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レントよりゆったりと〔随想録〕

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2023年3月の記事一覧

3月のカタルシス 【エッセイ】

3月のカタルシス 【エッセイ】

新年が始まってから、断片の寄せ集め本しか読めない、断片的な詩文しか書けないといった日々が続いていたが、3月はそれよりはまとまった時間が取れたように思う。仏像を観に行ったり、中編小説を読んだりして、そのことを散文にしたためることもできた。
生活のわずかな違いを体感したことで、ますます「人間には物語の力が必要だよな」という認識を強くした。つまり、断片は確かに大事だが、その組み合わせや並べ方次第でいかよ

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人間らしさ【エッセイ】

人間らしさ【エッセイ】

幼少期に過ごした家の前に小さな林があった。住宅用敷地5-6戸分くらいの広さだったろうか。当時はすごく広くて深い森に感じられた。朝になると辺りに靄が立ちこめ、キジが舞い降りてくることもあった。
今でも鮮やかに思い返される。冒険とは名ばかりの無目的な散策。帰宅後に顔や手足がぶつぶつ痒みを帯びてきて、ウルシかぶれというものを勉強した。また倒木に腰を下ろしては蟻の軍隊の行進をいつまでも眺めた。それで飽き足

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売っていなくて立ち尽くす【エッセイ】

売っていなくて立ち尽くす【エッセイ】

愛用のボールペンが逝ってしまわれた。
完全に破損したボディを見下ろす僕。脳内でちーんと〈おりん〉の音がした。本当に。
仕事具のひとつだったため早急に新しいものを用意する必要があったのだが、数週間そんな気も起こらず(そんなに長く!?) 職場に転がっている半共用のボールペンに手を伸ばしては、返したかどうかも定かでない虚ろな日々を過ごした。

先日、別件で本屋に立ち寄った際、隣接するステーショナリーコー

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仏像、やっぱ好きやねん 【エッセイ】

仏像、やっぱ好きやねん 【エッセイ】

行ってきました。
東京国立博物館 a.k.a トーハク
実に3年ぶりくらい、というのはご存知の通りコロナ禍のために人混みを避けていたからです。たぶん同年代の平均的な危機管理意識よりは過敏だったと思います。ウイルスが怖いというよりは、業務内容と家庭状況を鑑みての苦渋の決断でした。

3年前までは上野谷根千エリアは庭みたいなものでした。あの気取らない文化的エリアは、酸素であり、水でもあったのです。

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なけなしの文化的生活【エッセイ】

なけなしの文化的生活【エッセイ】

引き続き、まとまった時間を取れない日々が続いています。小間切れの空き時間は何かを鑑賞するにも創造するにも不十分すぎて、元々の燃費の悪さも相まってすっかり創作活動から遠ざかっています。困った困った。とボヤいてもしょうがないので、この1ヶ月なけなしの時間をはたいて得た文化的生活について振り返ろうと思います。

アマプラで1990年の香港映画「欲望の翼」を鑑賞。本当はタルコフスキー監督の映画が良かったの

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