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仏像、やっぱ好きやねん 【エッセイ】

行ってきました。
東京国立博物館 a.k.a トーハク
実に3年ぶりくらい、というのはご存知の通りコロナ禍のために人混みを避けていたからです。たぶん同年代の平均的な危機管理意識よりは過敏だったと思います。ウイルスが怖いというよりは、業務内容と家庭状況を鑑みての苦渋の決断でした。

3年前までは上野谷根千エリアは庭みたいなものでした。あの気取らない文化的エリアは、酸素であり、水でもあったのです。
博物館の内容・感想を一旦すっ飛ばして、帰宅後、家人が放ったひと言は「見るからに元気になって帰ってきたね」 やはり生きていくのに必要な栄養素がそこにあったようです。笑

それまで定期的に訪れていたトーハク。東洋館の常設展示には、インド→中国→朝鮮半島→日本と東漸してきた仏像を愛でることのできるコースがあります。初期の仏像、ガンダーラ仏やらマトゥラー仏やら、東南アジアの仏像まで備えており、それはそれは素晴らしい空間です。
僕はそもそも文献学が畑のため、宗教美術にはそれほど明るくはないです。でもだからこそまっさらな気持ちで、リラックスして楽しめるという利点もあります。都内の片隅で、遥かなる旅路と、悠久の時を感じられる空間。

感染症の脅威がまだ完全には終息を迎えていない今、なぜトーハクに行ったのかというと、昨年末に館長が切実に訴えた「財政難」の問題を知ったからです。まさか思いもよらなかった。でも冷静に考えてみたら、歴史的史料の保存、温度管理、湿度管理、照明管理、修繕作業、それらに関わる多大な人件費……無尽蔵の財源など(昨今の世において)あるはずがなく、起こるべくして起こったのかもしれません。

国宝を守るのは行政の仕事という意見が多く、僕もそれに賛同していますが、だからと言って何もせずにはいられない。居ても立っても居られない。そんな想いでトーハクに僅かながら寄付をいたしました。そのご縁で、特別展の一般公開前の内覧会に招待していただいたのです。個人的には常設展が無料で見放題というだけで胸熱なのですが、せっかくの機会と思い、3年にも渡った沈黙を打ち破ってきました。

さてさて、特別展は「東福寺」 言わずと知れた仏教臨済宗の総本山であります。
仏教学インド学を学んできた身ですが、実は臨済宗は自身から割と遠いところにある宗派に感じていました。というのも「公案」の存在が、出家していない自分にはあまりに不可解なものだったからです。

日本の禅宗は大きく曹洞宗と臨済宗(とそこから派生した黄檗宗)に分けられますが、曹洞宗は「只管打坐」というスローガンのもと、ただひたすらに坐る宗派です。信仰心がなくとも瞑想を日常に取り入れる人がいますが、坐禅という行為は非常にイメージしやすく、宗教的な教義や儀礼よりもずっと親近感を覚えるもののように思います。

一方、臨済宗の特殊さは先に挙げた「公案」いわゆる「禅問答」にあります。師匠から与えられた問題に対して、弟子が座禅をしながらあーでもないこーでもないと思索し、師匠と問答を交わしていく一連のやりとりのことです。悟りを開くための導きになるそうです。
もっとも代表的な公案を挙げるなら「両手を打ち合わせると音がするが、片手にはどんな音があるのか。それを報告しなさい」でしょう。
僕なんかこの時点で「???????」で、思考停止、思考放棄になってしまいました。笑

難解さだけでなく、公案には師の存在が不可欠です。これはもちろん仏教に限らず全ての宗教に言えることだと思いますが、臨済宗の思想はとりわけ師資相承の色が強いもので、現場の宗教、出家者のための宗教と言えるでしょう。

というわけで、これまであまり触れてこなかった臨済宗。その寺が所蔵する宝の数々を見てきたわけですが、それはそれは素晴らしかったです。
展示の前半は東福寺の歴史をなぞるように、創建者である禅僧、円爾(聖一国師)に始まり代表的な師範らを描いた図像や彫像、ゆかりの書や品などが並べられます。
中盤になると、室町時代を代表する臨済宗の画僧、吉山明兆が描いた墨絵のゾーンに入ります。息を呑むような美しさの白衣観音図、圧巻の迫力で聳える達磨蝦蟇鉄拐図。

そして今展示の目玉である五百羅漢図。一枚の絵に10人の羅漢(修行の最高位に達した仏弟子のこと)が描かれ、それが50枚あるもよう。昨日お目にかかれたのはそのうちの十数枚のみ。期間中に展示替えがあるようです。
1枚1枚に物語があり、どれもがクスリと笑えるコミカルなものばかり。1コマ漫画と言ってもいいかもしれません。展示では吹き出し絵が横に置かれ、宗教画であることをすっかり忘れて楽しんでしまいました。
羅漢らが餓鬼たちに施しの饅頭を与える絵があったのですが、もう餓鬼がゴブリンにしか見えなくて。明兆、ヨーロッパに留学してたんですかね?笑

そして最後の部屋には東福寺所蔵の仏像たちが控えていました。足を踏み入れた瞬間から空気が違いました。ああ、この感覚。ようやく息を吸えた。肌が潤いを取り戻す。細胞たちが喜んでいる!!(キモくてすみません←)
仏像を言葉で表すのは野暮な気もしますので多くは語りませんが、その存在感、威圧感、慈悲深さ、あらゆる属性が一塊となって迫ってくるような感覚でした。仏像やっぱ好きやねん。

というわけで、久々の東京は滞在わずか1時間半でしたが、帰宅ラッシュに揉まれならがらも醒めない興奮に身を委ねていました。最寄駅近くになり座ることができ、図録を開いてみたものの、実物の素晴らしさの1割も伝わってこない。とにかく行って観るべし。行けば分かるさ。ということなのだろうな。

トーハクの特別展「東福寺」は本日から5月7日まで。先ほど言ったように期間中に五百羅漢図の入れ替えがあります。

トーハクには会員制度、寄付賛助会制度のほかに、一口1,000円からの寄付も受け付けているそうです。ご興味のある方はぜひ。

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