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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年9月の記事一覧

『ぼぼうん忘年会申込み書』

『ぼぼうん忘年会申込み書』

「介辺さん、ちょっとよろしいでしょうか?

「またぁ?こんどはなにぃ小林ぃ、、課長…

「これなんですが…

「なぁーんでまた、小林ぃ、、課長が持ってるの

「こんな書類、絶対に出しちゃだめですよ…

「ワープロがうまくて僻んでるんだな!

「まだ配布はしていないですよね?

「関係ないだろ!

「関係ありますよ!私には管理責任があるんです

「年下のくせにいつも生意気だぁ!

「そうじゃないんで

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『需要』

『需要』

「9月17…羽田発新千歳行きAMA165便ね、はい、ありますよ」

商売は上々

「あぁ新幹線もあるよ、うん。品川から京都?いつ?」

広告なんて一切出していなくても

「電子チケット?OK!転送するからスマホ出して」

いくらでも需要はあって

「8月?お盆の?それならたくさん。なんでも言って」

ちょっとした人脈を使って

副業でひそかに始めた

チケットショップ

どんな行先でもご用意します

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『”パスワードが間違っています”』

『”パスワードが間違っています”』

”パスワードが間違っています”

おかしい

そんなはずはない

もう一度入力する

”パスワードが間違っています”

きのうまでは

ちゃんとログインできた

ブラウザに保存されていたキャッシュが

いつのまにか消えていて

”パスワードが間違っています”

だぁーからぁー

そんなわけないって

大文字と小文字もしっかり確認したぞ

”パスワードが間違っています”

俺は何をするにも

基本的

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『傭兵』

『傭兵』

宇宙を漫遊する

ロケットの船内で生まれ

歳を重ねながら

星から星へと移り住んだA氏には

故郷という概念が理解できなかった

さらにいえばA氏は

母の身体から胎児として

生を受けたわけでもなかった

だからA氏は

傭兵としては

もってこいだった

またこんども

星間戦争の片割れに雇われた

戦況は芳しくなく

劣勢に立たされているのは明白

どうやらこちらの部隊は

傭兵だけで編成

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『「加盟店はですねぇ…」』

『「加盟店はですねぇ…」』

「あぁ!手数料はいらないんですよ!」

そんなうまい話

「それから支払いは、翌々日に!」

電子マネーの加盟を勧められた

祖父の代から続けている

焼鳥の店

ウチと隣の

お好み焼き屋しか

この駅前には

飲めるような場所はなくて

クレジットや電子マネーの勧誘は

これまでも腐るほどあったが

俺はすべて断ってきた

現金に勝るものなし

手数料なんぞ

引かれたらかなわない

掛け払い

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『こっち側にいますよ』

『こっち側にいますよ』

「ううん…やはり僕は…認めかねます…」

阿非隈リーダーは

きょうも首を縦には

振ってくれなかった

「あまりご無理は…お身体に障ります」

息子ほどの歳の上司が

私へ気を遣ってくれているのは

痛いほどにわかる

ところが私たちにも

生活があって

「ましてや奥様も揃ってだなんて」

子を持たない老夫婦

元の仕事は二人ともリタイアしたが

身体だけは無闇に丈夫だ

年金だけでは心許ない

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『|Repeat after me, Mohorovičić discontinuity《リピィーラフラミィ マハラーヴィチェク ディスカンッヌイリ》.』

『|Repeat after me, Mohorovičić discontinuity《リピィーラフラミィ マハラーヴィチェク ディスカンッヌイリ》.』

「Repeat after me, Mohorovičić discontinuity.」

堪らない

「Mr. Yamada, please.」

悩殺とは

このことを言うのだ

「Do you listen to me?」

猪苗代エレン先生

クラスの男子の視線を

いつも釘付けにしている

そのエレン先生が

青い瞳をじっと俺だけに向けて

直視できない俺の視線は

自然と下の方

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『実家が太い』

『実家が太い』

実家が太い

なんなら太すぎて

逆に不自由まである

--

なんだか自分は友達とは違うって

気づき始めたのは小学校高学年から

親の意向で公立の学校に通ったから

その差は傍目から見て

歴然としていたと思う

友達が連れ立って下校するのを

羨みながら僕は

お迎えの車に乗って

(お察しの通り黒塗りの高級車)

そのまま帰宅して家庭教師

受験勉強と

ヴァイオリンと

体操と

日替わ

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『誰に感謝したらいいのかわからないけど』

『誰に感謝したらいいのかわからないけど』

モノレールには人身事故がないから良い

その代わりに

台風などの影響は多いものの

転勤を命じられた先の

会社の借り上げマンションは

最寄駅がモノレールだった

高所恐怖症の僕にとっては

死活問題

たまに観光目的の親子連れなどが

良い景色だなどと言っていると

こっちの気も知らないでと

不条理な怒りが込み上げてくる

自転車通勤をしようかと思ったけど

真夏の暑さや

大雨へ立ち向か

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『持っていたビジネスバッグは脇に挟み』

『持っていたビジネスバッグは脇に挟み』

胴上げの瞬間

俺はまるで選手かのように

ひれ伏して

涙を流していた

--

8歳になった息子が初めて

プロ野球を観てみたいというから

チケットを買って

意気込んだ

週末の試合は満席で

仕方がなく

平日のナイターを

それでもだいぶ

運は良かったようだ

なぜならそのゲーム

ヤ・リーグ万年最下位球団

甘枝ユトリンズの

9月の消化試合

とはならず

その日勝てば優勝が決ま

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『飛蚊症』

『飛蚊症』

私の網膜には

時季を問わず

黒い点が行き交っていて

飛蚊症と呼ばれる

病気ともいえないその

やっかいな虫は

ときに私の神経に針を刺して

腫れさせて

苛立ちを与えてくる

日頃の生活の圧迫に

潰されそうなとき

青い空を見上げる

なぜか蚊は飛んでいない

ささやかな幸せがあって

それを噛みしめようと

これまた青空に目を向ける

そんなときに奴は現れて

ちょっとした幸福感が

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『|的《テキ》なやつにするわけないんであんしんしてください』

『|的《テキ》なやつにするわけないんであんしんしてください』

ツナっていうのはそもそも

マグロっていみなんだ

そんな講釈

妻の耳に届くわけもなく

私の買ってきたのは

サバのほう

だそうだ

ツナ缶に

サババージョンがあるなんて

半世紀生きてきて

初めての知識だよ

あぁそうかなるほど

去年あたりから

発売したんだろう?

そんなわけはなくて

前妻は料理をしなかったから

私もお使いにいくことがなかった

いやそんなことを懐かしんでも

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『いっぽうワタクシ田中は』

『いっぽうワタクシ田中は』

「ふたりとも11月は、行くの?」

きょうの昼休み

こんな係長からの問いかけに

「はい!もちろんそのつもりです」

新入社員の弥生さんが

ハキハキと答えて

「やっぱり行くよねぇ!」

「はい!だって三年ぶりの開催ですから」

僕には卯月係長の問いかけが

何を指しているのかわからず

恐る恐る

逆質問をしてみた

そしたら

「田中くん、11月の祭を忘れるなんて!」

「田中先輩…しっか

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『「ねぇパパ、とってもきれいな流線型だね!」』

『「ねぇパパ、とってもきれいな流線型だね!」』

「ねぇパパ、とってもきれいな流線型だね!」

「ほんとうだね、とってもきれいな流線型だ」

有人小型旅客機が普及した未来

都市生活はよりコンパクトさを求められていて

「ねぇパパ、前を見ていなくていいの?」

「見なくていいんだよ、ユーチューブとか見てていいよ」

当然ながら操縦は自動で行われるから

着座体制は空力を優先して設計されている

「ねぇパパ、なんだか危なそうだよ?」

「そうだね、

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