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『アンダスタンド・メイビー 下』 (島本理生 作) #読書 #感想

下巻の続きから書いていく。

33ページより

教室の中で、甲高い声をあげて、はしゃぐ女の子たち。内輪にしか通じない会話。無視しているようで、どこかで意識しているようで、本当はそういうのがすべて自意識過剰で、存在すら認識されていないことの居たたまれなさ。

114ページより
自分が撮った写真を見て高校時代の自分を回想する黒江。

高校なんてまったく好きじゃなかった。悪い思い出ばかりだと思っていた。それなのに写真の中では、こんなにも生き生きとした瞬間が刻まれていた。
私だけが外側にいたのだと、あらためて気付かされた。どうしてなんだろう。

どこかで自分が疎外されているように感じている黒江。無意識のうちに壁を作っていたのかもしれない黒江。彼女の自分が必要とされていないことに対する"不安さ"は、母親が原因のような気がしている。
母親の愛を実感できなかったことこそが、根本的な原因だったのではないだろうか。

111ページより

いつもそうなのだ、母はなに一つ知ろうとしないし、深く関わろうともせずに、時折、心配して近付いてきたような素振りを見せたかと思えば、関心を失ったように離れていってしまう。

黒江は自分が必要とされていないことに敏感だ。カメラマンの仁さんに撮影についてこなくていい、と言われただけで急に疎外感を感じてしまう。自分には帰る場所がない、それが黒江を焦せらせる。


頻繁ではないが嫌なことを思い出すと吐いてしまう。極端に絶望的な気持ちになってしまう。彌生君と付き合っていた時の黒江の言葉で印象に残っているものがある。

124ページより

(略)彌生君、と私は心の中で呟いた。
お願いだからなんでもないって、大したことじゃないって言って。
だけど神様の声は聞こえなくて、水の流れる音だけが響いていた。

彌生君は黒江にとって恋人というより、"神様"だったのだ。そして、"〇〇"でもあった。この"〇〇"が、この本の結末が意味するところといっても過言ではない。

140ページより

彌生君がいなくなってしまったら。神様のいない世界で、私はなにを信じて守られればいいのだろう。

彌生君がいれば、怖くない。彌生君は私の神様、これは彼にとってどんな言葉だったのだろう。淋しそうに笑う彼にとって、どんなに重たい言葉だったのだろう。

黒江は愛されたいというより、"守ってもらいたかった"のか....。苦しい時に助けてほしい、なのに誰も助けてくれない....小さい頃にそんな思いをしたからこそ、ずっと"守られていたい"と思うのだろうか。

誰にも注目されたくない、傷つけられたくないと思う一方で誰かに必要とされていたい。自分を見守ってくれる"居場所"が欲しい。
そんな黒江の気持ちが、少し分かるような気がする。



結果的に黒江は彌生君と別れることになるわけだが、理由は"彌生君に性的な感情を伴って触れられることに恐怖や嫌悪感を感じるようになった"からである。なぜ急にそうなってしまったのか....そこはかなり真相に触れる部分なので、ここではネタバラシはしないでおく。
"みんな私を、私の中に置き去りにする"と考えていた黒江が彌生君と別れない....そんな未来が、見えなくてなぜか心から悲しかった。


そんな時、高校を辞めてAV女優になった中学の同級生、紗由ちゃんと黒江は再会する。彼女はこんなことを言った。

184ページより

「だってね、実の母親にも心が開けないのに、他人の女の子と上手くやるのは、無理だと思う。」

黒江は友達との間に壁を作っていて、なかなか自分のことを話してくれないと紗由ちゃんは感じていた。

192・193ページより

君は男がいないと生きていけないのか。
俺は君のなんなんだ。
(彌生君が別れる時に言ったセリフ)

紗由ちゃんの言うとおり、母親を含んだ同性は、私にとっていつもどこか遠かった。体を張って助けてくれるのも、深く傷をつけるのも、どちらも男の人だけだった。

黒江にとって同性の人間より異性の人間の方が近づきやすい....距離感が近いと読者の私も感じていた。それは男に依存するというよりかは、"相手が異性でなければ求められない何か"を、男性に求めているのだと思っていた。(今も思っている。)





神様じゃなくて、自分を見てほしい

場面は一気に切り替わる。このころの黒江は彌生君と別れた後、なんだかんだ自分をずっとアシスタントとして置いてくれている仁さんが自分のことをどう思っているのか気になっていた。でも、捨てられるのが怖くてそれを聞きたくないとも思っていた。

254ページより

生きることはすばらしいことだと思い込まされて、だから、そう感じないのは変で、いつかすばらしくなるから生きるべきだと信じていた。
でも本当は、生きることなんて、つらいのが大前提じゃないだろうか。
なにかを傷つけて、死んだものを食べて、欲望に追い立てられて。あるいは欲望を持つものに追いかけられて。誰かを救ったって、そんなの罪滅ぼしと変わらない。


次に続く。

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