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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年10月の記事一覧

『俺が密かに契約している』

『俺が密かに契約している』

先月分の請求がエグい

妻には言えない口座

妻には内緒のクレカ

限度を超えたみたいだ

生活には影響がないよう

俺も副業を始めたりと

なんとか凌いできたけど

もうごまかしきれないかも

--

「話ってなぁに?」

休日の昼下がり

ふだんならのんびり2人で

カフェにでも入り浸る頃

「神妙な顔つきだけど」

そう俺に尋ねる妻は

とても無邪気だ

この笑顔を

壊していいのか

思え

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『鞍上の兄弟』

『鞍上の兄弟』

私たちの交渉は決裂し

結果として

この国に多大な損失をもたらした

外務大臣の座を更迭され

もはや自分の存在意義を失った私は

公職を辞して下野した

彩りの多い街並みに見送られて

荒涼とした野原を進む

数十年ぶりにみる

ふるさとの風景

両親はとうの昔に他界

日夜勉強に明け暮れた私には

ただ一人の友人もなくて

兄が出迎えてくれた

「なに、ゆっくり山羊飼いでもやろう」

山羊を

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『贖罪』

父を轢いた男が

詫びに来た

門前払いをしようとしたけど

母がまぁまぁというので

茶まで淹れようとしたから

母の手を制して

「悪意は…ありませんでした…」

当たり前だろう

ただの不注意

わき見運転だ

「許されようとは…思いませんが…」

そういって

分厚い茶封筒を

テーブルのうえに

「まずは…まずはこちらを…」

そういう問題じゃない

それは母も僕も

同じ気持ちで

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『※特別な訓練を積んだ選手たちが専門家の立会いのもと』

『※特別な訓練を積んだ選手たちが専門家の立会いのもと』

「でやっしゃぁあーーーーーー!

歓喜の渦は

ちょっぴり酸っぱい香り

だけどとても

さっぱりした気分

成し遂げた

日本人初の

快挙を成し遂げた

本場の

並み居る強豪たちを

押しのけて

(あとがき)

スポーツのリザルト好きなんです。だからたまに作るんですよこうやって。あんまり人にみせないけどね。
よく知らないけど多分、競技サウナ、つまり我慢大会ってあるよな、うん。
さてこれから

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『女「は?海外では普通だし』

『女「は?海外では普通だし』

女(以下:女)「えっとオリオン座流星群みれるとこ

運転手(以下:運)「…

女「オリオン座流星群みれるとこ!

運「…

女「ねーちょっと聞いてんの?

運「…

甘枝ゆとり(以下:甘)「おい女

女「なんだおまえ

甘「これタクシーじゃねぇんだよ、バス、ただのバス

女「は?

甘「しかもこの路線な、しし座流星群のほうなんだわ

女「なにいってんのキモ

甘「あとバス走行中に話しかけんじゃねえ

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『「小学校から出直すかァ!?』

『「小学校から出直すかァ!?』

「おい鯱ィ!

「はっ!吉良我係長!

「おまえさぁ…

「はっ!

「なめてんの?

「はっ!

「なめてんのかっての、これ

「はっ…どのあたりが…でしょうか…

「小学校から出直すかァ!?

「…

「カネ稼げねぇのに文字数稼ごうってかァ!

「いえ…

「勝手に余白作ってんじゃねえよ!

「…

「名前と最初の文の間ァ!

「お…お言葉ですが…

「んだよォ

「その…わたくし小学校では…

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『そして誰からも感謝されず』

『そして誰からも感謝されず』

刺身の盛り合わせが既に

等間隔に3つ並んでいて

12人分の取り皿と箸

宴会の始まる時刻はもう

15分も過ぎているんだけど

幹事の僕しか

店に着いていない

なるほどな…

「ちょっと遅れます」

「先に始めててください」

「電車が遅れちゃってて」

3人からは連絡があった

あとの8人は

こちらからの呼びかけにも

反応しない

店員さんから

席の2時間制限があるので

そろそろ

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『休み』

『休み』

休み

だらだらと起きた

もう昼は過ぎてて

テレビをつける

スポーツ系のストリーミングで

ちょっと遠くの県でやってる

サッカー中継を観る

冷蔵庫には調味料しかない

ビールが一本あったから

とりあえず空ける

アテがほしい

缶詰なんかも

ない

そとは大雨

コンビニ行くの

めちゃくちゃだるい

デリバリーしかないんだなと

ようやく観念する

好きなインドカレーの店に

バタ

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『穴、首、飛ぶ、羽目』

『穴、首、飛ぶ、羽目』

ヨシダ商事からの支払いが今月も滞るようだと、いよいよ俺のほうも首を吊らなきゃいけなくなってくる。いくら親父の代からの懇意とはいったって、ウチの売上の4割もあそこに頼っているようじゃダメだったんだ。そんな簡単なこと、いまどき中学生でもわかるっていうのに、どうして俺はこんな状態になるまで気がつかなかったのか。

いま支払いの督促というか、もはやその場で現金回収して来いと、営業部長の谷岡と経理部長の日向

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『橋の向こうには行っちゃいけないと』

橋の向こうには行っちゃいけないと

幼い頃から言いつけられてきた

もともと好奇心が大きくない僕は

別に言われなくても

いきゃあしないよって

ずっと思ってた

同級生たちのなかには

おもしろがって

橋を渡ろうとする子もいたけど

決まって橋を渡りきったところで

係の人に止められて戻ってくる

川幅は広くないけど

渓谷だから深くて流れが早い

だから橋以外に渡る方法はなくて

ある曇天

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『こんどご飯いきましょうって』

『こんどご飯いきましょうって』

吉岡さん

同じ部署の2つ後輩

吉岡成美さんが

こんどご飯いきましょうって

誘ってくれて

とても嬉しかった

ここ数日ずっと

浮かれてた

それとは別に

昨日の夜

懇親会があって

みんなでワイワイ

盛り上がった

二次会はボウリング

俺はついつい

調子に乗って

250点を叩きだしてしまった

そしたら吉岡さんが

なんだかドン引きしていて

案の定

やっぱり食事の日は別の

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『些細なことを気にし過ぎる病に罹っている』

『些細なことを気にし過ぎる病に罹っている』

わたしは

些細なことを気にし過ぎる病に罹っている

しっかりと医師の診断を

受けたわけではないのだけど

自分のことは

自分がいちばんよくわかっている

昨日の上司の小言が

延々耳に残っているし

今朝パートナーから言われた嫌味が

ぜんぜん消えない

どちらも理屈で考えれば

ほんの些細なことにすぎないのに

それをわかっているのに

ずっとずっと考えてしまう

だからわたしは

些細な

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『「着せてもらったんだろ?最初』

『「着せてもらったんだろ?最初』

日本相模協会は先日、以下の力士1名を除籍処分としたことを発表する。

<対象者>
舟鮨 酢太郎
本名:舟田 握
年齢:22歳
所属:愛新覚羅溥儀部屋
番付:東前頭葉334枚目(令和4年夏場所時点)

<事由>
対象者は当協会に無断で、スポーツ用品メーカーXのマーケティング担当者より全身を覆うタイプのウェアの提供を受け本場所に臨み、その見返りとして金銭および飲食の接待を受けていた。またその会食に未成

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『きょうはK子さんの姿が見当たらない』

『きょうはK子さんの姿が見当たらない』

きょうはK子さんの姿が見当たらない

K子さんと僕は

毎朝同じ電車に乗るけど

僕は遠目で

彼女を見守るだけ

僕はいつも

少し離れた場所で電車を待って

隣の車両に陣取る

K子さんが降りるのは僕より手前

だから彼女の後姿を

毎日見送るんだ

帰りの電車が同じになったことも

何度かあるけど

改札口を出たら僕と反対方向だから

そこでお別れ

K子さんとは

小学校も中学校も同じだっ

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