうんだ。身体は勝手に大きくなるの。(略)」

いやだよなぁ。心はまだ狭い前の世界のままなのに、環境だけがどんどん変化して、置いていかれているように感じる。教室という大人数の人が共存する空間の中で、自分だけが1人ぼっちになってしまうように感じる。どこかで新しい世界に踏み出す決意をしないと、どんどん置いてかれちゃう気がする。

確かにそんな時期が、自分にもあった。



好きな人のいない教室

子供の頃何度も遭遇した、"相合傘"の落書き。ちょっとしたいたずら心で書かれたものが多いんだろうけど、時にそれは誰かを傷つけていたのかもしれない。
好きな人がいるだけで1日をちょっとハッピーに過ごせたりするような感覚を味わっていた時期があった。好きな人と話せるだけで喜べたあの時期を、ある意味幸せだったなぁ....と思い返している自分は、いつの間にあの頃から遠ざかったのだろう。

まぁでも時に恋愛なんてものは人間関係を崩壊させるし、片思いなんてものはバレない方が良いのだ。ちょっとした"からかい"がエスカレートして、ダメになってしまうことだってあるだろう。人は他人(ひと)の恋愛を踏み荒らすだけ踏み荒らして、弄ぶことだってあるのだから。

55ページより

わたしは、おもちゃになったんだと思った。退屈している女の子たちのおもちゃに。
彼女たちはきらきらと輝いていて恋に忙しいけれど、やっぱり退屈な時間は残っていて、だから、ちょっと違う人種のわたしを、おもちゃ代わりにしてもてあそぶ。きっと同じ種類の人間は、絆が固いから攻撃されない。

なんとなくのグループが、なんとなく"違う"を見せつけてくる。グループが複数あると派閥ができる。きらきらした可愛い女の子は、いつだってその頂点で、頂点の暇つぶし....イライラのぶつけ先....そんな標的になってしまう誰かが、教室には確かに存在する。

66ページより

教室のみんなのことなんて、関係ない。
だって、わたしたちは、たまたま同じ年に、たまたま近くで生まれただけに過ぎない。たったそれだけの理由で一緒くたにされて、教室という狭い空間に閉じ込められてしまう。自分に嘘をついてまで、そんな繋がりを大事にする必要なんて、ほんとうは、どこにもないんだ。

これはすごく、この本の中で1番心に響いた。どこかで自分を偽らなければ、スクールカーストやグループ派閥にまみれた教室という閉鎖的な空間では生き残れないような気がするけれど。どこかで誰かの顔色をうかがって、自分の立ち位置を確認して.....
そんな人間関係の中で、人は否応なしに強くなっていくような気がしている。

それが本当に良い意味での必要な"強さ"なのかは、分からないけれど。

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