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生活の雫

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日常生活を切り取った詩です。
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【詩】朝のにおい

【詩】朝のにおい

「ああ今日はこのにおいか」
朝、目が覚めて窓を開けると
日替わりでいろいろなにおいが
部屋の中に染みこんでくる。

『このにおい』といったって
別に特別なにおいではない。
何度も嗅いだことのある
ありふれた朝のにおいだ。

ただ、いろいろなにおいを
ひとつひとつ覚えているのは、
そのいろいろなにおいの中に
ひとつひとつの思い出があるからだ。

そのにおいがすると思い出は
瞬時によみがえってくる。

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悲しきマッサージチェア

悲しきマッサージチェア

 昨日は休みだったのだが、何もやることがなかった。あまりに暇だったので、運動をした後に、嫁さんの部屋に置いてあるマッサージチェア(あんま椅子のことを今はそう呼ぶらしい)にかかった。それを使うのは今年初めて、というかおよそ1年半ぶりだ。

 そのマッサージチェアだが、5年程前に嫁さんの会社で従業員に斡旋していたものだ。その企画があった時に、嫁さんが、
「マッサージチェアの安売りやっているんだけど、い

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車間

車間

 国道バイパスでの話だが、前の車との車間を適度に空けて走っていると、何を焦っているのか知らないが、決まってバカが割り込んでくる。そこで、今度はそいつとの車間を空けなきゃならない。

 それはまあいいにしろ、そういうバカに限って、前の車にベタ付けし、しょっちゅうブレーキを踏むんだ。車間を空けないで走れるほど運転に自信があるんだろうけど、万一の事故をもらってはかなわんからと、ぼくはさらに車間を空ける。

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【詩】都会

【詩】都会

1,
高いビルに登って景色を見ると
目の前に現れるのは、
空と雲と遠くの山の影ばかり。
牧歌的な雰囲気には浸れるものの
昔憧れた都会の窓が見えない。
街を映し、並木を映し、
行き交う人の顔を映す、
そんな都会の窓が見えない。

2,
都会の鳥はカラスなんだと
いったいだれが決めたのだ。
メジロとかウグイスなどの
野鳥もやってくるんだから
カラスなんて言わないでほしい。
都会の象徴はゴミだと言って、

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【詩】論敵

【詩】論敵

1+1は絶対に2だと言う人がいる。
必ずしも2にはならないと言う人がいる。
どちらも必死で、
なかなか自説を曲げようとはしない。
そんなことに興味のないぼくは、
いつもそのやりとりを見て笑っている。

それが癇に障るのか、
「じゃあ、あんたはどう考えるんだ」
と二人して絡んでくる。
元々興味がないわけだから
そんなことを考えたことすらない。
だからいつも
「おれにはわからん」と逃げていた。

とこ

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一冊の本

一冊の本

 最近小説を読んでない。
 若い頃はいろいろな種類の小説を読んでいたが、30歳を過ぎた頃から歴史小説しか読まないようになってしまった。面白い小説があれば、ジャンルにこだわらずに読んでみたいと思っているのだが。

 歴史小説は、歴史の勉強になるというのがもちろんあるが、何よりもいいのが自分がその人になりきったり、その時代の中で遊んだりすることができるという点にある。
 例えば司馬遼太郎の『坂の上の雲

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【詩】坂を上る

【詩】坂を上る

キュンとなった坂を上る
ペダル漕ぐときついので
自転車押して歩いて上る
うすい雲が張った空から
紫外線情報が降りそそぎ
かるく顔が赤らんでいる

体はその条件に反応して
ジワッと汗が滲んでいる
とはいえ少し冷たい風が
朝方から吹いているので
タラタラ滴る程でもない

右手の屋根にネコがいる
前世のエサを夢見ている
向かいの屋根に鳥がいる
エデンの頃を夢見ている
鼻歌交じりの工事の親父
なぜか小指が

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【詩】ルーレット

【詩】ルーレット

ぼくの気分はルーレット
その時々の点と点
悲しいことでも笑ってしまい
笑えることでも怒ってしまう

昨日好きでも今日は嫌い
そんなことの繰り返し
転がる球は心のようで
なかなか素直に定まらない

そんな点が積み重なれば
ひとつの影に見えてくる
影はぼくを形作って
そういう人だと見せてしまう

そういう人だと思われることが
嫌で嫌で無理をする
無理をすれば小さな球は
またコロコロと定まらない

そし

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【詩】ポキポキ

【詩】ポキポキ

若い頃には鳴らなかった関節が
ある日突然ポキポキポキポキと
鳴るようになったんだ。きっと
そこが分岐点だったんだろうね。

そのうち体はポキポキに侵され、
攣ったり、張ったり、捻ったり
立ってりゃだるいし座れば痛い
寝ても寝ても疲れは増すばかり。

それでも何とかやってきたんだ。
「いつか疲れから解放される」
「老化なんかじゃないんだぞ」
そう潜在意識に言い聞かせてね。

だけど解放されることはな

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【詩】こだわり

【詩】こだわり

子供の目から見た大人の
わからない部分の一つに
『こだわり』というのが
きっときっとあるはずだ。

その部分に触れた子供は
「大人っていうのは何で
こんなくだらないことに
意固地になってるんだ?」
と思っているに違いない。

そんなこだわりのせいで
ソンするのが大人なんだ。
そのこだわりをなくせば
事はすんなりと運ぶのに
でも大人はこだわるんだ。
すべてがそうなんだよね。

【詩】時の雨

【詩】時の雨

雲深き 秋の夜
月隠れ 時の雨
過ぎし人 傘もなし

旅日記 日々は濡れ
字はもつれ 時の雨
懐かしき 想い消え

 風は濡れ 夜に冷たく
 時の雨 火もつかぬ

 虫は鳴き 夜に冷たく
 時の雨 咳はやまぬ

実も触れず 枝は枯れ
立ち止まる 時の雨
遠き夢 闇に枯れ

【詩】柔軟体操

【詩】柔軟体操

とにかく子どもの頃から
体が硬い方でしたね。
だから柔軟体操は大の苦手でして
ゆえに真面目にやらずにきたのです。
それが災いして大人の後半にいる今は
その何十倍も硬くなっているのです。

ぼくには負けず嫌いな一面があるのか
かつて体の柔らかい人を見た時に
『あんな奴に負けるもんか』などと思い
柔軟体操に挑戦したことがありました。
だけど生来の硬さから音を上げてしまい
なかなか長続きしなかったのです

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【詩】1957年製

【詩】1957年製

朝目覚めるとぼくはこの機械に
キーを入れてエンジンをかける。
機械はしばらく停滞してから
「よっこらしょ、よっこらしょ」
ゆっくりゆっくり動き出す。

この機械は1957年製だから
67年間使用していることになる。
たまに故障はあったものの
性能がよかったのか、運がよかったのか
ここまでは大事に到らなかった。

だけどその使用年数が祟ったのか、
最近無理が利かなくなっている。
メモリー機能は低下し

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【詩】自分で淹れたコーヒー

【詩】自分で淹れたコーヒー

自分で淹れたコーヒーのまずさが、
朝の気分を重くする。
おいしくなければ飲まなきゃいい、
もちろんそれはわかっているが、
なぜかカップを口に運ぶ。

それでもすぐに飲むことはせず、
カップに口をつけるたびに、
少しずつコーヒーを口に含み、
ほどよくたまったところで息を止め、
一気に腹の中に落とし込む。

だけどそういう高度な作戦も、
見た目も悪いコーヒーなので、
気持ちがなかなか受け入れない。

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