『そして誰からも感謝されず』
刺身の盛り合わせが既に
等間隔に3つ並んでいて
12人分の取り皿と箸
宴会の始まる時刻はもう
15分も過ぎているんだけど
幹事の僕しか
店に着いていない
なるほどな…
「ちょっと遅れます」
「先に始めててください」
「電車が遅れちゃってて」
3人からは連絡があった
あとの8人は
こちらからの呼びかけにも
反応しない
店員さんから
席の2時間制限があるので
そろそろスタートしてほしいと
そんなこと言ってもな…
思っているうちに
どやどやと騒がしく
個室のドアが開く
5人いっぺんに来た
ちょっとまだ僕
この方々の名前があれだけど
とにかく12人のうち
6人そろったことになる
もう始めさせていただきますね
グループチャットにも
そう連絡して
乾杯した
お酒があんまり強くない僕は
幹事ということもあり
オレンジジュースで
他の5人は
ビールに日本酒に
わいわい楽しそう
会話には入れないけど
みなさんが楽しかったら
それでいいかな
遅れると連絡のあった3人も
続々到着して
いっぽうでけっきょく
お開きの時間になっても
残りの3人は姿を見せずじまい
僕以外の8人は
幹事ありがとうねの一言もなく
さっさと次のお店へ
消えて行ってしまった
それはいいけど
宴会コースの支払いをどうしよう
みなさんせめて
自分の飲食代くらいは
払うと言ってほしかったな
--
うんなるほど
こんな感じなのか
新入社員の試練といえば
飲み会の幹事
いまどき減ったとはいえ
まだまだ根強い文化なのだな
予約した時間に誰も現れず
宴の輪にも入れない
そして誰からも感謝されず
挙句には支払いまでなんとか
自分でやりくりするという
(ここは疑問が残る)
でも僕はとっても
恵まれているんだと
そう自覚してる
だってふつう
学生のうちから
ありえないでしょ
--
ゆくゆくは父から
経営を任されることになる
その前にまずは
他所の企業で
何年か武者修行する
その武者修行の準備のために
父の会社の人たちに
協力してもらって
幹事の痛みを体験するなんて
「領収書ください」
そう言って
宛名に書いてもらうのは
父の会社の名前…
えっと
前株だったか
後株だったか…