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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年1月の記事一覧

『ただただセクシーな人を採用した 及び 「あぁん!あぁん!もっと言って!』

『ただただセクシーな人を採用した 及び 「あぁん!あぁん!もっと言って!』

ただただセクシーな人を採用した

従業員への福利厚生のために

ただただセクシーな人は文字通り

セクシーさを除いて

何の能力も持たない

ただただセクシーな人は

出社すればひたすら

従業員たちへ色気を振りまく

他の仕事は

一切与えない

さすがと言ってはなんだが

ただただセクシーな人の色気は

やっぱり半端ない

従業員たちは

ただただセクシーな人を

快く招き入れた

ところが

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『「犯人はこのなかにいる!」』

『「犯人はこのなかにいる!」』

「犯人はこのなかにいる!」

言えた

言ってみたかった

不謹慎ながら

刑事でも探偵でもなく

ただのミステリー好きの私に

この一言を発する機会を恵んでくれた

神様に感謝したい

妻は相変わらず不安なのか

無表情に私の顔を見つめている

だが心配はいらない

私たちは安全な場所にいる

これ以上の被害は出ないであろう

三人もの犠牲を出した

惨たらしい猟奇殺人も

これでおしまいだ

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『(銘柄で地域特定されるから伏せるわ)』

『(銘柄で地域特定されるから伏せるわ)』

ひょんなことで電動キックボードを入手したのと、たまたまこれももらい物でたくさん自宅にあったカップ焼きそばのおかげで、俺は移動カップ焼きそば屋とかいう画期的な商売を思いついた。

IKEAのあのデカい袋にカップ焼きそば(銘柄で地域特定されるから伏せるわ)を何個も詰め込んで、つってもそんなに重くないからいける。

問題はお湯。お客さんにはその場で食ってもらいたいじゃん。だからポットにお湯入れていちおう

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『何も知らないだろって言われて』

『何も知らないだろって言われて』

医療モノを書きたいけど

医療の知識がないから

筆が進まず

歴史モノを書きたいけど

歴史の知識がないから

手を付けられなくて

軍事モノを書きたいけど

軍事の知識がないから

諦めざるを得ない

散文を綴りたいだけなのに

知識を極めていないから

稚拙な文章になる

ラーメンを食べたくても

ツウじゃないから

注文をためらう

たまにはオシャレをしたくても

センスがないから

あり

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『見失うことがあった』

『見失うことがあった』

追い詰めた

思えば長い年月が過ぎた

もう三十年ほど前になるだろうか

世の中を騒がせた

あの連続殺人事件

捜査本部はとうに解散

関心を失った上司や同僚からは

疎ましがられて

しかし私は

粘り強く

追い詰めた

もはや被害者の遺族たちすら

他界しているものも多く

この捜査に

この犯人逮捕に

どれだけの意味があるのか

私自身も

見失うことがあった

しかし

いまこうして

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『「お義父さん、はいお餅どうぞ」』

『「お義父さん、はいお餅どうぞ」』

「お義父さん、はいお餅どうぞ」

今年は例年になく露骨

じいちゃんに対する

母の餅テロ計画

俺の小さい頃から

この習慣は続いていて

なんでじいちゃんにばっか

餅を食べさせるのかなって思ってた

ネットで偶然目にした記事で

いろいろと察した

正月三が日は当たり前

それが過ぎてからは

午後のおやつに毎度

餅が出される

じいちゃんはわりと餅が好きみたいで

特に文句を言うこともな

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『ちなみに私は5回ほど回答して』

『ちなみに私は5回ほど回答して』

「ヨシコサンハ、リンゴヲイツツ、バナナヲサンボン」

突然のアナウンスに驚いた

「タイセツソウニ、リョウテニカカエテイマシタ」

いったん聞いてみる

「ソコヘ、ハナコサンガヤッテキテ」

ほう

「リンゴヲニコ、リャクダツシテイキマシタ」

略奪て

それにバランスがわりぃのよ

「ソノトキノ、ヨシコサンノキモチハ?」



これに答えるの?

えぇっと

バナナも持って行けばいいのに

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『返礼の品』

『返礼の品』

楽しみにしていた品が届いた

仕事に明け暮れた週末の休日

すべてのストレスが吹き飛ぶほどの

無類の喜び

荷物を受け取るやいなや

すぐに開封

妻と子供たちが

手を伸ばそうとするのをキツく制し

大人げなくも私は

独り占めする

君たちとは抱えてるストレスが

段違いなんだぞ

この逸品

都会でも味わえないことはないが

なかなか私のような庶民には

手が出ない

あるとき付き合いの席

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『そろそろいつもの業者さんが』

『そろそろいつもの業者さんが』

「おかけになった携帯電話は、電波のとど…」

もう今朝から10回以上はかけているけど

いっこうに繋がる気配はなくて

そろそろ警察に届けたほうがいいかも

とか

ご家族の連絡先を調べようかな

とか

昨日の晩はめずらしく雪が降って

二人で残業していたから

会社の近くで一緒に夕食を済ませて

転ばないように気をつけないとね

なんていいながら

Nちゃんとわたしは

駅で別々の方向へ

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『昔は良かった』

『昔は良かった』

昔は良かった



父の口癖

わたしは小さい頃からずっと

この言葉を刷り込まれていて

良かったという割には

具体的になにが良かったかを

語ることもなくて

二十年経っても

三十年経っても

昔は良かったって言うものだから

父の指す昔っていつなんだろうと

ときどき考えたりするけど

それってあまり意味のない行為

きっと父は

二十年前

三十年前から

きっともっと前から

ずっ

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『”嫌いな奴 高価買取します”』

『”嫌いな奴 高価買取します”』

”嫌いな奴 高価買取します”

単純でバカな俺は

そんなチラシに

心が躍った

自分が嫌う人間の名前と

おおよその居場所

それと連絡先を教えるだけで

自分の口座にけっこうな金額が

即時に振込まれる

最初は疑心暗鬼な面もあったけど

実際にやってみたらかんたんかんたん

口座残高がぐんぐん増える

不労所得ってのは

こういうことを言うんだな

俺のことをいじめてたあいつ

俺からの告

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『俺は先頭でぼうっと様子を眺める』

『俺は先頭でぼうっと様子を眺める』

高速の入口にほど近い

片側三車線の幹線道路

俺の場合は港からの積荷を拾って

山奥の工場へ運ぶってことで

だいたい週に二回はここを通るわけ

ある日の昼どき

その交差点で

俺は先頭で赤信号が変わるのを待ってた

そしたら

黒髪が腰くらいまで長くて

白いワンピースに裸足

包丁持った女が飛び出してきて

交差点のど真ん中でわめいてる

青に変わったけど

これじゃ動けない

どうすんだ

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『素敵なテニス仲間を持っているようで』

『素敵なテニス仲間を持っているようで』

ちょうど南にひらけて陽光が差し込み

眼前の池がきらきらと眩しい

その池を挟んだ向こうの小高い丘は

白樺の林で隣家とのほどよい目隠しになって

午前中はどうしても瞼が重い

頭も冴えずぼうっとする

すでに書き溜めた原稿があったから

それを吐き出すことで今日は事なきを得た

妻は仲間とテニスに出かけたみたいで

おそらく夕方までは帰宅しないだろう

いつも私に一切の断りもなく

勝手に出かけ

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『「あぁカレー、ほんとに美味しかった」』

『「あぁカレー、ほんとに美味しかった」』

「あ、無加水調理か」

いきなり否定的なニュアンス

「これってさ、トマトと玉ねぎ」

とりあえずうなずく

「大量に入れてるよね」

わかってるじゃん

「甘酸っぱいんだよね」

どうやら彼の好みじゃないんだって

前のオンナがそういうの好きで

さんざん食べさせられて

嫌になって

って

んじゃあ

わたしこそ

理解してあげるべきかな

「カレーは好き」

そうなんだね

「それで、ごめ

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