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『見失うことがあった』


追い詰めた


思えば長い年月が過ぎた


もう三十年ほど前になるだろうか

世の中を騒がせた

あの連続殺人事件


捜査本部はとうに解散

関心を失った上司や同僚からは

疎ましがられて


しかし私は

粘り強く

追い詰めた


もはや被害者の遺族たちすら

他界しているものも多く

この捜査に

この犯人逮捕に

どれだけの意味があるのか

私自身も

見失うことがあった


しかし

いまこうして

ホシを目の前にすると

続けていて良かったと

つくづく思う


被害者も

その遺族も

少しでも報われることだろうと

そう思った


当然ながら

ホシもだいぶ歳をとっており

手配写真の面影はわずか


だがコイツに間違いない


路地の突き当りでタバコを吸う男


「あの男に、間違いないんですね?」


職質をして

任意同行を求めろと

唯一私にあてがわれた

若き相棒に指示をした


「わかりました」


私は物陰からひっそり見守る

男に近づく相棒

しかしなぜか寸前で立ち止まり

声をかけることはしない


それどころか踵を返して

相棒が戻ってきた


「いまスマホ見てるから、後にしましょうよ」


気配を察したホシは

塀を乗り越えて逃亡した

やっこさん

まだ体力は有り余っているようだ


いっぽう私の老体のほうは言うことを聞かず

追跡もままならない


「行っちゃいましたね」


相棒にとってはまるで他人事


署に応援を頼んでも

相手にされないだろう






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