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『”嫌いな奴 高価買取します”』


”嫌いな奴 高価買取します”


単純でバカな俺は

そんなチラシに

心が躍った


自分が嫌う人間の名前と

おおよその居場所

それと連絡先を教えるだけで


自分の口座にけっこうな金額が

即時に振込まれる


最初は疑心暗鬼な面もあったけど

実際にやってみたらかんたんかんたん

口座残高がぐんぐん増える


不労所得ってのは

こういうことを言うんだな


俺のことをいじめてたあいつ

俺からの告白を断ったあいつ

それにあいつも

こいつも

みんな買い取ってもらった


実際その業者が

何を目的として

どんな方法で

奴らを買い取っているかは

よくわからない


しかしそんなことはどうでもいい


俺の口座には

どんどんカネが振り込まれる


そろそろしょうもない仕事は辞めて

(バカな上司は売ったけど)


こんなボロアパートからは逃げ出そう

(うるさい隣人も売った)


あぁせいせいする


ピンポーン!


仕事にも行かなくなったし

カネはたんまりあるわで

張り合いがなくて

居眠りをしていたある日


ダークスーツに身を包んだ屈強な男が数人

俺が玄関の戸を開けるが早いか

部屋になだれ込んできた


「引き取りに参りました、さぁ!」


抵抗の間もなく

俺は目隠しにさるぐつわをされ

手足を縛られる

クルマに放り込まれたと思ったら

他にも同じような奴らが何人かいて


数時間揺られて着いた場所は

テレビやネットでしか見たことのない

あの闇の作業現場


全身を覆い

顔だけが覗く白衣のようなスーツを着て

作業をしている人間がたくさんいる


なんの作業かは詳しく教えてはくれない

とにかく

これをあっちへ

あれをこっちへ

指示された通りに動けば良いらしい


指示に歯向かうことの困難さは

この現場への道中と

作業場の静寂

ピリついた雰囲気で察する


休みは

いつなのか


帰りは

いつなのか


そもそもなぜ

俺はココへ


嫌いな奴を売り払って

不労所得の楽園を手に入れたはずが


そんな思いを抱えながら

隣で作業をしている人間の

顔を覗いた


あれ?

こないだ俺が売った

上司じゃねえか





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