魂の抜け殻 第13章

通夜


7月10日、通夜。

内々で済ませ様と思っていた。それでも何処で聞いたのか、たくさんの方が来てくださった。吉田さんのお父様は病気で退院したばかりなのに、わざわざ来てくださった。他の元社員にも挨拶をした。参列者の方が父の顔を見て「安らかに、眠っている様だわね…」と涙ぐんで言っていた。僕は心の中で“安らかな訳無いじゃない”と悪態をついていた。

しきたりで通夜の日は夜どうし線香を絶やしてはいけない。と、言う訳で誰かが“番”をしないならない。葬儀場に泊まるのだ。僕は最初から泊まるつもりでいた。兄と姉を誘った。二人共覚悟を決めて一緒に泊まってくれた。

父は6人兄弟。父のすぐ下の妹、叔母が一緒に泊まりたい、と言ってくれた。この叔母は父を尊敬し、とても信頼していた。急な事だったが、叔母のご主人と息子さんも泊まってくれた。

午前2時、3時…その頃には皆眠りに着いていた。僕は不眠症であり、状況的にも眠れず、父の顔を眺めていた。どんな気持ちでいるのだろうか。しばらく眺めていた。そして手紙を書いた。手紙と言っても葬儀で喪主が読む挨拶だ。マニュアルがあるのだけれど、堅苦しくて気持ちがこもらない。だから僕の思う父を手紙にした。

2時間程ウトウトした。夜明けだ。喪主は母だったが、挨拶をするのは兄だった。朝、兄に手紙を渡して「マニュアルと上手く併せて読んでよ」と頼んだ。兄は寝ぼけた顔でその手紙を受け取った。



#小説



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?