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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年5月の記事一覧

『櫃沢ボウル』

『櫃沢ボウル』

父と母の初デートの場所だった

櫃沢ボウルが閉まるという

爺ちゃんも晩年

健康促進を謳って通っていた

地元唯一のボウリング場

たぶん歴史は60年くらいあって

そんな場所だから

ボウリングを趣味にしていなくても

この街に暮らしていて

思い出のない人はいない

閉館の噂はたちまち広がって

ここ数年は閑散としていた

櫃沢ボウルも

平日でも待ち時間がでるほど

そんな具合だから

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『旧い哲学の話』

『旧い哲学の話』

旧い哲学の話を思い出した

旧いといってもいつのことだか

そんなことはわからなくて

旧いといっても

古代ギリシャのだとか

そういうことではなくて

自分が大昔に聞いた

あるいは

自分で考えた話だと思う

人間がずっと不幸なのは

(そうでしょ?)

もっとこうしたい

もっとああなりたい

という欲求があって

その対象が目に見えているから

対象物を手に収めたら

間違いなく次の獲物

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『[音量] ||||||』

『[音量] ||||||』

[音量]
||||||

--

(薄暗い台所で母子の夕食)

息子「…ぁさ……こっ……

母「でも……

(食器と箸がぶつかる音)
カチャ、カチャ

息子「…ち…ぃ……

母「まっ………さい!

--
視聴者甘枝「(音量あげるか)」

[音量]
||||||||||||
--

息子「…が…どうしても……じかん……

母「それはなんとか……

息子「なんにもわかってねぇじゃん

母「そんな…が…

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『もこもこしてるから好きだ』

『もこもこしてるから好きだ』

もこもこしてるから好きだ

あれはもこもこしている

犬種の名前をよく知らないので

なんともいえないが

白くて

もこもこしている

隣家の子犬が

とてもかわいい

うちで飼いたい

ペットショップで

同じ犬種を…

ということではない

あの子がいい

もこもこしている

とってもいい具合に

もこもこしている

これまでみた

子犬のなかでも

ベストなもこもこ加減

これはもう

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『年功序列の御願い』

『年功序列の御願い』

「介辺さん、ちょっとよろしいでしょうか?

「なに小林ぃ、、くん…

「これなんですが…

「なぁーんで、小林ぃ、、、くんがもってるの!

「こんな手紙、社長に出しちゃだめですよ…

「だからなぁーんで!

「複合機のとこに出てましたよ

「なまいきなんだよ小林ぃ、、、くん!

「まだ提出はしていないですよね?

「関係ないだろ!

「関係ありますよ!私には管理責任があるんです

「そういうところ

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『「まぁ簡単にいえば、バールのようなもので…」』

『「まぁ簡単にいえば、バールのようなもので…」』

「まぁ簡単にいえば、バールのようなもので…」

いまどきありえない

あまりに危ない試みだ

「夜中なら、だいじょぶだろ?」

二十年来の親友の呼びかけに

俺は困惑した

「まとまったカネが要るわけよ」

もちろんカネは欲しい

しかし

俺にはそんなこと…

「なにかあったときは、俺が責任を」

どう責任を取るというのだ

親友といえども

それはそれ

「それならせめて、後片付けだけでも」

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『「おはようございます、失礼します」』

『「おはようございます、失礼します」』

「おはようございます、失礼します…」

山路さんは心が病みがちで

会社に来られないときは

奥さんが出社する

「山路は体調を崩しておりまして…」

コッチ側ももはや手慣れたもので

皆あぁやっぱりといった反応

きのうから二日連続

やっぱり

週初めが多くて

「きのうの続きで、よろしいでしょうか…」

そもそも山路さんには申し訳ないけど

あまり重要な仕事は

お任せしていないし

業界知

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『快楽王 エ口キサンドル・ドス・ケべスの一生』

これは昨今巷を賑わせているいかがわしい二次元三次元創作の話ではない。

世界史に燦然と刻み込まれた、ある好色男の物語。

工口キサンドル・ドス・ケべス(Eloquisandol dos Quevez 1545生~1588没 座位、じゃなくて在位1560~没)は、父ハメスギィスとその第12側室ド・デカメロンの間に生まれた。

股の名を、ノン、又の名を「快楽王」という。

69人(諸説あり)という兄弟

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『ふつうの陰キャに』

『ふつうの陰キャに』

修学旅行なんて

いくつもりないわ

ともだちいないし

運動神経もわるい

スキーなんて最悪

ひとり温泉で

ゆっくりさせてもらえるなら

考えてもいいけど

だから両親には

旅行代の積立のプリントは

見せてない

担任には

うちはびんぼうなんで

って言って

ごまかすことにするわ

--

コクられた

陽キャの女子に

コクられた

卑屈になって

教室の隅にいた1年生の春

あれ

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『「でも、一生モノだし…」』

『「でも、一生モノだし…」』

値札を見て驚いた

なんと私の年収の倍

こんな代物

とてもじゃないが

娘に買い与えるなど

「ローンかしらね」

妻は簡単に言うけど

まず自宅のローンが

たっぷり残ってるだろう

それから

君はたしか

歯の矯正をしたいと

言っていたよな

私も我慢しているけど

新しい車が欲しいよ

海外製ならもっと安いはず

いちおう妻にはそう伝えるが

「だめよ、国産でなきゃ」

まぁその返事

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『立派な堆肥になってください』

『立派な堆肥になってください』

いちばんエコなやり方は

土に還ってもらうこと

これ以上

地球が汚されるのを

指を咥えて

見ていろとでもいうの?

わたしたち人類は

生まれながらにして

罪が深いんだね

環境のことを学べば学ぶほど

そんな想いに駆られて

ジャンクフードばっかりの旦那は

ケチャップに薬を混ぜて

屠った

実家が山を持っていて助かる

大きな穴を掘って

埋めた

立派な堆肥になってください

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『その晩ただ一人の宿泊客は』

『その晩ただ一人の宿泊客は』

おんなひとり

高原のコテージでキャンプ

他にひとはいないから

妙な心配や気遣いは無用

反対に

獣や災害が

ちょっと怖いけど

そろそろ眠りにつこうかなって

夜空を見上げたら

偶然にも

流れ星を見つけた

その流れ星は

わたしに

いっしょについておいでと

呼びかけている気がして

一瞬のうちに

地平線の先に消えてしまったけど

わたしは

その流れ星に引かれるままに

ふら

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『ポエム『趣味田川』』

『ポエム『趣味田川』』

ポエム『趣味田川』

東京の下町を流れる趣味田川

両岸には江戸の風情を残す建物も

たくさんあるという

田舎育ちのわたしは

実はまだ

東京にいったことがなくて

この夏こそ

休みを利用して

東京観光に

そして

趣味田川の花火を

観ようと思っていたのだけど

今年も残念なことに

夏の風物詩

趣味田川の花火大会は

中止になってしまったらしい

もし花火大会が開催されたら

きっ

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