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#読書感想文

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文芸書から自己啓発書まで、読書感想文として書き留めています。ご参考になれば幸いです。
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『進撃の巨人』のミカサとエレンについてずっと考えて気付いたこと

『進撃の巨人』のミカサとエレンについてずっと考えて気付いたこと

2023年11月に『進撃の巨人』のアニメーションが完結した。それを機に何度か通しで見直した。そこで『進撃の巨人』ってライナーの物語だったのではないかと思ったりした。マーレ編のおかげで、単なるダークファンタジーではなく、人類とは何か、という一大叙事詩になったことは間違いない。それに「少年よ、神話になれ」と言われていた碇シンジ君より、エレンの方が神話的な人物になったことも興味深い。

というわけで、こ

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#読書感想文 猿渡由紀(2021)『ウディ・アレン追放』

#読書感想文 猿渡由紀(2021)『ウディ・アレン追放』

猿渡由紀さんの『ウディ・アレン追放』を読んだ。2021年6月に文藝春秋より出版された本である。

最近、ウディ・アレンの作品がAmazon Primeで再び見られるようになってきた。2024年1月19日には最新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』が劇場公開される。

ウディ・アレンは、恋人であったミア・ファローの養女であるディランに性的虐待をしたとして、1992年に裁判が起こされ、その当時は無罪に

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#読書感想文 山本文緒(2021)『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』

#読書感想文 山本文緒(2021)『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』

山本文緒の『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』を読んだ。2021年10月に新潮社より出版された本である。

山本文緒さんの訃報を耳にしたとき、大きなショックを受けた。享年58歳は若すぎる。

10代の頃は書店通いをして、毎月、文庫本コーナーをしげしげと眺めていた。当時は、江國香織、唯川恵、山本文緒が女性作家の御三家であったと思う。江國香織は七光りなので、ブランド物のように扱われており

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#読書感想文 太田愛(2017)『犯罪者』

#読書感想文 太田愛(2017)『犯罪者』

太田愛の『犯罪者』(上下巻)の角川文庫を読んだ。

10代後半の若者である修司は、渋谷のクラブで出会った女の子に深大寺駅前の噴水広場に呼び出される。彼が女の子を待っていると、真昼にダースベーダーのような出で立ちの男が現れ、その場にいる4人が刺殺される。唯一、応戦できた修司だけが生き残り、病院に搬送される。命に別条はなかったものの、病院に青ざめた中年の男がやって来て、修司にあることを告げる。「逃げろ

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#読書感想文 岸本聡子(2022)『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』

#読書感想文 岸本聡子(2022)『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』

東京都の杉並区長である岸本聡子の『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』 を読んだ。

2022年7月に晶文社から出された単行本である。

本書では、岸本聡子が政治家になる前の活動家時代のことを知ることができる。彼女は1974年生まれの、いわゆるロスジェネ。彼女の5人きょうだいはみなロスジェネで、正社員になれたのは弟さん一人だけだと言う(p.72)。何とも過酷だが

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#読書感想文 柳美里(2017)『JR上野駅公園口』

#読書感想文 柳美里(2017)『JR上野駅公園口』

柳美里の『JR上野駅公園口』を読んだ。

わたしが読んだのは2017年出版の河出文庫版で、単行本は2014年に出版されている。

2020年にアメリカの全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞したことは記憶に新しい。

正直に言うと、わたしは柳美里が苦手だった。赤ん坊を抱く自分を単行本の表紙にしてしまう豪胆さに面を食らって以来、勝手に距離を置いていた。ただ、彼女は演劇出身であり、パフォーマンスをして、観衆

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#読書感想文 遠藤周作(2021)『深い河』

#読書感想文 遠藤周作(2021)『深い河』

遠藤周作の『深い河(ディープ・リバー)』を読んだ。2021年に出された改訂版の講談社文庫である。解説は研究者の金承哲。

『深い河』は1993年6月、遠藤が70歳のときに出版されている。彼は1996年に73歳で逝去してしているため、晩年の作品と言えるだろう。

深い河とは、ガンジス河を指す。妻を亡くした磯辺は妻に生まれ変わると告げら、日本人の生まれ変わりだと話す少女のいるインドに向かう。

磯辺、

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#読書感想文 遠藤周作(1988)『私にとって神とは』

#読書感想文 遠藤周作(1988)『私にとって神とは』

遠藤周作の『私にとって神とは』を読んだ。1988年に光文社文庫より出版されたものである。

遠藤周作は文学史的に言えば、第三の新人である。1923年生まれで戦中と戦後を生きた作家でクリスチャンとして知られている。

本作は、これまで人に質問されてきたことを遠藤周作自身がまとめて、質問と回答を構成している。自作自演の、ちょっと変わった趣向のインタビュー本である。

遠藤周作は母親が離婚をして、母親の

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#読書感想文 三谷はるよ(2023)『ACEサバイバー 子ども期の逆境に苦しむ人々』

#読書感想文 三谷はるよ(2023)『ACEサバイバー 子ども期の逆境に苦しむ人々』

三谷はるよの『ACEサバイバー 子ども期の逆境に苦しむ人々』 (ちくま新書 1728)を読んだ。2023年5月に出版された本である。

ACEとはAdverse Childhood Experienceの略で、子ども期の逆境体験を指す。それが原因で、その後の人生でさまざまな困難に直面していることが、アメリカの研究では明らかになっているのだという。

本書の目次は以下の通り。

正直なところ、読むの

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#読書感想文 森達也(2017)『神さまってなに?』

#読書感想文 森達也(2017)『神さまってなに?』

森達也の『神さまってなに?』を読んだ。

わたしが読んだのは2017年に出版された文庫版で、単行本は2014年に河出書房新社より出されている。

1.著者の森達也氏について森達也はドキュメンタリー映画の監督であり、2023年9月には福田村事件をモチーフにした映画の公開が控えている。

もちろん、森達也の代表作といえば、オウム真理教の内部に潜入した『A』と『A2』だろう。近頃は、配信作品にもなってい

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#読書感想文 角田光代(2008)『おやすみ、こわい夢を見ないように』

#読書感想文 角田光代(2008)『おやすみ、こわい夢を見ないように』

角田光代の『おやすみ、こわい夢を見ないように』 (新潮文庫)を読んだ。

角田光代の文章は、あまりに読みやすくて、毎回恐ろしい。一度もひっかからず、ページをどんどん繰ることができる。誰もが知っている平易な言葉を使って、誰も知らない描写に仕上げて見せることができる傑物なのだが、それをひけらかしたりはせずに、こっそりやってのけている。彼女の小説を読むたびに、その手練手管と技巧にわたしはおののく。

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#読書感想文 絲山秋子(2010)『妻の超然』

#読書感想文 絲山秋子(2010)『妻の超然』

絲山秋子の『妻の超然』を再読した。

無駄な贅肉が削ぎ落された端正な文体は実に簡潔で、するすると小気味よく読める。彼女が大衆的な作家ではないことが残念だ。おそらく、その原因は「隙のなさ」にあると思う。

(平然と自己模倣を繰り返し、冗長で冗漫な無駄な描写だらけで、同じ擬態語を同じページで使ってしまうような雑な作家の作品の方が、ベストセラーになっていたりするのは、本当に不思議な現象だと思う。)

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#読書感想文 益田ミリ『今日の人生』

#読書感想文 益田ミリ『今日の人生』

益田ミリの『今日の人生』と『今日の人生2 世界がどんなに変わっても』を読んだ。

2017年と2020年にミシマ社から出版された本である。ジャンルとしてはコミックエッセイに分類されるものだと思う。

益田ミリさんの作品は以前から好きでよく読んでいた。彼女の着眼点や感じていることは、手厳しいなと思わされるときもあるのだが、頭を持って考えている生身の人間っぽさがある。

『今日の人生』では、日々の気付

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#読書感想文 長谷川町子『いじわるばあさん』

#読書感想文 長谷川町子『いじわるばあさん』

長谷川町子の『いじわるばあさん』全4巻を読んだ。朝日文庫から、1995年頃に出版された漫画である。

漫画の『サザエさん』を読み、原作とアニメーションのギャップに驚いた。そして、先日、長谷川町子美術館に行き、いじわるばあさんのことを思い出した。

青島幸男が演じていたキャラクターぐらいにしか認識していなかったが、面白そうだと思って、一気読みをした。驚いた。

いじわるばあさんは、カジュアルに軽犯罪

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