『些細なことを気にし過ぎる病に罹っている』

わたしは

些細なことを気にし過ぎる病に罹っている

しっかりと医師の診断を

受けたわけではないのだけど

自分のことは

自分がいちばんよくわかっている

昨日の上司の小言が

延々耳に残っているし

今朝パートナーから言われた嫌味が

ぜんぜん消えない

どちらも理屈で考えれば

ほんの些細なことにすぎないのに

それをわかっているのに

ずっとずっと考えてしまう

だからわたしは

些細なことを気にし過ぎる病の罹患者

あっ

玄関の鍵を閉めたっけ

もう電車に乗ってしまっている

降りて自宅に戻ろうか

でも会社に遅刻してしまうな

ちがうちがうそんなことよりも

燃えないゴミに出した使い古しの包丁

しっかり新聞紙でくるんだけど

なんだか甘かった気がする

収集する方が怪我をしてしまうかも

場合によっては目などに刺さって

わたしは不名誉に立派な傷害罪

最悪のケースは殺人罪あるいは

殺人未遂罪で捕まってしまうかも

そうしたらどっちにしても会社なんて

解雇されてしまうのだから

やっぱり自宅に引き返そう

次の駅で降りる

上司に電話を掛ける

ほんとうの理由が後ろめたいから

パートナーが急病ということにする

心の中でパートナーには謝罪して

電話の向こうの上司は

お大事にとひと言だけ

あぁ嘘がバレたかな

きっとバレてる

疑われている

だからもういちど電話を掛ける

ほんとうなんですと

上司は疑っちゃいないよ大丈夫だよと

適当な相槌を打つ

なんだか不安だし何より悔しいので

やっぱり会社に向かうことにする

あっ

スマホの充電が切れた

わたしとしたことが

警察に疑われてしまうかも

捜査の目を晦ます手段で

よく使われるっていうから

あぁ万が一捕まったときに

無闇に量刑が重くなってしまう

モバイルバッテリーを買うために

次の駅で降りようかな

会社で充電すればいいのだけど

私用のスマホを充電したら

こんどは窃盗罪も重なって

パートナーにせめて

お別れのメッセージを送信したいけど

肝心のスマホが使えない

もうわたしの人生は終わりかも

だってわたし

重大な悩みばかり抱えているし

わたしは不名誉に立派な

重犯罪者だし