『橋の向こうには行っちゃいけないと』


橋の向こうには行っちゃいけないと

幼い頃から言いつけられてきた


もともと好奇心が大きくない僕は

別に言われなくても

いきゃあしないよって

ずっと思ってた


同級生たちのなかには

おもしろがって

橋を渡ろうとする子もいたけど


決まって橋を渡りきったところで

係の人に止められて戻ってくる


川幅は広くないけど

渓谷だから深くて流れが早い

だから橋以外に渡る方法はなくて


ある曇天の昼下がり

この田舎町に銃声が響いた


住民が総出でその音の方向へ

集まってみると


橋の向こうの検問所で

男がひとり仰向けに倒れている


遠目にもドス黒い血がグロテスクで


撃ったと思われる係員は

やれやれといった顔つきで

どこかへ電話をしている

おそらく雇われ主への報告と

撃った男の始末についてだろう


--


山奥の小さな村だから

だいたいが林業に従事していて

そのほかの働き口は

とても少なかった


体力に自信がない僕は

なんとか勉強をして

都会に出ようと思ったけど

うちにはそんなお金はないよと

進路をシャットアウトされて


僕は別にそこまで

都会に出たかったわけじゃないし

林業をこなす自信がないから

消去法でそう思っただけ


けっきょく僕はおとなしく

学校から斡旋された仕事に

就くことになった


もともと好奇心なんてないんだ

そんな僕にうってつけの職業を

先生は紹介してくれて


橋の向こうの検問所に

一日待機して

余計な人間が渡ってきたら

足止めする


あの仕事


何年かに一回

乱暴な輩が出るらしいけど

そんなときは猟銃で

撃つことが許されているらしい


あぁもう10年以上も前に見た

あの光景か

でも思えばあの日以来

橋での発砲騒ぎは起きていない

だからこれから先も

そんな馬鹿げたことは

起こらないと思う


まだ学生の身分だけど

職業体験という名の下働きで

早めに現場に就くことになった


制服と猟銃

先輩から手渡されたのはいいものの

銃の扱い方なんて知りませんよと


そんな心配を告げると

じゃあ試しにと言って先輩が…


バァーン!


暴発した

先輩はなぜか


そこそこの長さの猟銃を

自分のほうに向けて

誤射していた


その場に倒れ

ドス黒い血を流す先輩


村の人間が

ざわざわ集まってくる


僕は検問所の電話で

何かあったらここへかけろと教わった

内線9番に電話する


電話口の向こうの人が

あぁ10年前と同じやつねって

言ってたのが

忘れられない


これから電話で

後処理の方法を聞いて

それから僕の出身校に

求人票を提出する











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