『傭兵』
宇宙を漫遊する
ロケットの船内で生まれ
歳を重ねながら
星から星へと移り住んだA氏には
故郷という概念が理解できなかった
さらにいえばA氏は
母の身体から胎児として
生を受けたわけでもなかった
だからA氏は
傭兵としては
もってこいだった
またこんども
星間戦争の片割れに雇われた
戦況は芳しくなく
劣勢に立たされているのは明白
どうやらこちらの部隊は
傭兵だけで編成されて
正規軍はあぐらをかいているよう
もっともそのほうが
練度も士気も高いわけで
ところでこの時代
ロケットが光の速さを超えてもなお
さいごは白兵戦となる
対する相手の闘志は半端ではなく
我が星を守らんと
鼻息の荒さが
手に取るようにわかった
堕ちる
このままでは
我が雇われの星が
堕ちる
そんなことになったら
きゅうりょうが払われない
ばあいによっては
いのちを失うことになる
A氏は息巻いて
周囲を鼓舞した
他の傭兵たちも
それに続いて
帰る場所もない
愛される家族もない
ある意味で無敵の
傭兵部隊が
星を守る
もはや空間と時間は意味をなさず
地球から
光の速さで500万年先の
小惑星を舞台に
1000万年も未来の
私たちの子孫が
現在の地球の存亡を懸けて
他の星の連中と
戦ってくれているなんて
誰も知らないだろうし
想像しえないだろうね
って新宿駅のホー無レスが
寝言で語ってたんだ
俺は酔っ払って終電を逃し
隣でお邪魔してたってわけ
どうせ家族もいないから
自由な身
俺は昨日と同じシャツのまま
雇われ先に出勤することに
どうせ部屋に干してあるのは
生乾き
守るものなんて
あるんだかないんだか
わかりゃしない
そんなことより
きゅうりょうが欲しいし
いのちは惜しい
少しでいいからみんな
夜空を見上げてみろよ
どこかでだれかが
じぶんのために
戦ってくれているかも
しれないんだぞ