『鞍上の兄弟』

私たちの交渉は決裂し

結果として

この国に多大な損失をもたらした

外務大臣の座を更迭され

もはや自分の存在意義を失った私は

公職を辞して下野げやした

彩りの多い街並みに見送られて

荒涼とした野原を進む

数十年ぶりにみる

ふるさとの風景

両親はとうの昔に他界

日夜勉強に明け暮れた私には

ただ一人の友人もなくて

兄が出迎えてくれた

「なに、ゆっくり山羊飼いでもやろう」

山羊を撫でることさえ

まともにしたことがない

「ちょっと散歩でもしないか」

首都から飛ばしてきた高級車を

兄の操る馬に乗り換えて

「変わってないだろ、このあたりは」

言う通りだった

寂寞せきばくと丈の短い草が

ところどころに生えている以外は

地平線まで何もみえない

その視界を遮るように

無機質な建造物がただひとつ

視界の右から左へ長く延びる

鉄製のパイプライン

「おまえと違って俺は難しいことは苦手だ」

兄が口を開く

「だけどなんだか虫の知らせがあってな」

朴訥ぼくとつと兄は続ける

「パイプに穴、開けといたぞ」

戦慄が走った

私が唯一信頼できる人

これまでも幾度も

私は兄に導かれてきた

そんな兄の背中が

数十年の時を経てさらに

たくましく大きく感じられて

「ざまぁ見ろだよな」

手綱を引きつつ振り返った兄は

そう言って私に微笑みかけた

私もニコリと笑って

兄の肩を揺すった

鞍上あんじょうで兄にしがみつく私は

これから山羊の飼い方の

猛特訓を受けることになる

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Q国東部を走るパイプラインが破損し天然ガスが漏出した結果、Q国全土に渡って天然ガスの供給が停止するという事件が起こりました。
エネルギー当局は早期の復旧に努めるとともに原因の究明を急いでいるとのことです。
この影響によりQ国では発電所や工場が操業停止を余儀なくされ、人々の生活に混乱を招いています。
R国南部の天然ガス採掘場からQ国へ延びるパイプラインはおよそ４０年前に建造され、こんにちに至るまでQ国の工業の下支えとなっています。
なお昨今のエネルギー資源の価格高騰に伴いQ国と供給国のR国との間で価格の見直し交渉が行われていましたが、両国りょうこくの交渉は決裂、外務大臣が更迭された直接的な要因となっていました。
この交渉決裂と今回のパイプライン破損の因果関係については、現段階では判明していません。