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小説

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#小説

満たされない満たされたい

 満たされない
 満たされたい

 いくつもの
 たくさんの
 満たされようと
 手に入れても

 満たされない
 満たされたい

 幸せだと思っても
 すぐ希薄になる
 いつでも足りない心の持ち主

 だからって
 不満でもない
 悩みもない

 可哀想じゃない
 不幸じゃない

 恥ずかしいことですか
 隠れるようなことですか

 それはちょっとしたきっかけですか
 な

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魂の抜け殻 第3章

父と母

僕の両親は僕が小学校低学年の頃に別居をしていた。母は仕事をしていたので留守にしがちだった。姉と兄がいたので、一人ぼっちでは無かった。寂しくは無かった。父は近くのアパートに住んでいたし、会社も遠くは無かったので僕は父とよくご飯を食べに行った。進路の相談など父と話した。父とは手紙のやり取りもした。

母は仕事先の上司と恋仲になった。父の事を相談にのってもらったらしい。よくあるパターンの成り行

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魂の抜け殻 第4章

奥底に巣くった恐怖

不必要な憎しみ

不必要な怨み

不必要な思い

抱え込まなければいけない

幼すぎた自分

それは“恐怖”として

心の奥底に巣くった

母は“仕事の打ち合わせ”と称してお酒を呑みに行く。週の半分以上、帰りは午前様。僕はその頃まだ小学生。当然母は毎朝起きられ無い。僕達姉兄は自分達で朝食をとり、学校へ行った。夜は母と一緒だったり、姉と一緒だったり兄と一緒だったり。末っ子の僕は

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魂の抜け殻 第5章

優しいじぃじ

僕を筆頭に姉、兄と一年置きに結婚。父は挙式にも披露宴にも出席してくれた。僕にも姉にも子供が産まれてしばらくした後、父が「家に帰りたい」と言い出した。子供を連れて帰省すると父がいる。不思議なものだ。子供達にとってじぃじは初めから居る。そこに居る。元々物静かな風情をもった人なので怒る事は殆ど無く、僕自身怒られた記憶が無い。子供達はじぃじに懐いていた。優しいじぃじだった。

母は今まで気

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魂の抜け殻 第6章

実家に到着

話を戻そう。

僕は夜8時頃実家に到着した。警察から帰宅した母と同時刻。少しの差で姉が到着。母の話によると、丸1日警察に居たそうだ。暑い日だった。父の遺体からは異臭がしたそうだ。父の遺体は検査後、葬儀屋の保管室に移送されたそうだ。この時期、家にも連れて帰る事ができない状況だった。

母と兄、伯父の3人で警察に向かった。兄と伯父が父の遺体と対面した。兄は泣き出したそうだ。顔中心に白い帯

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魂の抜け殻 第7章

発見

死亡推定時刻午前9時頃。第一発見者は元社員の吉田さん。吉田さんが会社に到着したのはお昼頃。たまたま道が混んでいたそうだ。会社に電話しても出ない。会社に着いたが鍵がかかっている。なのに電気がついている。おかしい…と思ったと言っていた。

父はその2日前から会社に泊まりこんでいた。“これから実行します  午前7時半”父の机に書き置きがあった。実行…それは “死”を選ぶ事。場所も書いてあった。吉

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魂の抜け殻 第8章

無念である

実家に着いてまず父の部屋に行った。姉が言った。「家族宛に何も無いなんて哀しいね」僕はあまりそう思わなかった。父は家族に執着が無かっただろうと思ったからだ。そして母が言った。「一言相談してくれればね…」僕はこの言葉に憤りを感じた。“それじゃお前が何とかしてくれたのかよ!”もう一度父の部屋へ行った。ふと気になって箪笥の引き出しを開けた。“家族へ”実家の住所と母の名前が書いてあった。リビン

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魂の抜け殻 第9章

納棺

葬儀屋の遺体保管室から、葬儀場へ移る事になった。葬儀場の遺体保管室ではお棺に入れて置く。葬儀の日までそこで保管する。人間専用大型冷蔵庫といったところだ。これが納棺…。納棺の後、その足で税理士さんと会う約束をしていた。

納棺に立ち会った。まずお棺に遺体を入れる。父の身体は硬直していた為、白装飾を着せる事ができなかった。手を組めなかった。白装飾を身体の上から乗せる。お念珠を胸の上に乗せる。

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魂の抜け殻 第10章

税理士との話

約束の時間に事務所へ着いた。税理士と吉田さんが先に来ていた。税理士の森氏は年配のしゃきしゃきした男性。とても親切にしてくださった。

遺族の許可が無いと父の机も開けられ無いとの事。僕が「開けましょう!」と、皆で私物を調べた。森氏宛に書類がまとめられていた。他に必要な書類をあらかた集めると、僕は森氏と話始めた。会社の決済は9月、10月から今までの処理を頼む為に必要な書類は森氏に預けた

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魂の抜け殻 第11章

幕開け

母は混乱していた。姉は黙っていた。兄は何かを考えていた。兄が静かに言った。「一度、弁護士と相談してみよう」

僕と兄で弁護士に会いに行く事になった。次の日に電話をする事にした。僕はそれに加え、細かな処理をしなければならない。姉は僕のサポートする事になった。

過酷な日々の始まり。闘いの幕開け。
#小説

魂の抜け殻 第12章

通夜の前日

この日は葬儀屋との打ち合わせや、実家に持ち返った父の書類を調べたり、一日中雑用をこなしていた。

僕は妻に電話で、葬儀には参加しなくていい。子供達を頼む様に言った。

葬儀屋担当の方は楽しい方で、暗くならずに相談できた。母と一緒に打ち合わせをしたが、僕も初めての事なので、解らない事はどんどん質問した。用意するものから当日の事、お供えもののお団子の粉まで葬儀屋が用意してくれるから、驚い

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魂の抜け殻 第13章

通夜

7月10日、通夜。

内々で済ませ様と思っていた。それでも何処で聞いたのか、たくさんの方が来てくださった。吉田さんのお父様は病気で退院したばかりなのに、わざわざ来てくださった。他の元社員にも挨拶をした。参列者の方が父の顔を見て「安らかに、眠っている様だわね…」と涙ぐんで言っていた。僕は心の中で“安らかな訳無いじゃない”と悪態をついていた。

しきたりで通夜の日は夜どうし線香を絶やしてはいけ

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魂の抜け殻 第14章

 寂しい?

僕が小学生の頃、父に聞いた。「お父さんは一人で暮らして寂しく無いの?」僕の予想に反した答えが返ってきた。「寂しく無いよ」その答えが僕には寂しく感じた。

「いつでも会えるから寂しく無いよ」と。父は一人が好きなのだ。一人になりたかったから家を出たのだ。僕達が嫌だとか、そうじゃなくてただ一人になりたかったのだと思った。僕は父がいなかった事よりも、その答えが無性に寂しかったのだ。僕はまだ“

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魂の抜け殻 第15章

告別式

7月11日、告別式。

睡眠不足と、夜中に父の顔を見ていたせいか、告別式が始まってすぐに身体が震え出した。動悸がする。過呼吸になりそうだ。汗が出てくる。たまらなくなって告別式を抜け出し、ロビーで休んだ。水を買い、一気に飲んだ。少し楽になった様だ。

どのくらいの時間が経ったのだろうか。出棺の時が来た。戻らなければならない。立っているのが精一杯。情け無く思うもどうにもならない。父の入ってい

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