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『「あぁカレー、ほんとに美味しかった」』


「あ、無加水調理か」


いきなり否定的なニュアンス


「これってさ、トマトと玉ねぎ」


とりあえずうなずく


「大量に入れてるよね」


わかってるじゃん


「甘酸っぱいんだよね」


どうやら彼の好みじゃないんだって


前のオンナがそういうの好きで

さんざん食べさせられて

嫌になって

って


んじゃあ

わたしこそ

理解してあげるべきかな


「カレーは好き」


そうなんだね


「それで、ごめん、レトルトでいいよ」


あぁそういうことね


わたしも別に

レトルトでいいよ

なかばヤケになって

そう返事した


「いや、気持ちはうれしいんだけどね」


こちらこそ

率直に言ってくれてうれしいよ


「なんていうか、遠距離だからさ、その」


遠距離だから

心をこめて準備してたって側面は

たしかにある


「罪深いんだよ、もったいない」


どういうこと?


「キミの美味しい料理が」


まずいなら

ハッキリ言ってほしいな


「キミを見つめる時間を、奪ってしまうんだ」


んあーーーーー

なあーーーーーにそれもう

んやだぁーーーーー


「だから買い出しはさ、せめて先に」


ごめん


「7時間煮込むなら、なおさら」


たしかにずっとお鍋の前だった


「あ、そろそろ帰るわ」


突き詰めて

突き詰めて

突き詰めて


ようやく美味しいカレーがって

急に呼びかけて

高速バスに飛び乗ってくれた彼には

感謝しかありません


月曜からお仕事

またがんばってね


「あぁカレー、ほんとに美味しかった」


そっか

無加水苦手っていうのは

建前だったんだね


なんだか気を遣わせて

ごめんなさい


それだけで

申し訳ないけど

救われた気分


「おかわり、ほしかったな」


あぁ良かった

もっと大きいお鍋で

今度から作ります


それからおみやげも

用意するね


わたし

がんばるから

















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