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オススメ短編小説

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自信のある短編小説をどんどんじゃんじゃん追加していきます!
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#小説

短編小説『地面着陸』

短編小説『地面着陸』

月面着陸をなんとなく夢見ていた。
クレーターの真ん中にでっかい旗を刺す奴がやりたかった。

でも正直宇宙飛行士になろうとは思わない。
無重力の生活は怖いし、絶対普通のラーメンとか食べたくなるし。
なにより自分の家以外であんまりトイレに行きたくない。

「…だからビジネス始めてお金持ちになろうって?」
「うん。それならすぐ帰ってこれるじゃん?」
「いやまあ気持ちはわからんでもないけどさ。」
「でしょ

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短編小説『Slack Girl』

短編小説『Slack Girl』

「じゃあ今日の生徒会活動を終わります。」
椅子を引く音、重たいカバンを背負う私を含めた生徒達、あくびをしながら手を振る後輩、いつも通りの小さな1日。
狭い階段を早く降りていくみんなとは逆に私は上へ昇っていく。

「ハァ…ふう…。」
生徒会長である私は今、屋上へ向かっています。
とある男と約束を生徒会長になった時に交わしてしまったせいで毎日屋上へ向かわねばならないのです。
重たい荷物と階段が上半身と

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短編小説「ビタースパーク」

短編小説「ビタースパーク」

「…んぅ。」
だらけた毛布を拾い集め、くるまってやり過ごす冬の不快な朝。
オフタイマーのせいでだんだんと冷え込む室内が億劫になり今日も嫌々目を覚ます。
冬休みが終わってから数日、学園生活にも終わりが告げられそうな高校3年の1月上旬。
ベランダで靴を整える父、夜勤の疲れで寝ている母。
今この家で生きた目をしているのは僕だけだ。

菓子パンをほお張りながら、今日の時間割に教科を入れ替える。
ちゃんとし

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短編小説「この星が終わる前に」

短編小説「この星が終わる前に」

星が終わる前にした約束、僕はそれをはっきり覚えている。
住んでいた場所、好きだったもの、よく聞いていた音楽は何も覚えていないというのに。

確かに存在しない記憶の中に微かに眠っている女性の声。
「生まれ変わってもお互い好きでいようね。」
この言葉だけは輪郭ごと覚えている。

「それで軽音部入れなかったんだ…。」
カラカラな空の下。
夏休みも終盤、たまたま家の前で出会った幼馴染のユウカと家の前の階段

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【短編小説】群雲に隠れる

【短編小説】群雲に隠れる

エアコンががんがんと効いた電車に揺られて数十分、快速に乗るはずが間違えて普通列車に乗ってしまった彼は、都会から田舎へとゆっくり変わっていくグラデーションを見て楽しんでいた。

「あ、あの…」

普通列車だとここからさらに二十分ほどかかるが、乗り換えたらミスするかもしれない恐怖と、電車の椅子の気持ちよさで立ち上がれない彼は誰に見られているわけではないのにすました顔で乗っている。

「あ、あの…!」

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【掌編小説】季分屋の君は。(333文字)

【掌編小説】季分屋の君は。(333文字)

君は春の温かい風が好きという。
柔らかな陽の光や、桜の降る春という季節を芯から愛している。

君は夏の爽やかな風が好きという。
ずっと元気に照りつけてくる太陽や、沈むのがゆっくりな夏の夕日を芯から愛している。

君は秋の冷えた風が好きという。
赤く染まって地面に落ちる紅葉や、澄んだ空気で綺麗に輝く星空を芯から愛している。

君は冬の切り裂くような風が好きという。
しんしんと降り始める雪や、冷えて凍

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【掌編小説】レモンって何の味だっけ

【掌編小説】レモンって何の味だっけ

夏休みも終盤、私は今年出来た同じ高校の彼と地元の小さな神社でやっているお祭りに来ていた。

「ねえ、かき氷のシロップって全部同じ味らしいよ。」
もう使い古されたような雑学をあたかもとれたて新鮮かのように紹介してくるキミの表情に笑ってしまう。

私が食べたいものに指を指すと、キミは屋台のいかついおっちゃんにイチゴとレモンのかき氷を頼む。
「え、てかレモン食べたい。あとで一口交換しよ。」
さっきの自慢

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【短編小説】うみおばけ

【短編小説】うみおばけ

海と街をつなぐ一つの踏切
第三火曜日の14:00には電車が通った後に、なぜかもう一度踏切が下がるという謎の現象が起こる。

異世界につながる合図だとか、ネッシーや海坊主だったりが目を覚ますアラーム代わりだとかいろんな噂があるらしい。

そこで、先日なんも上手くいかなくて会社を辞めてニートになった俺は時間が出来たので、何となくその噂の真相を確かめにいくことにした。
別に信じているわけではない、暇だか

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【短編小説】スパイ壊滅作戦

とあるビルの地下一階…
そこには世界を裏で牛耳る秘密結社があると言われていた。
その秘密結社の真相を暴くため、僕ら二人はこの街にやってきたのである。

「それにしても今日は寒いっすね…。」
「だから一枚羽織ってこいとあれほど言っただろう。」
「いやだって出てくるとき暑かったんですもん!」
「全く…。」
先輩の名前はペリウット・ジェルニカ。
僕らの職業上、コードネームである。
なんでこんな長い名前に

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【短編小説】猫背の君は僕より背が高い

彼女は今日もキーボードをたたいている。
「ふあぁ...ねっむ。」
「お疲れ様…。」
「あぁ、そこ置いといて。」
前に出た首と丸くなった背中は今日も美しい。
「…ありがと。」
「え、あ、うん。…お風呂もうすぐ沸くよ。」
「ん。りょーかい。」

僕はコーヒーを置いて部屋を出る
最近、目を合わすことが少なくなっている。
仕事が忙しいらしく、一緒に何かをするということが出来ない。

でもそれでいいんだ。

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【短編小説】弱者のノクターン

【短編小説】弱者のノクターン

この作業は、夜まで続いた。
「…今日はここまでにしよ。」
「で、でも!このままじゃあ…。」

三踊会(さんとうかい)
卒業を控えた三年生がそれぞれ出し物を準備して、学校スケジュール丸ごと使って次々発表していくというもの。
彼らは一週間後に待っている三踊会に向けて必死に楽器を鳴らしていた。

セットリストはそれぞれ4人が好きな曲一曲ずつ。
アニソン、J-POP、アニソン、海外のバンド
合計四曲を覚え

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【短編】青く光る夜の交差点

【短編】青く光る夜の交差点

春、出会いと別れが入り組む季節。
今日もこの横断歩道は、さよならが聞こえる。

僕はきっと、ここには帰ってこない。
というか、帰ってきちゃだめだ。
帰ってこれると思ったら気が抜けてしまう。

青く光る夜の交差点。
向かい風はいつものと違い、優しく頬を撫でた。
僕は一歩踏み出す。
春の風に思いを乗せて。

君と街には、またねじゃなくてさよならを告げて
また一歩前に踏み出す。
後ろからの声は聞こえない

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【短編小説】深夜、カラオケボックスにて

「…一人で。」
「え?あぁ、好きな部屋使ってください。」
店員は固い椅子に座り、膝を組んで漫画を読みながら対応した。
「あ、はい。」
突如として降り始めた雨に打たれた私は、急いで近くのカラオケボックスに入った。

びしょびしょの上着を脱ぎ、ソファに腰掛ける。
「はぁ…。」
ありきたりな人間は、外から見える景色をエモいとかそんな一言で片付けるんだろう。

…全部にムカつく。
雨が降ったことも、さっき

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四天王の日常 

四天王の日常 

「…あれ。」
魔王城に来た時から、ラルスは嫌な予感がした。
辺りはいつもより静かで、軍の奴たちと誰も会わなかった。

ラルスはゆっくりと四天王ルームのドアを開ける。
「…お!ラルス!」
自分より先に2人来ていた。
アリウムとゴンボだ。
「オハヨウゴザンス。」
ゴンボの低い声は眠かった体に大きく響く。

「あ、ああ…ジョムは?」
「え?あぁわかんない。まだ来てないと思うよ?」
「そうか…。」

アリ

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